あけました2010


「あけまして、おめでとう!」
そう言って一番に部屋に飛び込むと、アルキルが困ったようにこっちを見上げた。
「…お帰りさない、アイオ。」
アルキルが素直にあけましておめでとうを付け足すも、ほかのメンバーからの挨拶はない。
隣の部屋からひょっこりやってきた妹を抱き締めて新年の挨拶をしてからアイオロスは不思議そうに部屋を見渡した。
マスターが年末に片づけを怠ったからか、アルキルはまたも床の角に申し訳なさそうに体育座りで座っていて、机の付近には青い顔をした二人が泣きそうな顔でこちらを見上げている。
「あーちゃん?ラフ太?」
恨めしそうにこちらを見上げたあーちゃんことアートマンは、目を開けたままのラフ太ことブラフマンを揺さぶる。
「(目ぇあけたまま寝とったんか、自分。)」
「お、ぉ。やっと奴さんのお帰りかい。
ってことはお前さんもお帰りかい?
…寝てる暇もないってやつだね、こりゃ。」
そう言いながらゆっくり体を起こすと、ため息をつきながらマスターが散らかした周りの物を手早く纏める。
入り口から机まで、一本の道が出来たところで、ああ、と気が付いて笑った。

「そう言えば年賀状まだ出来とらへんかったんやなぁ。」

ひぃ、と青い顔をもっと青くしたアートマンはガタガタとブラフマンを揺さぶった。
「大丈夫でぃ、アトマ。俺ぁ、必死に…ぐぱぁ!」
「いや、既に変な音しとるやないか!」
マスターがプリンターであるブラフマンを呼ぶのは確かにアートマンやアイオロスを呼ぶ回数を大幅に下回る。
だからなのか、ブラフマンはいつも仕事に必死になりすぎて死ぬ(意識を失う)事はほとんどない。
が、しかし。彼が唯一決まって正月の年賀状印刷だけは毎年死ぬ一歩手前までいく事を、アイオロスはすっかり忘れてしまっていた。
そもそも正月なんて死にそうになるのはアイオロス自身ではなく親代わりである人達である。
(茸さんもリスさんも犬さんも…みんな必死やろうなー。)
ぐらいにしか思ってはいなかった。

アートマンが酷使を強要されるのはいつもの事だし、それを喜ぶ節があるので本当にアイオロスは頭の中からすっぽり忘れてしまっていた。
「ご、ごめんなラフ太。」
慌てて謝るももはやなにに対して謝っているのかすらわからない。
「画像の編集は僕の役目だけど、印刷だけは本当にアイオも僕もアルルも変わってやれないんだ。
ごめんね、ブラフ。」確かにアートマンが死にかければアイオロスが変わって検索でも小説づくりでもやってくれるし、逆も然りだ。
アイオロスが死にかければアルキル(そもそもこの仕事の本職はアルキルだが)が写真を撮るのだって代われる。
だが、誰もブラフマンの代わりは出来ない。
くはっ、と言いながらも死んだような目で年賀状を刷り続けるブラフマンにみんなが哀れみの目を向けたところに、この話の元凶であるマスターが階段を上ってくる音がした。
「ラフ太、頑張ってな。」
それしかいえない自分を呪いながらアイオロスは自分の絵がブラフマンの手によって細かな配色で刷られて行くのを黙って見ていた。


_______

11
 


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -