うざい奴と罵ってくれ。
1度目の告白で断られたほうが、まだ気が楽だった。
家に帰ってきたオレは、何室あるうちの適当な寝室に入ってベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
サングラスを外し、リーゼントをぐしゃぐしゃに解いた。
泣きたい。
今までのオレはなんだったんだ。
全部なんだったんだ。
「姫川、もう一度ジェットコースター乗ろうぜ」とオレの手を引いたのも、
「ん。半分やるよ」とホットドッグを半分に千切ってオレに渡してくれたのも、
「もう一戦!」と眠さも忘れてゲームの再戦をしたのも、
「これ負けたら昼飯奢りだかんなー」とカーレースをやったのも、
「おまえの手、あったけーなぁ…」とオレの手を握り返して微笑んだのも、
アレが全部、ダチに見せる顔だったのか。
オレだけに見せてくれてたんじゃねえのか。
オレ…、スゲェ思い上がってた。
「彼女欲しい」って言ってた神崎も、やっぱり男のオレじゃダメなのか。
いっそのこと性転換手術するべきか。
血迷ったことを考えた時だ。
ピンポーン
インターフォンの音が部屋に鳴り響いた。
誰だこんな時間に。
ケータイを見ると日付が変わる手前だ。
ピンポーン
懲りずにまたインターフォンが鳴らされる。
「……………」
姫川竜也は傷心につき居留守です。
起き上がりたくねえんだ、マジでほっといてくれ。
ピンポンピンポンピンポン…!!
略したが、計30回以上は立て続けに鳴らされ、オレは我慢ならずに起き上がり、床を乱暴に踏み鳴らしながらインターフォンに出て怒鳴る。
「うるせぇえ!! 誰だあああ!!?」
パッ、と画面に映ったのは神崎の顔だ。
「! 神崎…!」
“居留守使ってんじゃねえよ。ここ開けろコラァ”
オレが居留守使ったことに腹を立てたのか、眉間に皺が寄せられている。
「……………」
“なにもたもたしてんだ。オレを待たせんじゃねえ”
「……………」
“おーい、フランスパーン”
それから何度もインターフォンを鳴らされたが、オレは開錠のボタンが押せなかった。
だって、さっきオレをフッたばっかじゃねえか。
今さらなんの用なんだよ。
“……………めんどくせーやつだな”
神崎は舌打ちすると、背を向けてどこかへ行ってしまった。
誰のせいでこんな面倒なことになってると思ってんだ。
オレも舌打ちして画面を消そうとしたとき、また神崎の姿が現れ、指を止めた。
画面に映った神崎は、真っ直ぐにマンションの玄関へと向かう。
その神崎の手に持たれたブツを見たオレはぎょっとした。
(あいつまさか…!!;)
神崎の手には、どこから持ってきたのか金属バットが握りしめられていた。
玄関はガラスのドアだ。
ブチ破れば侵入できるが、同時にセキュリティが発動してしまう。
構わず、神崎は金属バットを振り上げた。
「ひーめかーわくーん。あーそーぼ―――」
振り下ろす同時に、オレは開錠ボタンを押した。
ドアが開かれ、神崎のバッドが空振りしたのを見て、安堵の息をつく。
こういうところが男前っつってんだよ。
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