この身を満たすもの-1
程よい広さに、質素だが品の良い調度品を備えたある一室。
その一室の中央に置かれた寝台の上で、一人の女が目を覚ました。
「……ここ、は……?」
ゆっくりと起き上がり、首を巡らせこの見慣れない部屋を見渡せば、美しくたわわな灰色の髪も釣られて流れる。
カーテンの隙間から差し込む朝日に、彼女がその紅玉を思わせる透き通った深紅の目を細めたところで、この部屋に近付く気配を感じた。
「お!お前目ぇ覚めたんだな!」
ノックもなしに開かれた扉。入るなり、起き上った女を視界に入れて、喜色に満ちた声を上げたのは一人の青年だった。
美しいプラチナブロンドの髪。しっかりとこちらを見て笑う、深紅の瞳。整った容姿ではあるが、その浮かべている満面の笑みの所為か、何処となく幼さを滲ませている雰囲気。それが、女の青年に対する今の印象だった。
「どこか痛む所とかないか?とりあえず、侍女の奴らからはちゃんと手当てしたって聞いたんだがよ」
「……あり、ません。大丈夫です」
足早に寝台の傍らまでやって来た青年は、其処に置いてあった椅子に腰掛ける。
女が回復したことがよほど嬉しいのか、青年は彼女のたどたどしい答えにも「そうか!そうか!」と満足げに頷いて見せた。
「あの……」
「ん?」
「ここは、一体どこなのですか?」
「あ。あー、俺の城だ」
城。この国に城というものは幾つもある。けれど、この目の前の青年ほどの年頃で自分の城を持つということは、決して容易いことではない。
「…お名前を、お聞きしても……?」
「そうだったな。俺の名はギルベルト。ギルベルト・バイルシュミットだ」
「バイルシュミット卿…。……!」
口の中でその名を転がして、女はハッとする。
たった今聞いた名。それを名乗っているこの青年のその正体を、彼女は『仲間』から耳にした事があった。
「どうかしたのか?」
「いいえ、いいえ。何でもございませんバイルシュミット卿。助けていただき、その上手当てまで…。本当にありがとうございました」
「おう!っても、見つけたのは俺で、手当てしたのは侍女の奴らなんだがな。おっどろいたぜ?だってお前血だらけだったんだぞ?」
――まずい、見られている。女は俯いた。
さらりと髪が流れ、彼女の表情を影で隠してしまう。
「……は、い。……このご恩はいづれ、必ずお返し致します。私めの元の服は何処に?即刻立ち去ります……」
「―――こんな日が出ている内にか?あっという間に塵になっちまうぜ?」
*
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