15
「ただいま〜…あ」
家に着き玄関の扉をあけると、女性もののローファーがちょこんと置いてありました。私のものではありません。
誰だろうと頭の中で検索しているとリビングのドアが開きました。
「おー、みきなおかえり!」
「!幹也…」
若干ハイテンションな幹也の脇からひょこっと、見たことある女性が顔を出しました。
「久しぶりみきなちゃん!」
「!」
ニコニコ笑って手をふる女性は、幹也の彼女、リコさんでした。
「急にごめんね、押し掛けるようなことしちゃって」
「いえいえそんな」
「リコにみきながマネージャーやるって言ったら、心配してくれてさ」
ソファーに座ってこれまでの経緯を聞いています。
あ、ちなみにリコさんには何回か会っています。初めて幹也が家に連れてきた時の第一声が「俺たち婚約してるから」と言った幹也に対して「黙れ!」と一喝。それが高校1年生の時。かれこれ1年付き合ってることになりますね。今じゃいいお姉さんです。
「はい!これ、私のお古のジャージ!よかったら着てね!」
「!すみません、ありがとうございます…。ジャージ、持ってなくて」
ジャージの入った袋を受けとると、リコさんはニコッと笑いました。
「テニス部のマネージャーかぁ。バスケならいろいろ教えられるんだけど、テニスは専門外だからなぁ」
「いえ、これを貰っただけで十分です。ありがとうございます」
「それくらいしかできないから。頑張ってね、マネージャー」
「はい」
「じゃ、リコどうする?飯食ってく?」
「あー、ゴメン。パパがうるさいから今日は帰るわ」
「じゃあ送ってく」
「あんたぶっ殺されるわよ…。じゃ、みきなちゃんまたね!何かあったら、何でも言ってね!」
「あ、はい。ありがとうございました」
「いいのいいの!」
笑顔で私の頭を撫でたリコさん。
将来この人がお義姉さんになるのかと思うと、自然に笑みがこぼれます。母親が今いない私にとって、唯一甘えられる母親的な存在がリコさんなので。まぁ幹也を父親に置き換えたことはありませんが。
さてと、深司くんを呼んで、鷹那が帰ってくる前にご飯を作っちゃいましょう。
麻婆豆腐でいっか、今日は。
「みきなちゃん、なんか変わったわね」
「え?」
リコが言った。変わった?みきなが?
「最初はもっと…なんていうか無愛想だった」
「…今もじゃね?」
「一緒にいるからわかんないだろうけど、随分変わったわよ。よく笑ってる」
「そうか?」
みきなを思い返してみると、確かに…いや、ほんとちょっとだけど笑う回数が増えた気がする。
でも俺には依然として辛辣な言葉をかける。…なんか悲しくなってきた。
「…多分、リコのおかげだと思うよ」
「え?私?」
「ほら、俺んち両親が単身赴任だから、ぶっちゃけ甘える存在がいないんだよ。あいつは小さいころから1人で家事とかやってたし。リコがいるおかげで、あいつもやっと甘えられるんだと思う」
「…なんか照れるわね」
「まぁ将来的にも、あいつと仲良くしてねリコたん」
「言われなくても。あんたと別れてもみきなちゃんとは交流するもの」
「は!?イヤイヤイヤ、俺別れる気ないからね!?絶対別れてやんないから!!」
「どーだか」
クスクス笑うリコに若干戸惑いながら、俺はリコの左手を握った。
次の瞬間、力がいれられ、強く握られた。どうやら、まだ別れなくてすむようだ。
「リコデレた」
「うっさい」
ふふ、と笑ったら気持ち悪い、と返された。
こいつもみきなに似やがってまったく。
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