降り積もる愛のあかし
0と1の狭間。虚と実の境。そこでは機械達が実体を持ち、さ迷う空間。
パチンと電源の入る音がすれば、真っ暗な世界に光が点り、何者かが気だるそうにむっくりと起き上がる。灰色の髪を三つ編みに束ね、白いブラウスの上に暗い色をした青色のスーツ姿、一見するとOLのような姿成りをしている。
「もう、乱雑に置いて」
ブツブツと文句を言いながら、手をかざせば、透明な画面が浮かび上がり、汚く並べられたアイコンを綺麗に揃えていく。
『新しいデバイスを発見しました』
数分後、カチリと何かが差し込まれた音を聞けば、何かがゆっくりと実体を作り上げ始める。先ほどのOL姿とは対照的に、セーラー服姿に明るいピンク色をした髪、まるで小学生のような風貌である。
「おはよう、カラン!」
パチリと目を開けた瞬間、一目散にカランと呼ぶ者にしっかりと抱きつき、嬉しそうに話しかける。
「嗚呼、今日もアンタは元気やな」
カランは、驚いたように目を見開くも、それが、何時もの日常であるかのように、くしゃりと髪を撫でる。
※※※
マスターである主人は、すいなを充電させるだけにわたしを起動させたらしい。大方の仕事を済ませてしまえば、特にすることもない。何やら、こちらをじっと見つめるすいなに首を傾げるも何かした覚えもない。
「ねえ、もしもカランみたいに賢くて美人さんだったらもっともっと愛してくれた?」
「何を馬鹿なことを、賢かろうと美人だろうとわたしには興味が無い」
「そっか・・・、一日だけでもカランみたいになりたいな」
「無理に決まっているやろ、考え直せ」
「カランはすいなが居なくても生きていけるけど、すいなはカランしか愛せる人が居ないんだもん」
「何時、わたしがアンタなしで生きられるといったんや」
「だって、興味ないっていったじゃんか!」
「阿呆、上辺だけ繕う奴になぞ興味がないと言っただけや!アンタはわたしの唯一の伴侶なんやろう?」
「うん!もちろんだよ!」
「じゃあ、くだらないことを考えるな」
そう、早口に言い終えればぺしんっと頭を叩く。何でこう恥ずかしくなるようなことを平気で言える神経が解らない。
「あのね、カラン」
(ずっとずっと傍に居よう、愛しい人)
2010/04/24/