Mistletoe


目の前には彩り鮮やかに飾られたクリスマスツリー。キラキラと輝く部屋の明かり。テーブルの上に所狭しと並べられた、豪華な料理。そして、沢山の人…なのでしょうか?日本人では無い方が多く見受けられるので、やはりドイツさん達のように国なのかもしれません。数日前、ドイツさんや日本さん、イタリアさんからクリスマスパーティーのお誘いが来て、のこのこやってきたは良いのですが…正直、人が多すぎて困ります。もっと規模の小さなパーティーだと勝手に思い込んでいた分に、何だかとても心細いです。それに、皆さんお洒落ですから、どうしても浮いてしまってるような気がしてなりません。どうしましょう、既に私、帰りたくなってきました。…取り敢えず、ツリーの後ろにでも隠れときましょうか。

「おい、雪月」

「へ?」

いきなり、腕を掴まれて、驚いて後ろを振り向けば、銀髪に鮮やかな深紅の瞳がそこにありました。どことなく、ドイツさんに似ているような…。あれ…そう言えば、全然知らない人なのに何で名前を知ってるんですか?疑問は浮かぶものの言葉にはならず、驚きと戸惑いを隠せずに、ただ見つめていたら、私の言いたいことを察してくれたようです。


「俺様はプロイセン、お前のことはヴエストから聞いてるぜ!」

「…はぁ」

…ヴエストって誰だろう。ドイツさんの事かな?何やら独特な笑い声をあげながら、自己紹介して頂けたのは嬉しいのですが、先ほどから手を掴まれたままなのはどういう事なんでしょう?

「えっと…プロイセンさん」

「なんだ?」

繋がれたままの手の理由を聞きたかったのに、物凄い勢いで誰かに"吹っ飛ばされて"しまいました。

「お怪我はありませんか?」

「え?あ、私よりプロイセンさんの方が大変なことになってると思うんですけど…」

フライパン片手に、プロイセンさんを軽々とぶっ飛ばした当人だと思われる方が、とどめを刺そうと追いかけ回しているのを呆然と見つめていたのですが、深い茶色の髪に青みが入った綺麗な瞳。そのお方が優しく声を掛けてくださりました。


「いえ、あのお馬鹿はああまでしないと学習しません」

「ええと…何だか、よく解りませんが…私が発端みたいなので止めてきます」

多分、プロイセンさんは一人の私に気を掛けて話してくれただけなんだと思うし、何となく。悪気があった訳では無い…はず。まぁ、単にプロイセンさんが嫌いだからぶっ飛ばした場合はフォロー仕切れないけど!うん。

「まぁ、貴方がそうしたいのなら、私は止めませんが…お気をつけて」

「ありがとうございます」



「…噂に聞いていましたが、可笑しな方ですね」

※※※※※


止めてきますとは言ったものの、この広いパーティー会場の中を彷徨き回るだけでも大変です。ましてや、全速力で追いかけ回しているのですから、探し出すのも、追い付くことさえ出来るのか定かではなく。叫び声がした方向へと行ってみるのですが、もぬけの殻で。困り果ててしまいました。もしかしたら、中ではなく外にいるのかと思い、玄関を出ても姿を見つけることが出来ません。仕方なく戻ろうとしたのですが、少しだけ休憩がてら、ぼんやり夜空に浮かぶ星を眺めることにしました。

「…こんなところで何をしているんだ?」

「あ、ドイツさん」

後ろから影が被さって、誰だろうかと、首を傾げながら、顔をあげるとドイツさんの姿がありました。そう言えば、最初はドイツさんを探していたのだと今更ながら思い出し、返事を返しながらもほんの少しだけ可笑しくなりました。

「プロイセンさんがフライパンで吹っ飛ばされて…」

「兄貴が?…それはまた見苦しい所を見せたな」

「いえ、一人の私にも声を掛けてくださった優しい人でしたよ」


ドイツさんがまるで自分が失態を犯したような顔をするので、もう一度あの場面を思い返しましたが、特に嫌だと思うような事はされていなかったと首を振りながら、伝えておきました。ドイツさんの家では兄の失態は弟の失態なんでしょうか?国と言うのはやはり不思議な存在です。


「雪月、一人にして悪かったな」

「いえ、あの…心細くはありましたが、ドイツさんに会えて安心しました」

「…そうか」

私とドイツさんとの会話が途切れ、静けさだけが辺りを包み込んで、会場内から聞こえる騒ぎ声がとても遠くに感じます。

「…あ、ドイツさんに渡したいものがあったんです」

「なんだ?」

「これを…夏祭りの時のお礼です」

「開けても良いか?」

「はい」

思い出すのは、射的で取って貰ったぬいぐるみの記憶。何かお礼をしようと、そう思って買った橙色のマフラーが入った包み紙。ドイツさんに気に入って貰えるか不安で、中々顔を上げれません。

「雪月…danke schon.」

「え、あ…似合ってます」

名前を呼ばれて、顔を上げればマフラーを巻いたドイツさんがこちらを見て、照れたように笑っていました。あんまりにも笑った顔が綺麗で、うっかり見とれかけていましたけれど、しどろもどろになりながら、何とか言葉を発すれば、目の前に居るドイツさんが膝を折りながら、優しく私の手を取ってくれました。

そのまま、会場内へ戻ろうとすれば急にドイツさんが立ち止まるので、自然に私も歩みを止めてしまいます。ふと、ドイツさんの視線があるものを捉えていたので私もそちらを見つめると、綺麗にデコレーションされたわっかの飾りがありました。

「…あの、わっかの飾りって何て名前でしたっけ」

「…ああ、あれはミスルトゥ、日本ではヤドリギと呼ばれているな」

何となく疑問に思ったので口に出してみれば、ちゃんとドイツさんは答えてくれました。優しいなぁ…。

「ミスルトゥの下で恋人同士の永遠の愛を誓ったりするんだ」

「…へー、初耳ですね」

「それともう一つ言い伝えがあってだな、ミスルトゥの下に女性が居たら通りかかった男性がキスをするのが礼儀と言う話もあるんだ」

何だか、日本では考えられない話だと思いながら、そのヤドリギ、ミスルトゥを見詰めていれば、不意に視界が暗くなり、ひんやりと額に軽く触れる感触を感じて。

「メリークリスマス、雪月」

それが何かを確認するまでもなく、ドイツさんが私の頭をくしゃくしゃと撫でるから。

「メリークリスマス、ドイツさん」

この人と居る時間がずっと続けば良いのにと願ってしまう。



0912

2
 


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -