萌え出づる恋花
ひとひら落ちてく桜の花弁。舞い落ちる桜の下で笑いあう二人の男女の姿があった。女性はとてもきらびやかな着物を羽織り、対照的に男性は質素ないでたちをしていた。
互いの小指を絡ませ、約束を交わしているように見えた。嬉しそうに、幸せそうに。
「じゃあ、貴方の命はわたしのものね」
「そういうことになるな」
「ふふ、冗談よ。そんな顔しないで」
「本当に良いのか?」
「こんな家、何の未練も無いもの」
囲われた塀を忌々しそうに眺めながら、少女は冷たく言い放った。やれやれと言った様子で青年は空へと視線を移す。どこまでも青く、とても天気のいい陽気。
「良いのよ、何も考えなくても」
暫しの沈黙の後、青年が不安に考えてるのだと勘違いした少女は青年に後ろから抱きしめた。心配事なんてないのだと自分自身に言い聞かせるように小さく呟く。
「仰せのままに」
そっと、優しく少女の艶やかな髪に触れながら愛おしそうに青年は笑った。
これは、物語が始まる小さな兆し。
2010/06/23/