秘めた私の想いを宝石にのせて | ナノ




静かな住宅街を通り、見事な構えを見せる邸宅の中にこつぜんとその店はあった。

店内が良く見える大きなガラス張りの門構えから、アンティーク品を扱っているのだろうという事はすぐに分かる。

車が静かに止まり運転手だったツォンがルーファウス側のドアを開け、降りたルーファウスが自分のドアを開け手を添えてエスコートをする流れは当たり前の光景となっていた。

美しい模様が施された真鍮のドアノブを引くと、カランと耳心地の良い鐘の音が響いた。

「いらっしゃいませ...まぁまぁ、ルーファウス様!ご無沙汰しております」

グレイヘアを上品に束ねた、優しい雰囲気と声のマダムが懐かしそうにルーファウスへと近づいた。

「暫くぶりだ。元気そうで何より」

「ありがとうございます、ルーファウス様もこんなに立派になられて...成長ぶりはいつもテレビや新聞で拝見しておりましたよ。あんなに小さかったお坊ちゃんが...」

フフっと無邪気な少女の様に笑いを零し、ルーファウスは少し気恥ずかしそうに笑った。

「敵わないな。成長した私の姿を目に焼き付けてくれ」

そんな和やかなやり取りを終え、ルーファウスは自室に置くインテリアのオーダーと社長室に置く花器やソファを幾つか見繕って欲しいと話していた。

nameは店内にあるアンティーク品を見て回った。

滑らかな手触りのライティングビューローは一度手を加えられ美しく蘇ったという説明書きがあった。
美しい艶と、今までの持ち主の歴史が刻まれている傷は100年の間にどんな物語を見てきたのだろうと想像を掻きたてる。

この店はプレジデントの時代から贔屓にしており、アンティーク品以外にも新規のオーダーでのカーテンやインテリア品も調達が出来ルーファウスは気に入っているようだった。

ぐるりと店内を見ていると美しい透明な塊が目に入った。

nameは惹きつけられるようにその塊に近づくと、それは水晶だという事が分かった。

良く見ると中にいくつものクラックが入っており、陽の光の屈折によって見事な虹が見えていた。

「きれい...」

思わず声が漏れ、その水晶に触れた。

「それが欲しいのか?」

いつの間にか後ろにいたルーファウスが自身の手を上に重ねて、静かに聞いてきた。

nameはルーファウスを見上げながら小さく横に首を振ると困ったような笑顔と共に溜息が漏れる。

「...お前は張り合いがないな」

nameの顎を掴み親指でなぞり、軽く二度頬を撫でた。

今までルーファウスから数えきれない程の贈り物を貰っても自分から何かを欲しいと言ったことは1度か2度あっただろうか...
唯一欲しかった詩集を言ったくらいだろうと思い返した。

どうやらルーファウスにとってそれはつまらないらしい。

「アイリスクォーツという石なんですよ。自然に入ったクラックが特徴で虹が見えるんです。ギリシャ神話に出てくる虹の女神イリスに名前が由来していると言われています。美しいでしょう?」

にこやかにマダムは解説をし、nameはもう一度その美しい水晶に目を向けた。

――――

後日、オーダーしていたインテリアが自宅へと運び込まれ
玄関ホール、リビング、寝室と次々とプロたちの手によって手際よく設置されていった。
ルーファウスのセンスと見立ては恐ろしい程に完璧で、まるでずっとそこに在ったようにぴったりだった。

遅れて小さなボックスが運び込まれ、nameの名前が書かれていた。


ルーファウスと共に座っているソファの目の前のテーブルへと置かれたそのボックスを開けると何枚もの薄紙の奥に、あの時見ていたアイリスクォーツが中に入っていた。

「これ....」

嬉しさを綻ばせながらルーファウスの方へ顔を向けると、頬杖を付き口元に笑みを浮かべ目を細めながらその様子を見ていた。

「俺の目はごまかせないからな」

そう言って笑いながらnameを抱きしめた。

夏の日差しを浴びてアイリスクォーツは美しい輝きと虹を浮かべていた。


【二人の未来へ虹の女神の祝福を】

石言葉:幸福へと導く、光り輝く未来へとつながる



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