秘めた私の想いを宝石にのせて | ナノ





「name」

この部屋の主でもあるセフィロスは静かに響く声で名前を呼んだ。

片手を自分の胸の辺りまで上げるその合図は、自分の下へ来るようにという意味。

僅かに目を細め自分を見据える翡翠色の美しい瞳に吸い込まれるようにnameは彼が居るベッドへゆっくりと歩き、上半身を起こしている横へと腰掛けた。

瞬間、上げていた片腕をするりと腰へと回し軽く持ち上げ自身の脚の間へとnameを座らせた。

驚きセフィロスの方を見上げると、視線が絡み合い優しい笑顔が応えた。
この笑顔は自分しか知らないだろう、アンジールやジェネシスに見せる顔とはきっと違う...そんな子供心のような優越感を少しだけ感じつつnameは大人しくセフィロスの腕の中に収まった。

程よい固さでクリーニングを仕立てられたシャツから覗く鍛え上げられたセフィロスの広い胸に背中を預けると、温かさと心音が完璧なまでの造形美を感じさせる身体の奥から感じる。

セフィロスは少し屈めるような態勢になりnameを包み込むように抱きしめ、うなじへと顔を埋め自分を惑わすその香りを肺一杯に吸い込んだ。

くすぐったいのか、小さくふふっと笑いながら身を捩る姿が愛おしくそのまま舌を軽く這わせながら吸い付く。

「ん、セフィロスくすぐったい...」

顎を肩に付けながら振り向き、少し上目づかいに抗議する姿さえも自分にとっては欲情させるものでしかない事を、恐らくnameはわかっていない。

自分だけならまだしも、無防備な姿をよく見せてはレノやザックス、他の男性社員からもからかわれているのを思い出すと、何とも言えない感情が渦巻く。

自分と同じ白いシャツの前ボタンを、一つ二つとゆっくりと外しセフィロスはうなじの更に下へとキスを落とした。
サラサラとした冷たい髪の感触と滑らかに自分の背中を這う舌先に飲み込まれそうになったが、nameは片手で押しのけ抱きしめている手から逃れようとした。

「もう、セフィロス!今はそんな気分になれない」

眉を八の字にして、まるで頬を膨らませ抗議するようにも見えるその表情に思わずセフィロスは声をあげて笑ってしまった。

「すまない...今のは俺が悪かった。悪ふざけが過ぎたな」

そう言いつつも、怒りながらシャツのボタンを直すnameの顔を見ながら喉の奥でセフィロスは笑った。

もう、と言いながら不機嫌になった愛しい恋人を再び両腕で抱え込むように抱きしめ、自分の胸の上で横たわらせ二人ともにベッドへと沈んだ。

「機嫌を直してはくれないか?」

そう言い、セフィロスはnameの片手を取り手の甲へとキスをした。

静かな空間。

特注で制作された、いくつもの美しいクリスタルがゆっくりと液体の中を流れ落ちるアワーグラスが自動で回転する音だけが響いた。


「...なんだか懐かしい感じがする」

「懐かしい?」

セフィロスは静かにゆっくりとnameの髪を梳きながら繰り返し撫でた。

「昔、調べ物をしている父親の膝の上に座って一緒に見てたなって」

「そうか..」

セフィロスは目を閉じ小さく笑い、研究員でもあるnameの父親の事を思い出した。

宝条とは違って職人のような、寡黙で静かに研究をしている印象だったがその情熱は彼の記したレポートに注がれており、セフィロスにとっても興味深い内容の物だった記憶がある。

「娘の恋人がソルジャーと言うのはどういう気持ちだろうな」

「んー...あまりそういうの気にしないと思う」

世の中の父娘の会話がどういうものかセフィロスには想像し難く、nameが父親にそういった話をしている事も想像しづらかったが
付き合いが数か月経った頃に、社内のロビーでnameの父親と一度顔を合わせた―と言ってもすれ違った程度―があったが
自分を見てほんの一瞬、口元に笑みを浮かべ軽く会釈をしたのを覚えている。

「そうだといいが」

そんなことを思い出しながら、nameの柔らかく少し癖のある髪を撫で心地よい体温と香りに心酔した。

さっきまで機嫌を損ねていたかと思えば、撫でられ心地良くなり
うとうとと眠りにつきそうになるその姿はまるで
常に予測不能な気まぐれな振る舞いで飼い主を夢中にさせる猫の様にも見える。

「name」

セフィロスは胸ポケットから金色の輝きを放つ小さな輪を取り出し
自分を見上げたnameの左薬指へと嵌めてその指に口づけをした。

「すごく綺麗、ありがとう...記念日でも何でもない日に?」

小さく感嘆の声をあげ、色んな角度から指輪を眺め喜ぶ姿にセフィロスは目を細めた。

「この日が毎年の記念日となるように。それと...これ以上構ってくる輩が増えないように」

そう言って笑う姿はこの世のものと思えない程に美しい。

セフィロスの頬に添えた左手薬指に光るリングに埋め込まれた黒い石は、光に当たり見たことのない強い輝きを放っていた。



【征服など出来ない貴女へ不滅の愛の誓いを
ブラックダイヤに込めて】

石言葉:征服されない・永久不滅の愛



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