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昨日佐鳥が帰ったせいで加藤先輩がいつも以上にべったりで、跡部さんの機嫌がよかったのかあの人が真面目に練習をしていた。

別に練習をすることが悪いとかじゃないが、加藤先輩が跡部さんに構ってもらえないとかでいつも以上に俺たちにべったりしてきた。
いい加減やめてほしい。

っていうか佐鳥だ。
確かに合宿中だけ、とは言ったがそこまで薄情だとは思わなかった。
用事があるなら仕方ないが…昨日からマネージャーとして参加してほしかったのは言うまでもない。

説教と愚痴を言ってやるかと思って教室のドアを開けた。
だが、佐鳥の姿を見てやめた。

いつも分厚い文庫本を読んでる佐鳥ではなく、読んでる本はテニス関連の本だった。
『テニス入門編』…。題名を見て不思議と笑ってしまった。

こいつ、一度やると決めたら本気で取りかかるんだ、と再確認した。

「…おはよう」
「!おはようございます…」

挨拶をすると、本から顔を上げて挨拶した。
まぁ、こういった本を読んでるなら。
協力してやらんこともない。素直にそう思えた。




深司くんから借りた本。だいぶ前に読んでいたらしく、本の至るところにマーカーで線が引いてあります。ご丁寧にふせんまで。深司くん真面目ですね。
そんな本を解読中の私に日吉くんが挨拶に。おはようございます。
……。
いや、実は怒ってるんじゃないかなーとか思ってたんですが、大丈夫でしょうか。昨日いろいろ屁理屈をこねて帰ってしまいましたし…。宍戸先輩驚いてたし。悪いことしましたかね。しましたよね。

「昨日」
「え、あ、はい」
「用事があるとかで帰ったけど…。何かあったのか?」
「あ…」

探ってきました。流石日吉くん。何が流石なのかわかりませんが。

「…。知りたいですか?」
「!い、や。言いたくないなら別にいい」

声がどもりました日吉くん。可愛いですね。

「うち、両親がいないんですよ」
「!」
「だから家事は私がしてるんです。高校生の兄と小学生の妹がいるので、料理作るのは専ら私の仕事なんですよね。だから帰りました」
「!……悪い」
「……あ、両親は死んでませんよ?海外にいるんです」
「!そうなのか…」

すると驚きと安堵の声。まぁ確かにびっくりしますよね。
ここ何ヵ月も親の顔を見てません。
元気でやってるんですかね。仕事のし過ぎで倒れないことを願います。

「……なんか悪いな。そっちの事情も知らずにこんな頼みしちゃって」
「いえいえ。兄と妹からも了承は得ましたから」
「…兄って高等部か?」
「中学は氷帝ですが高校は違うところを受験しました。今高校2年なので…今の3年生が1年生の時にちょうど3年ですかね」
「へぇ…」
「足が速い以外なんの取り柄もないヤツですよ」
「…容赦ないな」




「へ…へぇっくしっ!」
「ちょ、大丈夫?」
「あー…。噂かね?」
「アンタを噂する奴いないわよ」
「ちょ、リコたん酷い」



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