08

「たっだいまーっと」
「!お帰りなさい」

居間でテレビを見ている私に玄関から聞こえた声。

「ホレ卵。買ってきたぞ」

笑いながら手に持ったスーパーの袋を見せる長身の男。
兄の佐鳥幹也です。

ちなみに、あれから何だか面倒になって卵を兄に押し付けて帰ってきました。
おかげで私はテレビを見てます。

「何?今日の晩飯。オムライス?」
「ああ…じゃあオムライス作ります」
「わーい。あ、風呂入ってくるわ」
「はいはい」

兄の幹也は高校2年生で、氷帝学園高等部ではなく、私立の高校に通っています。
それでいて男子バスケ部のマネージャーをしています。
何故かって?
それは…何といいますか。

男子バスケ部の監督、と言っても同学年の女子に一目惚れして彼女に近づきたいんだけど足が速い以外運動はからっきし駄目で、でも好きだし一緒にいたいからという理由でマネージャーをしている、とのこと。
今ではその監督とも念願叶ってお付き合いの真っ最中です。リア充め。

さてと、オムライスを作りますか。妹が帰ってくる前に。
と、いうか。

独学で学ぶとか言っちゃいましたがどうしましょう。ドリンクの作り方は兄に教わるとして、問題はスコアの付け方です。
兄はバスケ、妹はサッカー…。
見事なまでにバラけています。本かなんか買いましょうかね。
うーん……。




警報警報。家の前に不審者発見。

「…」
「あーどうしよう面倒くさいっていうか何で俺が回覧板なんか持ってこなきゃいけないんだ何で母さん昼間持っていかないんだよやんなっちゃうなぁ…」

警報警報。一人言言ってる不審者発見。

「……何してんの深司くん」
「!鷹那…」

独特なしゃべり方とサラッサラヘアーのこの人は間違いない。
隣の家の伊武家長男の深司くんだ。自称残念なイケメン。私しか読んでないけど。
ちなみに「鷹那」というのは私の名前。「たかな」って読みます。

「サッカーの帰り?」
「うん」
「へぇ…まだやってたんだ」
「深司くんは何してんの。人んちの前でボソボソと…。新手のストーカー?」
「本当君敬語がなってないよね。俺中2なんだけど。君まだ小5でしょ?敬えよなぁ全く」
「わーったわーった」

止めなけりゃ一生喋り続けるぞこの人。

「とにかく入ってよ。姉ちゃんいるから」
「いいよ俺回覧板届けにきただけだし。鷹那が持ってって」
「姉ちゃんに会いたいんじゃないの?中学変わってから全然会ってないでしょ」
「別にいい」
「素直じゃないなぁ。姉ちゃーん。深司くんが会いたいってー」

直後頭をわし掴まれた。
ブツブツと呪いの呪文も聞こえる。

「いだだだだだだだ」
「鷹那ー?…深司くん!」

台所から姉ちゃんが来ても手を話してくれない。嫌われるぞクソ。

「…久しぶり」
「久しぶりです。元気でしたか?」
「まぁまぁ」

機嫌がよくなったのか手を放した。
くっそういってぇ。

「じゃあこれ。回覧板」
「あ、ありがとうございます。よければ晩御飯一緒に食べませんか?」
「え」
「深司くんのご両親、たしか今日から旅行じゃありませんでしたっけ。お母さんからよろしくって伝えられていたんですよ」
「…」

あ、絶対照れてる。
姉ちゃんあんま笑わないしいつも無表情だけど笑うと可愛いもんなー。

「…いいの?」
「はい」
「…じゃあ、食べる」
「どうぞ。鷹那は手、洗って。幹也がお風呂から出たら入りなさい」
「はーい」




「手伝う」
「え、ありがとうございます」

台所に戻ると、深司くんが隣にやって来ました。
しばらくみないうちに背が高くなった気がします。

「じゃあキャベツを洗って、千切りにしてください」
「ん」

綺麗な白い手でキャベツを洗っていきます。うわぁうらやましい。指長っ。
テニスやってると焼けるものなんじゃないんですかね。
………ん?テニス?
ああそうだ、忘れてた。深司くんは…

「……!?…何…」
「テニス!」
「!?」
「し、深司くん、あの、私にテニスを教えてください!」

思わぬところで先生発見!
灯台もと暗し、ってやつでしょうか!




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