▽変わり者の吸血鬼と人間の男の子な臣隆について



面白いと感じるものがあれば、吸血鬼が嫌う教会にも何食わぬ顔で現れるような変わり者の、長い長い時を生きてきた力のある吸血鬼の一臣くん。

たまたま、気紛れで立ち寄った教会で幼い頃の隆彦に出会って、驚くでも感嘆するでもなく、自分を淡々と見上げてきた子供が何も言わず、腕に抱いてた作りかけのシロツメクサの冠に使おうとしていた白い花を差し出してきたことから始まる二人だといいです。

「ああ、これをくれるのかい?」

聞くと頷き返して、

「…あなたに、にあいそうだから」

表情を変えずに言う隆彦に

「そう。ありがとう」

天使と見紛うような微笑みで受け取って、それから一臣くんは時々ふらりと教会に現れるようになる。
隆彦と軽く戯れては消えて、けど、その内に姿を現さなくなって、成長と共に隆彦の中で一臣くんとの記憶は薄れていくんだけど、神父として子供たちを養いながら教会で過ごすようになった頃、唐突に一臣くんがまた現れて

「やあ。すっかりおおきくなったね」

とか記憶の中の彼と寸分違わぬ様子で、美しく微笑んだりして。
隆彦は、幼少期には気にも留めていなかったその異様さに目を眇めるんだけど、

「……一臣、?」
「全く、人の子の成長は早いものだ」
「…」
「ふふ。目線が近くなった」

気にせず笑う一臣くんと、ざわめく教会で養ってる子供たち。

「ねえ、せんせえ。あのきれいなおひとは、だあれ?」って聞かれて言い淀んでたら「もしかして、てんしさま?」「せんせえ、てんしさまとおともだちなの?」とか言われて否定して、でも、確かに自分も小さな頃、ちょうど彼と共に時を過ごした記憶を思い返すと同じように思っていたことを思い出すわけです。

そうして、そういえばどうしてあいつはここへ来なくなったんだ、とかぼんやり考えていたら、子供たちを軽く構ってやっていた一臣くんがふいに振り返って、思考を読んだみたいなタイミングで微笑んで「っ、」って隆彦が苦い顔をしたりすればいい。

で、一臣くんは、昔隆彦のところへ顔を出していた頃、別の吸血鬼がこの教会のある街に目をつけて結構派手に『食事』をし始めていたことがきっかけで今の今まで離れていたとかいう事情があるとかないとか。

他の吸血鬼のことはどうでもいいから放っておいたものの、その内に自分に対しての威嚇というか警告的に『食事』の場所が近づいてきて、

「同じ場所に同族がいちゃあ、過ごしにくくて敵わねぇ。なあ、あんた消えろよ」

とか直接接触までしてきて。興が削がれて、さてどうやって『お片づけ』をしたものかと考えてるところに「この先にある教会からも、いい匂いがしてくるよなぁ…?くくっ、あれ、お前の餌か?」だとか煽るような物言いで男が指差す先に、こちらには気づかず、教会から出てきて任された仕事をしている幼子の姿が目に入って、一臣くんは瞬くとまた笑みを浮かべて

「餌…なんて、そんなものじゃないよ」
「はは!じゃあ………………………慰み者か?」

下卑た笑い方で聞く男に一臣くんがゆったりと近づくと、次の瞬間には男の身体はばらばらになって

「あの子が俺のなんじゃない。俺が、あの子のものなんだよ」

ってその肉塊に笑いかける一臣くん…。
イギリスで、シロツメクサの花言葉は『私のものであれ』。豪奢な花に囲まれることは今までに幾たびもあったけれど、野花を一つ差し出されて受け取ったのは一度だけ。
で、それを受け取った時に隆彦が覚えていない会話があって、

「それにしても、シロツメクサを貰うのは初めてだなぁ」
「…きらい?」
「いいや?好きでも嫌いでもないよ」
「……そう」
「でも、好きになってもいいような気がしている。かな」
「…?」
「ふふ。また、遊びに来るよ」

一臣くんの言葉の意味が分からなくて隆彦が「また…?」って聞いたら「そう。また、明日。会いにくるよ」一臣くんは見上げてくる隆彦の前に片膝をついて屈んで、胸元に手を当てて。

「この花を受け取った瞬間から、私は君のものになったからね」

って微笑む、暇を持て余した酔狂な吸血鬼のお話…。
別にこれが愛とか恋とかではなく、ただただ、美しく長い時を生きた吸血鬼が、『この子供が死ぬその時までは』って期間限定で遊んでいるだけの戯れというか、あとついでに成長した隆彦から血を貰うようになるとかならないとか、でも奇妙な友人関係は長く続いて、いつか隆彦が息を引き取るときには

「なんだか、胸のあたりが苦しいな」
「………動く、心臓もないのに、か?
「ふふ。そうだね。おかしな話だ。けど……これが、君たちの言う『寂しい』という感覚なのかもしれないね」

言葉とは裏腹に、まるで微塵も寂しさなんて感じさせない、出会った頃と同じような微笑みで言う一臣くんは、そっと手を伸ばして、ベッドに横たわる隆彦の手に一輪のシロツメクサを渡して、

「君にも、シロツメクサがよく似合うよ」

って祝福を与えるみたいに額にキスをして、それから隆彦が息を引き取るっていう……そういう話を、誰かください(白目)






吸血鬼と人間の臣隆の話/黒

2015/09/24 14:44

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