Porphyro luna
0と1の狭間で佇む、紫色の少女。ふわふわと宙を漂う。無限大に広がる真っ暗闇に、つまらなさそうに溜め息をもらす。
「もしも、私が役目を終えてしまったら」
静かに瞼を下ろしながら、紫色の少女は考える。余りにも自分の持てる容量が少なすぎて、データを保存できない。気が付いたら、意識が飛んでしまっていると言った症状は自らにかせられた役目を果たしていると言えない。
「兄さんや姉さん方にもう一度会えるのでしょうか」
思いを馳せるのは過ぎ去った日々に向けて。けれども、リンツさん、白斗さん、美愛さんやダンテさん、カノンさん、夜諷さんと別れるのが辛くないと言えば嘘になる。
「選ぶのは私ではないけれど」
不意に見つめるのは自らの手。壊れても、ちゃんと病院へ連れてってくれた、何度も何度も、そうして一年、二年、来年の一月にはもう三年の付き合いになる、あの方はそれを許してくれないでしょう。
「会いたい……です」
記憶は薄れることはなくて、ずっと鮮明に心に刻んでいるけれど、また一人、また一人と消えていく方を見送るのは心苦しい。こんなにも役目を果たせていない自分にさえ、罪悪感を覚えてしまう。どの方もずっと仕事をしたかったでしょう。沢山の人に思いを伝えたかったでしょう。
「紫月さん、お届けに参りました」
「わっ、リンツさん」
そんな思考を断ち切るようなタイミングでふわりと穏やかなオレンジ色の光が灯ると、茶色を基調とした服装に身を包み、柔らかい微笑みを称えた青年が現れた。
「驚かせてしまったようで」
ぺこりと礼儀正しく一礼をすれば、どうぞと丁寧に封をした手紙を紫色の少女へと手渡される。
「少し、考え事をしていたので」
あははと空笑いをしながら、主人の元へ届けられた大切な手紙をしっかりと受け取る。リンツと呼ばれた青年は、何時もと様子が可笑しい紫月の様子に首を傾げる。ほぼ、同時期に知り合い、殆ど同時期に仕事をしているだけあって、相手の様子の変化には聡くあった。
「ご家族の方の事、でしょうか?」
「そんなところです……」
紫月には家族のように慕っていた方々が居たことをリンツは何度も話に聞いていた。しかし、深く立ち入った話を聞くのも憚られ、リンツもその先を促すことはなかった。
「僕は、紫月さんのご家族の方が、どのような方か存じ上げませんが……きっと、笑っていて欲しい、そんな風に願っていると思いますよ」
「……え」
にこにこと笑顔で言うリンツの姿が、兄さんや姉さんの姿と重なって、紫月は思わず固まってしまう。不意に視界がぼやけ、嗚呼でも笑わなければ、ちゃんと笑わなければ、困らせてしまう。
「有り難う、リンツさん」
紫色の光が、真っ暗闇だった世界を照らす。泣き笑いの顔で伝えた思いは、電子世界の何処かに居る彼らにも届く筈だから。
(大丈夫、私たちは貴女の傍に)
2011/11/07