▽もし万が一井出くんの両腕が無くなったとしたら



きっと、腕が無くなっても井出くんは生きていて、どっちかと言うと死ねないって言い方の方がしっくりくる。
生きるために死ねないんじゃなく、ただ単純に容易く死んでしまえない身体。
多少の痛みはあるんだろうけど、それでも井出くんは両腕が無くなったことに対しては『多少不便になるかな』くらいの認識しかなさそうです。

それから、合流したこまちゃんが自分でも良く分からないまま顔をクシャクシャにして涙を滲ませながら近づいてきて、「いでさん、うで、なくなっちゃったん、です、か?」って手を伸ばしながら聞いてきて、そこでやっと、ああ、ってなって「うん、なくなっちゃった。上手には殺してあげられないかも」って、いつもと同じような声と表情で「ごめんね、こま」って名前を呼びながら柔らかく笑う井出くん。

そのせいで、余計にブワッてなってこまちゃんは泣きながら井出くんに抱きついてきて、それを見留めた井出くんは目を柔らかく細めながら「うーん…どうしたら優しく殺してあげられるかなぁ。蹴ったり噛み切ったり、なんかそういうのは気分が乗らなさそうだから、もっと違うのがいいんだけど…どういうのがいい?あ、そうだ。こまの口を何かで塞いで……うーん、でもなぁ、それだとこまが苦しそうだから俺的にはそれもあんまり…」なんて、今度どこへ出掛けようかって話をするみたいにつらつらと話し始めたりして。

そのままそれを続けていたら、ゆっくりと顔を上げたこまちゃんの顔が近づいてきて、「ん、」「……じゃあ、ふさいで、ください…」って軽く押し当てるだけの口づけをされて、井出くんは一瞬、ほんの少しだけびっくりするけど、またいつもこまちゃんに向ける笑みを浮かべて「……うん、」ってこまちゃんの方へ身体を傾けて、井出くんは泣いてるこまちゃんの額に、こめかみに、瞼に、鼻先に、頬に、口にキスして「………うーん、ねえ、こま。どうしよう。これじゃあやっぱり、殺してあげられそうにないや」って、こまちゃんを見てたらあちこちキスしてあげたくなって、口を塞ぐ殺し方は出来そうにないってことに困った笑い方をする井出くんが浮かぶんですが、井出こまホント何やってても尊いし可愛くてツライです……。

きっと井出くんは、生活的には器用だからなんやかんや足とかを駆使しながら過ごしてやり過ごしてそうな気はするんですけど、ふとした時にいつもみたいにこまちゃんを抱き締めようとして「………、あれ?…………、ああ、そっか、俺…」って自分の腕が無くなったことをそこでやっと強く意識して、「ははっ、ねえ臣くん。腕、無いと不便だねぇ」とか笑う大馬鹿野郎なので、とりあえず腕は無くしても一本くらいに留めるようにお兄ちゃん指導してあげてください……自分本位な導きでもいいので一臣くん……それかもういっそ井出こまちゃんは眠るように幸せな心中して、一臣くんに花を微笑みながら贈られればいいと…二人にとっての幸せで不幸せな結末を迎えていただきたいと願わずにはいられない親心。





もしも井出くんの両腕が無くなったとしたら/黒

2015/09/08 23:12

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