幸せのカタチ


目の前には鮮やかなオレンジ色をした浴衣を着こなすイタリアさんと藍色の浴衣がとてもよく似合ってます日本さんとが楽しそうに話している。でも、周りの喧騒で何を話してるのか聞こえない。ざわざわと、篭った熱気が蒸し暑い。美味しい香りの漂っている夜店ではおじさん達が声を張り上げて、客を入れようと頑張っている。何だか、お腹空いたな…。隣にいるドイツさんは先程から威圧感丸出しでちょいと怖い。折角の祭りだからと言って日本さんに着せて貰った絡子模様の渋い枯草色の浴衣がしっくり馴染んでいて、髪型も少し変えてるから、別人みたいだなぁ。

「おい、雪月」

「…え?あ、はい!なんでしょう!」

思考が明後日の方向へ向かっていたせいで、ドイツさんの言葉に必要以上に大きな声で返事をしてしまう。ドイツさんがきょとんとした顔でこちらを見る。うわぁ、何か、恥ずかしい。あわあわと挙動不審にテンパる私を見れば、口を押さえて可笑しそうに笑うドイツさん。

「笑わないでください…」

「悪い…反応が面白かったんでな」

恨めしくジト目で見つめれば、ドイツさんは小さく笑って謝ってくれた。そう言われれば返す言葉も見つからなくて、ううっと恥ずかしさに耐えかねて下を向けば、不意に頭の上から撫でられる感触が。…撫でられる感触?

「ド…ドイツさん、何してるんですか?」

「あ、すまん…つい」

首を傾げ、見上げる形で尋ねると、慌てて頭から手を離し、何故か、私以上にしどろもどろになるドイツさん。さっきから私の心臓がバクバク言ってるんですが、どうしてくれますか!ドイツさん!とうっかり口に出してしまいたい衝動を押さえつつ、気付けば、日本さんとイタリアさんもこちらを向いていて……もしかして全部見てました?と視線で尋ねかければ、勿論最初からと言わんばかりの微笑みを返す二人。


「…何か、食べないか?」

場の空気に耐えかねて、誤魔化すように、ドイツさんが屋台を指差しながら尋ねる。イタリアさんがパスタを食べたいって言い出したけど、日本さんに宥められている。屋台にパスタは流石に難しいだろう。私は無難にわたあめにしました。ドイツさんに奢ろうかと言われたけれど丁重に断らせて頂きました。そこまでして貰うのは…も、申し訳ない。

「あ、射的」

結局、イタリアさんはりんご飴、ドイツさんがじゃがバター、日本さんは私と同じわたあめをもしゃもしゃ食べながら、目についたのは夜店の定番、射的である。ドイツさんがやったらさぞ似合うだろうなぁ。と考えながら見つめては、小さく呟きを漏らす。

「…やりたいのか?」

「い、いえ、私は良いです、下手くそですから」

寧ろ、ドイツさんがやってる姿を見たいです、なんて言える筈もなくて。首をぶんぶん振って苦笑を浮かべると、そうかと、じゃがバターを私に渡すドイツさん。


「…何か欲しいものはあるか?」

「あー…あのウサギが欲し…」

話の意図を解らずに目の前に居た白いウサギのぬいぐるみを指差すと、店の主人らしき人にお金を渡す。因みに日本さんは消えてしまったイタリアさんを追って、既に何処かへ行ってしまっている。…恐らく、イタリアさんは可愛い女の子を見つけて話し込んでいるに違いないだろう。

「あれで良いのか?…よし必ず取ってやろう」

確認するように、私にそう告げれば、コルクの詰められた銃を構える。あまりにも様になりすぎである。何だか、店の空気までもが張り詰めた気がしたけど気のせいですよね!…そうだと思いたい。その上、いとも容易くぬいぐるみを撃ち落とす姿は、流石としか言えなかった。ポスンと勝ち取った獲物を私に押しつける。何だか、未だに状況が良く理解できないけど、これはドイツさんが私のために取ってくれたもの。


「…あの、ありがとうございます」

ギュッとぬいぐるみを抱き締めながら、お礼を言ったら、ドイツさんは柔らかく微笑んでくれて。再び、頭を撫でられて、照れ臭くて堪らなかったけど、そんなに嫌じゃなかったのも本当で。

「ありがとう…」

そんな風にドイツさんが小さく笑って、言葉を返すから、嗚呼、そうだ、幸せってこういう事かもしれないな、とそんな風に思えた夏のある日。

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