一人ぼっちのご飯はただただ虚しい。幼少期を孤児院で過ごした私は、周りに人が居るのを当たり前だと思っていたから余計に。目の前に誰も座って居ないのが寂しくて、何時も以上にテレビの音量を上げてしまった。
新婚なのにこんな寂しい思いをさせるヒロトが恨めしい。お日さま園出身のマサキの為やら円堂くんの為とか言って、ずっとホーリーロードやフィフスセクターについて調べている。調べるのは自由だけど、それに私の旦那様をこき使わないで欲しい。リュウジが夕飯に帰って来れなくなって一週間近くが経つ。
「……何か涙出てきた」
これなら玲名の誘いを受ければ良かった。メールでヒロトの愚痴を漏らしたら「お日さま園に来れば良い」と言って貰ったのに、もしかしたらリュウジが帰って来るかもしれないからと断ってしまったのだ。ごめん玲名、相変わらず男前な貴方が好きよ。
「……電話?」
新婚なのに、とモゴモゴしていると携帯のバイブが鳴る。着信は、新婚の部下をこき使う社長様から。出るのは嫌だけど、大事な用かもしれない。嫌々ながらも着信を受けた。
「……如何なさいました、社長様?」
『電話の相手に嫌味言う程ストレス溜まってるの?』
「ヒロトにだから言ってるんだよ」
『えー俺何かした?』
「現在進行形でね」
嫌味が通じないというのも大変である。特にヒロトなんか確信犯だから面倒臭い。ごめんねという謝罪が謝罪に聞こえないのが腹立たしい。旧友兼上司としてスピーチした時の、あのどや顔を思い出した。
『玲名の誘い断ったんだって?』
「……だって、リュウジ帰って来るかもしれないから」
『うん、何かごめん』
「謝るなら早く帰してよ」
『思った以上に忙しくて……』
皆が忙しいのが判っているから、堂々と文句が言えないのだ。今我慢すれば良いだけだけど……それが簡単じゃないから困る。誰にどう八つ当たりすれば良いのかな、フィフスセクター? イシドシュウジ? つまり豪炎寺くん?
『もしもーし、勝手にトリップしないでー』
「あっ、ごめん……」
『良いけどね。そろそろそっちに荷物が行くから、受け取ってね』
「荷物?」
『そ、名前宛の荷物。それじゃ』
ヒロトはそれだけを言うと、あっさり通話を終わらせた。よく意味が判らないけど、取り敢えず待てば良いのだろう。余り興味のないバラエティーに目をやりつつ、独りで虚しい夕食を再開させる……つもりが、家のチャイムが鳴ってしまった。早いな配達。私宛だと言っていたけど、何だろう。
「はーい、今行きまーす」
パタパタとスリッパの音を立てて、急ぎ判子を用意する。この前から緑川になったこの判子を使うのは、これで何度目だろうか。用心の為の鍵を外してドアを開けた。
「お疲れ様で……え?」
「どうも、吉良配達です」
「り……リュウジ……?」
「ただいま。玲名が、今日の名前はかなり寂しそうだったぞって教えてくれたから、ヒロトが早めに帰してくれたんだ」
ちょっと疲れた顔をした私の旦那様が、判子を持つ私を笑いながら玄関に上がる。ちゃんと鍵を閉めて、私を引き連れてリビングに向かった。う、嘘……。
「わっ、テレビの音大きいよ。そんなに寂しかったの?」
「リュウジ……」
「ん?」
「……おかえり、リュウジ」
「うん、ただいま名前」
迎えてくれる人と、帰って来てくれる人が居る生活は、幸せに違いなかった。
120622