真昼のシンデレラ


 目に映る鮮やかな光景に、心は瞬く間に奪われて。キョロキョロと辺りを見回してふらつく度に、隣を行く彼の人に頭を軽く抑えられて前を向く。

 キョロキョロしているのは当然雪月で。彼女を抑えるのは、灰髪をゆるく掻き上げた長身の青年だ。

「す、すみません、イールさ…あ!」

 青年をすまなさそうに見上げた雪月だったが、言いかけて自分の口元を勢いよく抑える。

「うー、私ったら……」
「別に構わんと言っているだろう。慣れていないお前に、すぐさま適応しろと言うのは期待していない」

 イールと呼ばれた青年。彼は世界各国で半ば『都市伝説』じみた風に囁かれる“象徴”と呼ばれる存在だった。
 雪月が、彼女の大好きな祖母から紡がれる数奇な縁によってこの国・クレスペールを初めて訪れてから付き合いのある彼は、このクレスペールを母とする首都・イールアーデェの“象徴”だ。

 つり気味の紫の瞳と高い身長が相まって、初対面でなくともなかなか厳つい印象を与えるイールアーデェ。そんな彼の突き放すような言葉に、けれど雪月はほわっと嬉しげな笑みを浮かべる。一見厳しい言葉だが、それは「お前のペースでやっていけ」という、分かりずらい優しさの表れだと彼女はちゃんと気付いているのだ。

「はい!がんばります!」

 胸の前で拳を握り、若干鼻息を荒く吐き出す小柄な少女を見下ろして。イールアーデェははぁ…と小さく息を吐いた。

 自分を始め“象徴”は総じて人より永い時を生きてきている。そんな、ともすれば『異形』と恐れられそうな存在の自分達に、まったく負の感情を抱かずに接してくる雪月を、イールアーデェも嫌いではないし、好感さえ抱いている。

(…こんなちっさい体で、よくもまぁ受け入れられる……。…本当に、不思議な人間だ…)

 日本人とクレスペール人。しかも加えて男女差もある。だいぶ下に在る艶やかな黒髪を見下ろして、またフラフラしだしたその頭をガシッと掴む。

「そろそろ昼だ。昼食にするぞ」
「あぅッ!りょ、了解です……」

 驚いたのか、少し痛かったのか。クリッとしたその両目が微かに潤んでいたのを視界の端に収めて、イールアーデェは雪月の手を引く。

 微かに。けれど、温かく穏やかに微笑んで。

真昼のシンデレラ
(12時の鐘が鳴っても)
(きっとこの手を離さない)

12
 


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