12
彼女は、ずっと高嶺の花だった。
俺は何度も手を伸ばして掴もうとしたが、届かない。彼女は綺麗で、儚くて。枯れてしまいそうで、俺はどうしても守りたかった。でも、時間だけが過ぎて、自分の無力さを痛感した。
それが多分、失恋という感情。
だから俺は、次の「花」を見つけ、一生守りたいと思った。
でも、
「佐鳥みきなです。よろしくお願いします」
やはり、彼女には敵わなかった。
「こんにちは。どうされました?」
彼女が来てくれた。
昨日も見たけど、最初見たときとやっぱり変わらない。
可愛かった。
「ああ、昨日のことで長太郎が話があるってさ」
「し、宍戸さん!」
「?」
宍戸さんがそう言ったので、なんだか照れ臭くなってしまった。
慌てて彼女を見ると、頭に?を浮かべた顔をしている。
「何でしょう?」
「あ、いや、えっと…」
声が上手く出せない。
慌てている俺に、宍戸さんが後ろから背中を叩いた。
「あだっ」
「オラ、さっさと言えって」
兄貴肌な宍戸さん。
確かに早く言いたい…けど、呂律が回らない。緊張する。
だって、いつ以来だろう。こんなに間近で話すのは。
「私は大丈夫ですよ。ゆっくり話してください」
「!…う、うん…」
うわぁ、恥ずかしい。
宍戸さん風に言うと、激ダサ。
「…落ち着きましたか?」
「だ、大丈夫…。あの、さ。マネージャー、引き受けてくれてありがとう」
「!」
「ちゃんと言えてなかったから…」
「…ご丁寧にありがとうございます」
「あ、あと昨日は早く帰ってたけど…」
「あ、あれは完全な私の私情です。すみません」
「具合悪いとかじゃねぇんだな?」
「え、はい」
「昨日から長太郎、そればっか気になっててよ。日吉に質問責めだったんだぜ?」
「え」
「宍戸さんっ!」
言わないでくださいよ!恥ずかしい!
恐る恐る彼女を見ると、ポカンとしていた。
うわっ、確実に変な奴だと思われた!
「それは…なんかすみません。練習妨害してしまって」
「あ、いや!大丈夫っ」
彼女は申し訳なさそうに頭をさげた。
ああ、いいのに。謝ってもらいたいわけじゃないんだ。でもよかった。体調が悪かったわけじゃないんだ。
「それで…えと…合宿の間だけだけど、よろしく」
「はい。精一杯頑張ります」
一瞬、彼女が微笑んでくれた気がした。
あの、高嶺の花だった彼女が身近に感じた。
やっぱりあの頃と思いは変わらない。
理沙先輩じゃなく、やっぱり俺の「花」は彼女なんだ。
「緊張した〜…」
「激ダサだったぜ」
急に佐鳥と話がしたいっていうから何かと思ったら…。結局5分もたたずに終了。
しかも顔は赤いし声はどもってるし。学年が一緒なんだから会話くらいした事あるだろ。
「…長太郎、お前さ」
「え?」
「佐鳥が好きなのか?」
「ッ!?」
顔を赤くして目を見開いた。うわ、マジか。わかりやすっ。
「な、なんで知ってっ…」
「さっきのお前見てりゃ一目瞭然だろ。しかも確実にさっきのセリフで墓穴掘ったぞお前」
「あっ!」
今さら気づいたのかよ。
「…でもお前、加藤はどうすんだよ」
「いや…なんていうか…。やっぱり俺、佐鳥さんが好きっぽい…です。一度諦めたけど、やっぱり…」
「……」
よくわかんねーけど
「ウジウジすんな!」
「いたっ!?」
本日二度目の鉄拳。バシンと背中を叩く。
「かっこいいとこ見せつけてやりゃいいだろ!女かテメーは」
「い、痛い…」
「合宿の間くらいだろ、お前が佐鳥にいいとこ見せれんのも!こーいう時にテニスを使え、テニスを!」
「!」
「そうと決まれば、今日から張り切って練習すんぞ。いいな?」
「!は、はい!頑張りますっ」
よし来た。
これで長太郎は加藤に絡まなくなる。練習もいつも通りに戻るな。
悪いな佐鳥。少しばかり利用させてもらうぜ。
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