この身を満たすもの-4
「あれから…ながいこと経ったよな……」
「……あぁ。そうだな」
ギルベルトのその言葉で、彼がどんな夢を見たのか、ロートには分かった。
「いろんなこと、あったよなぁー」
「あぁ、あったな」
濃い血脈と強い力のお陰で太陽を克服していたロート。そんな彼女を連れ、ギルベルトは共に世界を回り、沢山のものと触れ合った。
そう言えば、彼が敬愛する彼の大王とも言葉を交わし、彼のフルート演奏のもと、歌を披露したことも一度ではなかった。勿論というか、観客はギルベルトのみ。
「たくさん、戦ったりもしたな……」
「そうだな…」
血生臭い、死臭に満ちた戦場を共に掛けもした。
あの二度の世界を巻き込んだ大戦の中でも、互いが離れる事はなかった。
いや、もう既に、離れる事は出来なかったのだろう。ずっと、ずっと前から。きっと。
「だがよ。一番驚いたのは、お前がイヴァンんとこに潜り込んでた時だったぜ」
2度目の大戦が終わった後。この国――ドイツは東西に分けられた。ギルベルト――プロイセンはイヴァン・ブラギンスキ――当時はソ連だったか――によって、弟や彼女と引き離された。
失意の中。けれど、また会える『いつか』をただ願って凍える日々を過ごしていた時、新しく入れ替わった看守が「ギルベルト」と自分を呼んだ時は―――
「…あん時は、本当に心臓が止まるかと思ったぜ…」
弟とはまた違った意味で『一番』大切な彼女がどうして?何故?
他にも思う事は沢山あったはずなのに、ほんの少し、人のそれよりも低い、けれど待ち望んだ温もりに触れて。もうどうでもよくなったのを今でもはっきり覚えている。
「あの男、おそらく私の変身に気が付いていたさ。それでも兵士に化けた私をお前の看守に当てた。よくよくに分からん輩だ」
「違いねぇ」
そう言って、いつの間にか閉じていた目を開け、傍らに在る愛しい存在を見やる。
あの頃となんなら変わらないその姿。変わったのは、自分に向けられる気持ちと温もり。
気が付けば、彼女も自分を思っていてくれていると分かった。こればかりは、自惚れでも何でもなく、事実だった。
「これからも、共に在ってくれよ…」
手を引いて、腕の中に抱き込む儚い体。
けれど、その体が宿すのは、ながい時と強い力と、確かな想い。
「……しょうのない奴だな。私が惚れた奴だというのに」
小さな笑い声とともに返ってくる言葉。
それがくすぐったくも、あぁやはり心地よい。
【この身を満たすもの】
それは。
昔も今も、そしてこれから先も変わることなく。
いつも、傍に。
09/10/25
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