Stimme


冬が終わり、春がやってくるこの時期は沢山の草花が芽吹いていて好き。窓の外から射してくる日差しは暖かくて、ひらひらと揚羽蝶が優雅に飛んでいるのを見ると、うっかり追いかけて行きたくなる。そう、こんな日は外へ出て行く宛もなく、散歩にでも出掛けていきたいのに、なんだか喉をやられてしまったようで行くにいけない。

「季節の移り変わり、気を付けて居たのに、なぁ……」

至って不覚だ。声を出そうとすると、何だか喉がざらざらとした違和感を感じる。熱は出ていないのだけれど、人混みが多い場所や空気の悪い場所は避けるようにと医者に念を押されてしまっては、出歩こうにも場所は限られてしまう。もとより、下手に外出して悪化してしまうよりも、大人しく家でぼんやり過ごす方が今の私には得策である。せっかくの休みだけれど、横になって寝ていれば治るだろう。真っ昼間だというのに、他にやることもなくふわふわの布団にくるまって、静かに寝入ることにしました。





「……あ、」

ピルルと電子音が部屋の何処かから鳴り響く、彼女が寝入ってから時間が経っていたのだろう、傍らに置いてある時計はもう夕方を示していた。寝ぼけ眼で発信源である携帯を見つけたものの、アラームなのか着信音なのかが解らず、慌てて止めようとボタンを押す。すると、向こうから聞こえてきたのは、聞き慣れた声だった。

『Hello.Heir spricht Deutschland.(もしもし、ドイツだ)

「ど、ドイツさん?どうして、」

確かに、国であるドイツさんとは連絡先を教えていたけれど、何か今日は予定があったのだろうかと首を傾げるも、心当たりなど一つもない。

『寝起きなら、起こしてすまなかった。日本から具合が悪いとの話を聞いて、心配になって連絡したが……大丈夫か?』

「ふふ、日本さんも、大げさですね」

『しかし、声が掠れているようだな。無理せず大人しくするようにな』

「はい、解ってます」

ドイツさんの声を聞くだけで、ついつい顔が綻んでしまう。イタリアさんに対して、怒っている時は怖い声だけれど、こうして電話越しで伝わる声は優しさがこもっている。

『長々と話をしていては良くないな。無事に声が治ったら、また話そう』

「ええ、もちろん、話しましょうね」

通話が切れてしまうのが酷く名残惜しいと、ずっと、話していたいと想う心はなんでしょう。ドイツさんに聞けば解るでしょうか。ただ、心遣いが嬉しくて、早く治してしまおうと思ったのです。

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