雨上がりの空



パラパラと雨が降る街中で買い物袋を持ち、傘を差しながら一歩一歩、歩を進めるごとに茶色のくすんだ髪を揺らす彼女。跳ね返る音に耳を澄ませながら、何処か機嫌が良さそうに彼女は目的の店だと思われる八百屋へと入っていった。川岸に沿った商店街は雨と言う天気にも関わらず、人の賑わいは衰えてはいない。

「賑やかなものは嫌いじゃないわ」

ふふっと微笑みながら、じゃがいもやにんじんと言った野菜が大量に詰め込まれた買い物袋を大事そうに抱え込みながら、呟きを漏らす。雨足も、行きよりは幾分かマシになってきており、このまま、討幕基地へ戻って、自身の料理を美味しいと言ってくれる大切な人を思い浮かべながら、帰路へ着く…彼女はそのつもりであった。

「あれは…?」

ざわざわと空気の違う雰囲気を感じ、足を止めると、人気の少ない一角に目をやれば、数人の男共に囲まれて、どうして良いか解らずにキョロキョロ困り顔で周りを見渡している少女の姿が目に入った。自身は討幕の筆頭のお付きである為に、「君は目立つ行動は止めろ」と先日に夢にも釘を刺されたばかりである。くるりと囲まれている少女から背を向けて、不敵に微笑む。

それは一瞬の事でした。私が道に迷ってしまい、気が付けば人気の少ない一角で見知らぬ男の人に声を掛けられてしまって。助けを求めようとしても、誰も気付かずに、いいえ、気付いていたのかもしれませんが、巻き込まれるのが嫌だったのかもしれません。可愛いねぇ、一緒に遊ばない?と詰め寄られ、控えめに断ってみるものの、引く様子が無くて、目頭が熱くなって、今にも泣いてしまいそうでした。

「その手を離せ」

凛とした口調で数人の男の人に恐れる様子もなく言い切ったその方は、片手に傘を、もう片手には大量に買い込んだと思われるじゃがいもが買い物袋から顔を覗かせていました。しかし、もう一つ奇妙な事にそのお方の顔はは鬼のお面を被って見えることがありませんでした。

「てめぇ、何も…」

私を囲んでいる一人が、その方に近寄れば、問答無用と言った具合に相手が言葉を言い切るよりか先に勢い良く、蹴りとばしたのです。それはもう、吹っ飛ぶ勢いで。

「お嬢さん、待たせたね」

「え、え?あ…」

呆気に取られている男の人に構うこと無く、傘を使って、それはそれは勢い良く男の人を薙ぎ倒し、私に近寄れば、お面の下では表情は掴めないものの、先ほどの口調とは打って変わり柔らかい口調でそう言うと戸惑う私をよそにぐいと手を掴み、その場から連れ出して頂いたのです。怖くて、怖くて、この人が助け出してくれなければ私はどうなっていたのかと考えるだけで身震いがしました。

「じゃあ、ここまで来たら帰れるかい?」

「は、はい!あの…私、一条千代と申します…この度は助けてくださって本当にありがとうございます」

「ん、気にすんな…千代ちゃんね、一人で出歩くのは気を付けた方が良いぞ」

そう言って、立ち去って行かれました。顔も解らないけれども、何時か、もう一度会えたら、名前を聞いてみたいと思いました。

「あ、レンちゃんお帰りなさい!」

「悪い、傘…」

金髪に碧眼、秋津洲では珍しい髪の色をした久遠がにこやかに迎えに来てたが、先ほどの乱闘で傘をばっきばきしたのを思い出し、怒れるのを覚悟で恐る恐る傘だった物の残骸を見せる。久遠の後ろから夢が呆れたような目でこちらを見ている。何だか、視線を合わせられない。

「気にしなくて良いわよ、レンちゃんの事だから、遅くなったのも理由があるんでしょ」

「全くね、君の事だから、人助けだとか言って無茶でもしたんだろう?勝手に一人で行動を起こされたらこっちが迷惑なんだ」

「…夢治君、ああ言ってるけど本当はレンちゃんの事心配してくれてるのよ」

壁にもたれかけながら話し掛けてくる夢に、くすくすと笑いながら優しく耳打ちする久遠。ここは任せて置いてと言われたので久遠に任せて台所へ向かうことにした。

「…そう言えば、緋刀、見掛けないな?」

食材を切りながら、自身の料理を贈りたい人物の顔を朝から未だ見ていないことに疑問を覚えるも、まぁ、その方が都合が良いかと思い着々と肉じゃがを作り始める。

「ひーなーた!ってあんた何でそんなに疲れてんの?」

「うるせぇ…」

完成した肉じゃがを両手に持ち、久遠に教えられた場所へ向かえば、一旦鍋を下ろし、扉を開けば何処か、ボロボロになっている緋刀が居た。拗ねたような口調でそう呟く緋刀。…久遠達、もしかしてサプライズにしたいが為に監禁していたんじゃ…。不意によぎった考えを振りきりながら、扉の前に置いてきた鍋を緋刀の前に置けば、驚いた様子でこちらを見つめている。

「誕生日、おめでとう!緋刀」

構わずにそう言い切れば、不意に手を引っ張られ、抱き寄せられる。

「俺のために…手、冷たいな…」

「ありがとう、レン」


雨上がりの空の下、晴れた雲間から虹が出て、まるで幸せそうに笑う二人を優しく見守っているようでした。




2009/09/30

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