この身を満たすもの-2



 ギルベルトの言葉に、女は俯けていた顔をゆるく上げた。

「…気付いていたか、やはり……」

 がらりと変わった口調。そして、彼女の纏う雰囲気。

「まぁな」
「なら何故引き留める?こんな卑しい、闇の眷属――吸血鬼であるこの私を」

 ニッと、先ほどとは打って変わって挑戦的な笑みで女を見るギルベルト。だが、彼女から溢れ、己に向けられる覇気とでも言うのか、その気に当てられて彼の背を冷や汗が伝う。

「民を、『人間』を助け、導き、共に歩むのがお前達『国家』の存在理由であろう。『人』に在らざる私を助けるのは、それに背くことではないのか――プロイセン王国」

 俯いていた顔を完全に上げ、ギルベルトを真正面から見る女。彼女が呼んだ『国』としての己の名に、知らず賞賛と歓喜を込めた口笛が鳴る。

「へぇ、アンタみたいな綺麗な奴に知られてるとはな…。俺も鼻が高いぜ」
「茶化すのは止せ。殺すならなぜ私を引き止める。そもそも、あのまま私を捨てて置けば、それで終わったはずだ」

 警戒と疑心。今までにない圧力で持って、女は問いかけた。

「アンタを殺す?ハッ!冗談じゃねぇ。やっと見つけて掌中におさめたってのに、何でわざわざ殺さなきゃならねぇんだ」

 喉の奥で笑うギルベルトに、女の瞳がより一層細められ、眼光は鋭さを増した。

「アンタは覚えちゃいねぇだろうな、その態度じゃ…。それはいい。当然だ。あん時はまだ俺はちっせぇガキだった。共に過ごしたってほど、時間も過ごしちゃいなかった。けれど、俺にとっちゃ十分過ぎた」

 そこまで言って、ギルベルトは一度大きく深呼吸した。

「俺と共にあれ。誇り高き、古より続く漆闇の貴族よ」

「……吸血鬼と知って尚、この私に恋慕を寄せるか。哀れだな、プロイセン王国よ」

 自分を見詰める、ただひたすらに真っ直ぐなギルベルトの瞳。それを見て、女は目を閉じる。

「……その哀れさを汲んでやる。精々やってみるんだな」

 微笑む女。開かれ、ギルベルトを見つめ返す紅玉の瞳には、挑戦的で、けれどどこか温かな光が灯っていた。



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