「シャリー!!」

 薄暗い明りの下、静かな水音が響く。一瞬、目を離した刹那、水辺で楽しげに歩きまわる彼女の姿は消えて、小さな水砲だけがゆらゆら揺れていた。体は自然に海へと飛び込んでいた。護ると決めたのに、そんな不甲斐なさを振り切るよう、ひたすらに目を凝らす。彼女を今助けなければ意味がない。真っ暗な闇に月の明かりが人影をおぼろげに照らす。必死に手を伸ばして、その影を引き寄せる。そのまま水面へと浮き上がっていく。

「……ぶはっ」

 レントの手には全身を硬直させ、青白い顔のまま氷のように冷たい彼女の体をしっかりと抱き抱えていた。潮の流れが思った以上に荒く、深い場所まで押し流されてしまったようであった。潮の流れと逆らいながら、いまだ意識の戻らない彼女を懐へ抱え込んで岸辺まで泳ぎきる。すると近くにいた人が異変に気付き、こちらへ来てくれた。砂浜へとそっと彼女の体を下ろすとぽとりと綺麗な石が転がる。

「お願いやから目を覚ましてっ、シャリー……」

 子供のような懇願を洩らしながら、彼女の手を握りしめたまま闇魔法を唱え、ひたすらに意識が戻るよう祈り続ける。こんなことになるならば、海へ行こうと誘わなければよかったと後悔の念ばかりが胸に降り積もる。悔しさに目を瞑れば、楽しそうにはしゃいで砂浜を歩く彼女の姿ばかり浮かんでは消える。

(たのしいわ、レント)

「シャリー!」

 ぴくりと手を握り返したかと、思えばうっすらと目を開けてこちらを見る彼女の姿。必死に声を呼ぶレントの表情を見ると痛々しい表情へと変わり、首を振って謝罪の言葉を告げようとしているのが見て取れた。

「いいんよ、シャリー。君が無事ならそれで」

 ぎゅうと抱きしめて、存在を確かめる。かよわいながら胸打つ鼓動にじんわりと安心感が広がっていく。よかった。ちゃんと失わなくて済んだ。その後、駆けつけてきてくれた人が医者を呼ぼうかと尋ねてきたが、断固として彼女が受け入れず、本調子になるまで傍を離れなかったレントの姿があったそうです。




  
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