クリスマスキャロル


鮮やかな色が夜の闇を照らし、どこからともなく流れる音楽は軽快でありながら、心をわくわくとさせるう不思議な響きを持っている。
そんな中をボクは、同じミルフィオーレの仲間、スパナと二人でクリスマスの買出しに来ていた。
もちろん必要なものはすでに買い終えていて、後は帰るだけなのだけれど
スパナが日本のクリスマスに興味があるのか、先ほどからイルミネーションに目を輝かせている。
ボクが何度もスパナの名前を呼んでいるのに、生返事しか返してくれなくて暇を持て余していた。
だっていくらなんでも一時間も同じ場所で立ち止まられていたらイライラもしてくるものだ。
もう一度、今度は先ほどまでよりも大きな声でスパナを呼ぶ。
「スパナ!早くしないと、正一君におこられてしまうよ?」
「うん、わかってるアトリ。あともうちょっとだけみさせて」
「そういって何時間ここにいるつもりだい?!ボク、先に帰るよ?」
「うん・・・。」
・・・また生返事。
放ってきてもいいけれど、放ってきたらきたで後処理が面倒臭いし、かといってこのまま寒い冬の夜風に当てられ続けるのもイヤだ。
どうしたものか?
そう考え始めた時、8時を示す時計の音が響いた。
「?!もう、8時・・・?」
「そうだよ・・・。ボクの話聞いてなかったろう?」
「すまない、いま行く。」
そういってスパナがようやく張り付いていた場所から離れてこちらにくる。


「お待たせ、アトリ。」
「おそい!女性の扱いがなってない」
「・・・アトリなら心優しいから待っててくれると思うた」
「そこまでお人よしでもありません。
早く帰ろう?」
「うん」
そういってスパナを連れてようやくミルフィオーレの基地に向かって歩けると思った。
なのに、スパナは
「ちょっと待って。」
「え?」
「そこから動かんといてな?今からチョーマッハ・・・?で行って帰って来るから」
「ちょっと・・・?!・・・って行っちゃったよ・・・。」
置かれた荷物を盗まれないように見ながら仕方がないので待つ。

・・・
・・・・
・・・・・・・

「・・・遅い!!一体なにやってるんだ?!」
待てども待てども待ち人こず。
いい加減ボクだって堪忍袋が切れる。
本気で置いて帰ろう。そう思ったとき、懐かしい声に振り返った。
そこには、ここにはいるはずのないあの人たちがいた。

「ざ・・・んざす・・・。」

相手はボクに気付いていないのか、セールをしていた店でクリスマスケーキを買ってどこかに行ってしまった。
話しかけようか?そう思ったけれど、ボクはもうヴァリアーの一員でも生存者でもない。
あの場所にはもうボクの居場所がない。

だからボクはぐっと拳を握り締めて、彼らの後姿を見ていることしか出来なかった。

それから数分後にスパナが来た。



「アトリ・・・?」
「・・・スパナ・・・。」
「怒ってないん・・・?」
遅れた事に自覚があったのか少し罰が悪そうな顔でボクの機嫌を見ている。
先ほどまでなら怒鳴り散らしていただろうけれど、今のボクは何も言えなかった。
懐かしい人たちとは敵対関係で、もう二度とあの場所に戻れない事に気付いてしまったから。
それがなぜか悲しくて、まだボクのなかでちゃんと片付いてなかったことに驚いた。

「アトリ・・・。」
「・・・もういいよ。スパナ、帰ろ?」
そういってボクはアスファルトに置いてあった荷物を持つ。

「アトリ!!」
「何・・・?」

スパナが呼んだので振り返ると、ふわりとなにかがボクを包み込む。
それは赤のマフラー。

「待たせたお詫びと、クリスマスプレゼント」
「・・・は?」
「あと・・・」

そういってスパナはケーキの箱を突き出す。

「うちらもクリスマスパーティーするから、寂しくない」
「・・・!」


そういってにこりとスパナが笑う。
ああ、そうだね。

「・・・スパナ」
「なに?アトリ」

「ありがとう・・・。
帰ろう?“ボク”らの居場所に」

「うん」

荷物を持っていない手と手で手を繋ぐ。
するとふわりと上空から白い雪の花が舞い落ちてきた。
様々なイルミネーションに彩られて
輝くそれは幻想的で

帰り道は、優しい音色と彩りで塗られていた。
それはこれからのボクの生き方であるようだった・・・。

end

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