降誕祭‐T




 いつもより血色がよく、色づいた肌。時折漏れる、熱い吐息。

「38度5分。……りっぱな発熱です…」

「……めんぼく、ありません…」

 上からかけられた声。微かな非難と多くの心配を含んだそれに、菊は、布団に寝かされたままそう絞り出すように答えた。


 彼方此方に煌びやかなイルミネーションが施され、もはや馴染みとなった歌が一秒の隙間も惜しんで流れてゆく。―――世間では、そう。クリスマスだった。

 しかし、この古き良き時代のまま時を止めてしまったような日本家屋の主は、己が床にその身を横たえ、時折苦しそうに息を吐く。

―――天国と地獄。

 手桶に満たした冷水でたっぷりと濡らしたタオルをギュッと絞り、目の前で横たわる菊の額や頬を伝う汗を拭う娘――藤は、その髪よりも僅かに青みを含んだ漆黒の瞳を細めてそう思った。

 恋人や子供連れの家族が、キャッキャと楽しむクリスマス。けれど、元々人混みを好む性質(たち)ではない藤にとって、静寂に包まれながらも温かな此処で、看病という名目ではあっても親しい存在と時間を共にすることが出来る方が何倍も嬉しかった。

「……ほんとうに、すみません、藤さん…。…折角のクリスマスでしたのに……」

「いいえ。気にしないでください。」

柳眉を寄せつつ、自分を見上げる菊。それがは、風邪の熱による苦しさだけが理由ではないことを、藤はちゃんと知っている。

 最初は、ただのご近所なだけの関係だった。

 先にもあったように、藤は人と付き合うのが苦手である。その理由は、あまり会話が上手いとは言えないことと、彼女自身ののんびりとした性格が主だ。

 時間に縛られたと言っても過言ではない現代社会。その中で、のんびりとゆっくりと歩を進める者は、自然と枠から遠くなってゆくことが多い。
 藤自身、その事に多少の寂しさを覚えなくもなかったが、それまでだった。

 自分のペースを崩すことなく、時間ではなく、自然の流れと共に進んでいるような彼女。そんな藤と菊が出会えたのは、絆という繋がりを深めてゆけたのは、ある意味、当然のことだったのかもしれない。

 春の桜並木で出会い、梅雨の雨音を共に聞き。夏の夜空に咲く光の花々を並んで見上げ。秋の紅葉降る中を歩いて来た。



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