「あらら…」

 ピピっとなった体温計を見てみれば、38.8と表示されていた。
 横でぐったりとしている守を見てため息というかなんというか…。とりあえず守の頬をさらりと撫でた。

 結婚式まであと2日。守にプロポーズされて、了承して、結婚式の日をドキドキしながら待っていたんだけど…。
 熱を出してしまった場合はどうなるのだろうか。やっぱり延長?それとも予定通り?
 とにかく今は結婚式どうのこうのより守の体調を優先させなければ。こんな調子じゃあサッカーなんて出来ないよ。もちろんお仕事もおやすみしないとね。

 横であーとかうーとか唸っている守を見て苦笑いがもれた。どしゃ降りの中帰ってきて、風邪ひくよって言ったのに濡れた服のままぶらぶらしてるから。まったくもう。

 とりあえず今から何か食べやすい物を作ってあげよう。服はジャージ…で良いか。
 ジャージここに置いておくから着替えてね、そう声をかけてお粥かうどんを作る為に部屋を出ようとした、けど。

「名前〜…」
「あつっあつっ」

 ぐでん、と私に乗っかってくる守。いつもの抱きしめてくれる守の体温とは違う。ほんわり温かくて、ふわふわしない、ただあつい。そして重い。

「守、ご飯作ってくるからのいて」
「どこに行くんだよお〜」
「だからご飯つくるの。何か食べないと駄目でしょ」
「どこにも行くなよ…ずっとここにいろよ〜…」

 風邪をひいたら心細くなる…っていうのかなあ…。守は離れてくれない。守の触れている所からじわりじわりと汗がにじむ。本当熱いなお前。


 大丈夫だから、絶対戻ってくるから、とやや強引に説得して急いでキッチンに向かった。
 さっさとご飯作って戻ろう。じゃないと守がまたうろちょろと動きだす。

 うどんにしようと鍋に水を入れて火をかける。卵とうどんを冷蔵庫から出して…。出来たら冷えぴたも一緒に持っていこう。

「名前〜」
「あー…」

 がチャリ、とリビングのドアをあけて来たのは守。まったく…もう来ちゃったよ。仕方ないからソファーに寝かす事にした。
 守こっち、と呼ぶとへらへらと笑いながらこっちに来る守。何笑ってんの…

 ごろん、と私の膝に頭を乗せる守。私は熱冷まシートを守の額にピタリと張り付けた。眉間にシワを寄せる守。そんな守を見るとクスリと笑いがもれた。

 私はソファーから鍋の所に戻ってうどんを茹でる。

「名前〜名前〜…」
「はいはいここに居るよ」

 茹でている間も守は私の名前を呼んでいた。だから静かに寝とけって。

 うどんも出来て守に食べさせる。今日は風邪のせいかやけに甘えモードだ。いつもならあーんしてあげるって言っても恥ずかしがるくせに。


 うとうとしてる守をなんとか立たせてベッドルームに向かう。だからずっと部屋に居ろって言ったのに!重たいなー!

 守をごろん、とベッドに寝かせて布団を被せる。ふう…なんか疲れちゃった。

 今のうちに洗濯やら済ませちゃいますかー…。


 ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「ふう…」

 一昨日熱を出してダウンしていた守。昨日も大分ぐったりしていたのに今日熱を計ってみると36.1。な、なんだこいつ…すごいな…。

 予定通り結婚式は行われる事になった。今さらだけど…緊張してきたなあ…。
 化粧をしてドレスに着替えて…窓から外を見て気分を落ち着かせようとする。けど、なかなか落ち着かない。ドキドキが止まらない。


 コンコン、と部屋のドアをノックされる。守だ。どうぞ、と言ってしまったら心臓の音がもっと大きくなる。はあ、やばい。

 がチャリ、とドアをあけて入ってきた守は白のタキシードを着ていて、いつもとはとても違って…。

 さらりと守が私の頬を撫でて、髪をとかす。溶けそう。


「綺麗だ」

 ほんのりとピンクに染まった守の頬。まだ熱があるんじゃないかな?今の私にもあるだろう。

 ぎゅう、と守に抱きしめられる。壊れ物を扱うようにとても優しく。
 たった2日くらいだろうけど、なんだか懐かしい守の体温。幸せだ。


 ∴36度の幸福

(私は今日やっと、)
(円堂名前になるのね。)






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