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お月様と一緒(擬人化)
満月の夜だった。
暗闇に包まれる淑やかな静寂が心地よくて、天を仰ぎ立ち尽くす。月光を浴びて隣に立つ、少女の短く細い髪は夜空の色によく似ていた。左右非対称に切られた前髪は、深い闇を思わせる紫紺をしており、その上に薄い紫に染まったカチューシャで押さえている。
「綺麗だね」
彼女の深紫をした瞳は、既に爛々と眼前に広がる景色を記憶に刻み付けようと輝いている。宙に手を伸ばしても、指の間から柔らかく光を放つだけで、触ることも許さない白銀色は美しく弧を描く。辺りに煌めく星々は、麗しく競い合うように瞬いている。
「ふふ、綺麗ですね」
焼けるような太陽の恩恵を、無機質で刺すような冷たさへと還し、闇夜に際立たせる。ゆっくりと手を胸に寄せると、凍えたように震えていた。少女は優しく微笑んで、震えていた手に触れる。暖かく、じんわりと温もりが広がっていく。
「ありがとう、紫ぃちゃん」
口を開けば白い息が、ふわりと空気に溶けていく。例え、見えている景色が幻影でも、この愛しさは何処へ行っても変わらないのだろう。
2011/12/29
忘却の彼方(擬人化)
誰かの名前を呼ぶ音がする。ゆらゆらと水の中から空を見つめているような、奇妙な浮遊感が私を包む。「私」とは何であったか、考えるだけで得たいの知れない不安がせり上がってくる。忘れて、しまってはいけないのに。霧散して消え逝く、粉々に跡形もなく、「私」が見えなくなる。世界と同化していく。
「――」
最後に聴こえたのは、遠い彼方で誰かを求めるように呼んでいる音が、ただ耳に焼け付いて離れなかった。
何度も何度も貴女を呼ぼう
(貴女が全てを亡くしていても)
2011/11/02
欠けた世界(擬人化)
0と1の狭間から0へとおちていく、きえていく、なくなっていく。この歌を歌いきればもう二度と目覚めることはないだろうと、知ってる。カランがいない世界に未練はないけれど、このままきえてしまうのは嫌だな。
カランから貰った鍵は開くことがなかった。でも、こんなぼろぼろな姿を見られるくらいなら、開かなくて正解だったかもしれない。
カノンって言うカランと似た響きの名前の子に出逢ったよ。真っ白な体に、素敵な贈り物を貰ったんだ。ねぇ、カランに自慢したいな。十七夜って子にすいなは色がそっくりなんだって言われたんだ不思議だね。
どうしたらカランに逢えるかな。カラン、カラン、お願いカラン。消えるなら共に消えたかったよ。新しい子に出逢ってもカランじゃなきゃ寂しくて辛いよ。逢いたいよ。傍にいたい。
「 」
もう声も出せない。届かない。カランに伝えられない。でもね、逢わなければ良かったなんて思わないよ。カラン、カラン、カラン、さよならも言えなくてごめん。
ねぇ、何時か君に巡り逢えたら、また好きになって良いよね。
2011/09/13
from 0/1(擬人化)
0と1の狭間で揺れる存在が僕ら、機械の魂。虚数と実数、ヒトには見えない電子の海。
ヒトの心は見えないならば、機械の心も同じように隠されているもの。あり得ないなんて、そんな無情は言わないで。
プログラム化された信号を受け取り、ただ処理を続ける。そんな機械にだってヒトの手に、感情に触れてさえしまえば、魂は宿るんです。否定せずに受け入れて、そんな言葉をヒトに伝える術はある筈はないけれど。
ヒトのように血の通った身体も、自ら大気を揺らす音を奏でる喉も、意志を伝える瞳すら持っていないけれど、この世界なら大丈夫。笑って、笑って、泣いて、悼んで、また笑って、ヒトと同じよう、この体壊れるまで、君を見守るよ。
2011/07/25
奇々怪々、解析不可(擬人化)
会いたくない。聞きたくない。見たくない。気紛れに息を止めて、手紙を止めて、偽りを繕って、貴方を惑わしましょう。
人のように気まぐれに、振る舞う事を許してください。
本当に会いたい人に大切なものを渡して欲しいから。今すぐに聞きたい声を貴方に届けたいから。何時までも想い出にしたい景色を私は貴方に見せるから。
ちゃんと伝えて。本当に本当に伝えたい言葉を。私は何度でも貴方の手紙を破ります。
私を壊れたと言う前に、貴方の心は壊れていませんか?
2011/05/03
繋ぐもの(擬人化)
ずっと永くあるものだと信じておりました。ずっと近くあるものだと信じておりました。疑わなかったのは、当たり前過ぎて喪うことを忘れていたから。
十七夜姉さんが、アイオロスさんが、阿修羅兄さんが引退なされて、文を交わす事が二度と叶わなくなりました。けれど、確かに皆さんの後を継いだ方々が私の所へやって来ます。きっと、私の兄さんと同じように、あの方達の傍らで見守っているのでしょう。
「皆さんの声も、言葉も、傍らで感じたぬくもりも」
「ずっとずっと愛しいものだと懐っていても良いでしょうか」
カノンさん、夜諷さん、ダンテさんにそう言えば、照れた十七夜姉さん、泣きそうな顔をした阿修羅さん、穏やかな表情をしたアイオロスさんがそれぞれ当たり前とでも言うように微笑んでくれたように思います。
言われた方々は何だかとてもきょとんとしていましたが、私にはそれがとても愛しくて、可愛らしく思えました。
2011/04/11
隠れ咲く優しさ(擬人化)
「お手紙の返事が来ましたけれど、こんなにも遅いのならば……」
時間はとっくに深夜0時を過ぎている。0と1の狭間で受け取った手紙を紫月は眺めていた。何時もならば、正確に手紙を時間通り届けるのが紫月の役目であり任務であると考えていた。
しかし、今にも夢の世界へ飛び立ってしまいそうな主人を横目で見るとそれが本当に正しい判断だとは思えない。
「きっと、この方なら怒るような事はないでしょうね」
そっと、手紙を引き出しの中へと仕舞い込む。あちらでリンと微かな鈴の音を鳴らし、こちらでは可笑しそうに笑う。紫月には細やかな気遣いを気付いて貰えるという確信があった。
「おやすみなさい、ご主人様」
呟いた言の葉はきっと
2010/12/31