「華、着いたよ」 お父さんの声で目を覚ますと、そこはもう山が並んで居た。 「わぁ……ここがお父さんの生まれた村?」 「そうだよ。これから行く月代神社がお父さんの実家だ」 「月代…神社……」 「兄さんの息子さん達は優しい人ばかりだから、華とも仲良く出来るとおもうよ?」 楽しみだなぁ…… 流れていく景色を眺めていると、ふと白い布みたいな物が生きているように宙を舞っているのが目に入った。 「お父さん、白い布っぽいのがこっちに近寄っているんだけど……」 「ん?あぁ……一反木綿か。華にも見えるのか?」 「うん、見えるよ。初めて一反木綿を見た」 私のお父さんは、生まれた時から人には見えない物が見えるらしく、私もお父さんに似て見えない物が見える。 たまに悪い物が近付く事もあるけど、ほとんどが迷子の妖怪ばかり。 「一反木綿も迷子なのかな?」 「いや、どうやら悪い意味で近寄って来たみたいだ……しっかり捕まってろ!!」 「きゃっ!?」 頭打った……。 お父さんはアクセルを踏み込むとハンドルを切る。 その後ろを一反木綿が凄い勢いで追いかけて来る。 「華、神社だ!走るぞ!!」 お父さんの声に我に帰り、荷物を詰め込んだバッグを持って階段を駆け上がる。 「ぐっ……!」 「お父さん?!」 一反木綿がお父さんの首に巻き付いてギリギリと締め上げていく。 「白月!」 誰かの声が聞こえた直後、白い大きな生き物が一反木綿に飛びかかって居た。 「げほっ……!」 「お父さん?!」 「早くこっちへ…!」 声の持ち主はお父さんを支えるように手を貸して階段を駆け上がり、敷地内に飛び込む。 私は慌てて後を追いかける様に敷地内へとスライディングしてしまった。 「あいたた……」 「大丈夫?」 手を差し出して来たのは助けてくれた人とは違う人で片方の目に医療用の眼帯を着けている人。 「だ、大丈夫です……」 「良かった。」 その人は小さく微笑むと手を引っ張って立たせてくれた。 「はー、悪いな五夜君。助かったよ。」 「驚きましたよ。車の音がしたと思ったら叔父さんが一反木綿に締められているんですから。気付いて飛び出して行った白月に感謝して下さいよ?」 お父さんを助けた男の人の視線を振り返ると、ボロボロになった一反木綿を口にくわえた白くて大きな狐が居た。 「あ……泣いてる……」 眼帯の人から手を離して、狐から逃れようと暴れる一反木綿に手を伸ばす。 「あぶな……!」 誰かが止める声が聞こえたけれど構わずに一反木綿に攻撃されながら触れる。 「君……どうして泣いてるの?」 『……、…………!!』 ……えーっと。 一反木綿が何か言っているみたいだけど、言葉がわからない……。 『イテェ、邪魔するな馬鹿!!』 「えっ!?」 声の聞こえた方を振り返ると狐がこっちを見ていた。 『俺がこいつの言葉を通訳する』 「あ、ありがとう……。あの、君はどうしてお父さんを殺そうとしたの?」 『殺そうとした訳じゃない。いつぞやの落書きの恨みでシメただけだと』 「落書き……?」 『お前の親父がガキの頃、コイツに落書きしたんだと……』 「え……」 えーっと、色々突っ込み所がある気がするけどとりあえず…… 「お父さんっ!!!!」 地面に座っているお父さんの頭を力任せに押さえつけて一反木綿に土下座で平謝りした。 「ごめんなさい!お父さんが貴方に落書きしたなんて知らなかったんです!お父さんにはキツく言っときますから許して頂けませんか?」 「これ立場逆じゃn…いだだだだ!!」 「お父さんは黙ってなさい!!」 結局、一時間位土下座して許して貰って、一反木綿とは友達になれた。 ちなみに名前はペラペラさんと命名(結構喜んでくれた)。 しおりを挟む back |