この身を満たすもの-3
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…
「おい起きろ。起きろギルベルト」
「うー……」
「唸るな。起きろ」
揺り動かされる己の体と、掛けられる起床を催促する声。
ゆるゆると重たい瞼を上げれば、自分と同じ、けれどそれ以上に美しい赤い瞳を持つ女と視線が絡んだ。
「おー…、ロート……」
名前を呼んでくれたのが、最愛の人であったことと夢の所為か。ギルベルトは間延びした声に一杯の愛しさを込めて、彼女の名を呼ぶ。
「ロート、どうした?俺様が恋しかったか〜?」
冗談半分、本気半分で言ってみた台詞。
「あぁ、恋しかったぞ」
「!!!」
両眼を優しく細めて微笑む彼女――シサキの返事に、ギルベルトは自分から仕掛けておいたにもかかわらず、上等なソファに寝転がったまま、両手で顔を覆った。
「何やっている、ギルベルト」
「な、なん、でも、ねぇぞ……」
隠し切れていない耳が、その先まで真っ赤になっているのは見て見ぬふりをして。ロートは再度、ギルベルトに起きる事を催促した。
「ルートに、お前を起こして来いと頼まれた。休憩も兼ねて、茶でも飲もうというらしい」
「お、おう」
「ほら。行くぞ」
ギルベルトが起き上ったのを確認してロートは踵を返し、一歩踏み出そうとした。けれど。
「……どうした?」
「…………」
ロングスカートの翻った裾をきゅっと掴んで離さないギルベルト。
聞いても返事を返さない時は、何かしら言いたいことが有って、しかしなかなか言い出せない時が多かった。
そんな癖まで把握するほど、自分はこの男の傍らに居続けてきたのだと改めて思って、ロートはただ穏やかに微笑んだ。
「どうかしたか?」
彼の弟や3匹の愛犬達には、もう暫く待っていてもらうとしよう。察しの良い彼らのことだ。怒りはしない。
ギルベルトの隣に腰を下ろし、未だ服の裾を掴む彼の手にロートは自分のを重ねた。
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