another01.飛べない鳥






 悪い夢だろうと思うことができれば、信じることができればどんなに幸せだろう。そう考えながら何度この真っ白な天井を見つめたか。ゴールドは細めていた目を閉じ、ごろりと体の向きを横に変え、前使っていたものより少し柔らかくなったベッドの上で体を丸くなった。随分と胃が満たされている気がして、あるからといって調子に乗って食べすぎたか、と少し後悔する。ほんの少し前までの生活とがらりと変わった環境に、順応したくなくてもしなければならない現状がなんとももどかしい。人と関わることなど今では殆どなく、呼ばれたら応え、疲れ果ててこの部屋に戻ることができたらまだマシだと笑える程度の毎日だ。
 ――いやになる。
 慣れたくなどない。この生活を当たり前にしたくない。ベッドは柔らかくなり、食事は以前よりよっぽどいいものを与えられている。それでも所詮こんなものか、と自分がいるその場所の生活を捨て去りたくなった。

「……できっこねえけど、な」

 ずきずきと痛む頭を抱え込むようにして真新しい、のりのきいた枕に顔をうずめた。今は、耐えるんだ。耐えたら、耐えることができたらまたきっと。

「ばかか、俺は」

 期待するだけ無駄だと自分の希望を自分自身で砕きながら、ゴールドは頭痛を落ち着かせようと深く呼吸をする。ちらりと視線を移した真っ白な部屋の中にあるその棚の上には与えられた、赤いトレーナーと黄色のズボン。それに袖を通す日はまだ来ないけれど、いつかはこれを着ることになるだろう。そしてその時は…――。
 考えることはやめようと自分の体を起こし、胡坐をかいて座り、はあと息を吐いた。

「それでもやらなきゃいけねえし」

 やってらんねえなあ、と呟いた声は、他の誰かに聴かれていたのだろうか。
 もう眠りに任せてしまおう。今の自分にとって嬉しい夢なんて何一つない。頼むから夢だけは見させないでくれよ、と胸中で呟き、ゴールドはきつく目を閉じてその真っ白なシーツに身を委ねた。




2009.11.17
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