「遅い!」
両手に缶ビールのパック数個が入った袋を持ち、コンビニからマンションまでのヘヴィな道を急ぎ足で駆け抜けた私を待っていたのは、労りの気持ちの欠片もない、非常に不機嫌な彼ら≠セった。
「うへえ。遅いと言われても、こんな荷物じゃこれが精一杯だよ」
当然、私は抗議する。
使い走りにされて、感謝はされど文句を言われる筋合いはない。
すると、私の反抗が気に食わなかったのか、彼ら≠フ内の一人である里緒(りお)くんが「ハア?」と目を細めた。
「お前、何言ってんの?俺らに盾突くわけ?」
里緒くんは綺麗に染色された前髪を弄りながら、眉根を寄せてこちらを睨んでくる。
折角の端整な顔立ちがそんな表情をしていては勿体ない……そう言おうと思ったけど、私が言ったところで口は災いの元になるだけだ。
賢い私は、大人しく口を噤む。
「何で黙り込むンだよ」
なのに、里緒くんにはさらに苛立たれてしまった。
ありゃ。
どうやら逆効果だったようだ。
「ごめんね、里緒くん」
何で私が謝らないといけないのかという反骨精神はあるものの、一応手を合わせておく。
でなければ、彼らは後が厄介だ。
「反省してるなら今からつまみ買ってこいよ」
「ええ?だって、さっきはいらないって……」
「あ?俺の言うことが聞けないのかよ?」
「う、うーん……分かった」
また行かないといけないのか……。
里緒くんのワガママには慣れっこだけど、だからと言って気分が良いわけではない。
私が重たい腰を上げると、
「あさひ、僕はナッツ類が嫌いだって覚えてるよね?買うならそれ以外にしてよ」
彼ら≠フうちの一人である颯(はやて)くんがふてぶてしく宣う。
「オレは山田屋のアイスが食べたーい」
「焼酎」
続けて、静(しずか)くん、馨(かおる)くん。
馨くんに至っては単語しか発していないけど、要は焼酎が欲しいということで、なら何で最初のときに言ってくれないのかと頬を膨らませたくなった。
しかも静くんよ、山田屋って隣町じゃん……。
私にそこまで行けと?
「あさひ」
里緒くんが呼ぶ。
「さっさと行ってこいよ、このノロマ!」
今日も今日とて、彼らは暴君だ。
昨今、テレビを賑わす新星アイドルたちがいる。
グループ名は『dear』。
親愛なるあなたへ、という意味が込められた名前である。
メンバーが話し合って決めたんだとか。
平均年齢は十七歳そこそこで、年齢の割に安定感のある雰囲気が人気を博している。
何より、彼らの魅力は全員が幼少期からの知り合い――要は、幼馴染みだという点だろう。
「幼馴染みっていうのは作り話じゃないの?」と決まってインタビューの時に質問されるくらいに、メンバーは美形が揃い過ぎてるため、商売文句だろうと一般的には思われてるみたいだけど、それは嘘偽りのない事実だ。
で、なんで私がそんなことを断言できるのかと言うと。
―――私、潤賀あさひも、彼ら≠フ幼馴染みであるからだ。
中肉中背。容姿は悪くもなければ、良くもなく、能力も平均並み。
何か一つでも抜きん出ているものがあったらまた違ったのだろうけど、生憎ながらそれすらない、本当に平凡を極めた人間が私である。
だから、街を歩くだけでスカウトの嵐だった彼ら≠フ幼馴染みだなんて、きっと天地がひっくり返ったとしても誰も信じてくれないだろう。
私だって時々頭を捻ってしまうもん。
テレビに映る彼ら≠見て、こんな凄い人たちが私の幼馴染みだなんて、都合の良い夢を見てるだけなんじゃないかって。
でも。
携帯で否応なしに呼び出され、テレビの中とは似ても似つかない彼ら≠フ本当の姿を目の当たりにすると、やっぱり幼馴染みに違いないと確信できるんだよなあ。
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