ユアンの日々は充実していた。
各国を飛び回る任務は多いものの、コスモキャニオンには定期的に帰郷することができている。
お腹が大きくなるユリアを気遣いながらも、早くその愛おしい存在に会いたいと思う気持ちはユアンも一緒だった。
「無理してない?ユアン。忙しいのに・・」
「大丈夫だよ、見回りをこのエリアにしてもらってる。」
「そう。私もこの子もうれしいわ。」
もうすぐ会える。
どうか無事にこの世に生まれてきてほしい、話したいこと、伝えたいことがたくさんある。
それから数週間後、事態は一変した。
ユアンは知らせを受けてすぐにコスモキャニオンへと向かった。
自分の家のドアが開き、前にはすすり泣く人々。
息を切らして家の中へとゆっくり進もうとするユアンを抱きしめる者もいた。
白い服に身を包み、横たわるユリア。
そしてその横には生まれたばかりの赤ん坊が泣いていた。
「ユアン、赤ん坊は無事元気に生まれたよ、女の子だ。」
眠っているようなユリアの傍に、足元から崩れたユアン。
久しぶりに、声をあげて泣いた。
遠い昔にも、こうやって声をあげて泣いたことがあった。
その時優しいユリアが頭を撫でて泣きやむまで居てくれたことを思い出したが、今はもうその優しく撫でる手はない。
「ユアンよ・・・。」
ブーゲンハーゲンが後ろから声を掛け、小さな赤ん坊を抱きあげた。
「一人きりになったと思うか?お前には守る存在がいる」
顔をあげると、小さな小さなその存在があった。
まだ何も知らない、この世に生まれたばかりの存在。
「心配するな。ユリアは星に戻ったのじゃ。いつだってお前たちの傍におるよ」
ブーゲンハーゲンから渡されたその小さな命は、小さく息をしていて温かかった。
泣いている場合ではない。
この子を、守っていこう。
その時、ふんわりとユリアの香りが鼻を掠めた。
『この子に、いろんな旅の話を聞かせてあげてね』