情愛のまなざし
「貴女と過ごせる時間が何よりの幸せなんです」
「はい、知っています」
そっと、日本さんの手に私の手を重ねました。きっと言葉なんて必要はないのです。同じ世界を共有出来る、そのような方が傍にいるそれだけで何よりの幸せになるのですから。空を見上げると、暖かい日差しにほんの少しばかり目が眩んでしまいます。
「日本さん、」
「なんでしょう、藤さん」
「私はこの国に生まれて」
穏やかな、穏やかな風が私の頬を優しく撫でました。
私は知っているのです。私の目が彼を捉えられなくなる日が来ることを。
私は知っているのです。彼は私を、国民全ての中のたった一人として愛する日は来ないのだと。
けれども、私は。国民全てを等しく愛する彼を愛しいと感じているのです。その国民の方々の中に私がいると言うことが、何よりの。
「何よりの幸せです」
傍らには嬉しそうに微笑んで、重ねていた私の手をゆっくりと握りながら、慈しむような目でこちらを見ている日本さんの姿がありました。
100207
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