追いかけっこ
「きゃあぁぁぁ!!」 「何事?!」
レナがドアを開けると共に聞こえてきた悲鳴にシロウは中を覗き込む。
「何あれ……」 「赤い服の女よ……目を付けられたらどこまでも追いかけて来るわ」 「いや、そうじゃなくて。あの女の子ってまさか!」
レナが応えるより先にシロウは彼女の横をすり抜けて今もなお赤い服の女に追われている少女の元に走り出す。
「お嬢ちゃん大丈夫?」
「え……?」
間一髪、赤い服の女の手が届く直前に少女を抱き上げて走り出す。
「シロウ、こっち」
「おう!」
少女を抱え直したシロウは走る速度を早めてレナの方へと向かい、彼女が空けてくれていた部屋へと滑り込む。
「はぁ……っうぉ?!」
レナがドアを閉めた瞬間、激しくドンドンとドアを叩く音がしてその場から飛び退く。 その際にぶつかった本棚から紙切れが落ち、それには「た の し い ?」と書かれていた。
「腹立つわー……な・に・が、楽しい?だよ」
少女を降ろして紙切れを拾い上げると、適当な本と本の間にはさみ直す。
「あの……」
「ん?どうした、お嬢ちゃん」
「助けてくれて、ありがとう……ございます。」
小さくお辞儀をした少女は、両手にしっかりと赤い薔薇を握りしめていた。
「あー、どう致しまして。薔薇を持ってるって事は、君も迷子?」
「貴方も……?」
少女はキョトンと首を傾げながらシロウを見上げて、彼が手に持っている花びらが残り二枚(追いかけっこの際に赤い服の女の手が掠った)を見て小さく声をあげた。
「うん、俺はシロウ。今はそこに居るレナが案内してくれてる」
「レナ……?」
少女はシロウが指差すを振り返ると、本棚を探っているレナが居た。
「あ、あった……」
レナは本棚から一冊の本を取り出すとシロウに手渡した。
「何々……?うっかりさんと、ガレッド・デ・ロワ……?」
ペラリと表紙を捲ると、独りでに絵が動き出し、文字が浮かび上がる。
「おぉー、すげーな」
シロウは少女と並んで絵本を鑑賞し始めた。
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