青
「…………」
「シロウ…?」
あの絵本のあった部屋を出て直ぐの場所にあった水色の花瓶に薔薇を活けて無事回復したシロウは、二つある通路の内、入って来た扉を背にして左へと行くも、絵が不在のネームプレートと、ところどころに散らばる青い花びらと血痕しか見当たらず、更には唯一あるドアには鍵が掛かっていたため、反対側の通路へ向かうと、紫と濃紺の何かが倒れていた。
「人…?」
「多分ね……」
「展示品じゃないよな?」
「恐らくはね………」
恐る恐る近寄ってみると、それは紫の髪の青年で、時折苦しそうに呻いている。
「おーい、生きてる?」
「ぅ……痛い…」
シロウが声を掛けても小さく呻くだけで目を覚ます様子がない。
「シロウ」
「どうした?イヴ」
「この人、鍵持ってるよ?」
イヴの指差す方を見ると、青年の手には確かに赤い鍵が握られていた。
「本当だ……お兄さん、ちょっと鍵借りるよ?」
念の為に青年に一言断ってから鍵をそっと抜き取る。
「さて、この鍵でちょっとさっきの部屋調べて来るわ。イヴとレナは二人でこの人の様子見といてくれるか?」
「うん!」
「分かったわ」
二人が頷くのを確認してシロウは再び左側の部屋へと向かって行った。
「スキ……キライ……スキ……キライ……」
「うわぁ……」
鍵を使って入った場所は小さな小部屋になっており、奥で青い服の女が花占いをしていた。
「あれ?あの花ってもしかして……」
よく見ようと一歩踏み出した瞬間、青い服の女と目が合う。
「あ……」
シロウが踵を返して走り出すのと、青い服の女が這い寄ってきたのは殆ど同じタイミングで、シロウは追い付かれる前に部屋から出てドアを閉める。
「ビビったー……ん?」
安堵の溜め息を吐いた直後、ドンドンと何かを叩く音が聞こえ、窓ガラスを破って青い女が出てきた。
「マジか……」
ほぼ反射的に再び小部屋の中に飛び込んでドアを閉める。
「何でもありかよ、この美術館……ん?」 扉に背を預けて息を整えてから青い服の女が居た辺りに視線をやると、萎れかけた青い薔薇が落ちて居た。
「薔薇……?あー、もしかして」
青い薔薇を優しくハンカチで包み、ドアを開いた瞬間、青い服の女に飛びかかられる。
「うわっ?!忘れてた!!」
シロウは踵を返すと猛ダッシュで来た道を戻り、ドアを閉める。
「あぶねー……」
ドアに凭れるように座り、息を整えてから青い薔薇を花瓶に入れて元気にさせ、二人が待っている場所へと歩き始める。
|