月の加護、星の祝福(エステルーナ)


 これは星座に導かれた子供のお話。漆黒の闇にきらめく星々、その下で広がる物語。

___________


「エステルーナ、お前が星と月の加護に恵まれる子でありますように」

「そう、星々の祝福によって生まれた我が子。どうか幸せにおなり」

___________

 私はお父さんとお母さんの記憶がありません。気がついた時には周りに同じくらいの年の子たちと暮らしていました。唯一、家族と繋がりを感じられるものと言ったら自身の名前しかありません。けれども、子供ばかりで固められたこの施設での暮らしは賑やかで寂しいといった気持ちに囚われることはなかったのです。新しい子が来ても、みんな家族が増えるんだ!と喜んでささやかながら歓迎会を催したりと、大人たちが少ない分、私たちは共に支えあっていました。離れてしまう日が訪れるまで。
 
 その日は大雨が降りしきり、何時も顔をのぞかせている星たちは雲に隠れてどんよりとした空気が漂っていました。風が吹くたびに建物がキシキシと嫌な音を立てて揺れて、怖がりな子は怯えてしまい、頭を撫でて落ち着かせていた時でした。

「来い」

 勢いよく扉を開けてこちらへ走ってきた園長が息を切らせて短く私にだけ聞こえる声でそう囁きました。みんな私の方をきょとんと見て不思議そうにしています。座っていた私を引っ張り起こす形で園長は私の手をぐいっと掴みました。その後ろから、不安げな声が聞こえて振り返ろうとするも、前へ進まなければ転んでしまいそうな速さで園長は手を引いており、誰が呼んでいたのか解らずじまいでした。

 廊下へ出ると、置かれたバケツに雫が一定のリズムで落ちていき、バケツではとり切れなかったのでしょう、床板が水で濡れており、歩幅の合わない私は転びそうでした。何度も呼びかけても返事はなく大きな背中は急ぎ足で進んでおり、仕方なくおぼつかない足取りでついていくしかありませんでした。

「うわっ」

 急に正面が真っ暗になったと思うと、どすんと前を歩いていた園長の背中にぶつかったようで自然と繋がれていた手もほどかれていました。身構えていなかった分、痛みよりも驚きの方が大きくて何が起きたのかすぐには理解できません。

「エステルーナ」
「はい?」

呼ばれた名前は確かに私の名前でしたが、呼ばれた相手は全く知らない女性でした。相変わらず園長は神妙な顔のまま、私の顔を見ようとはしません。

「ようやく、迎えに来れたわ。あたくしの可愛い姪っ子」

 その言葉を聞いて私はもうここへは戻れないのだと嬉しさよりも寂しさが喜びよりも切なさが胸を締め付けたのでした。





(20140820) 







  
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -