反省しましょう!

A組対B組の合同戦闘訓練―――第1セットは、B組+身能チームの勝利となった。それも、A組チームの4人を牢に入れ(残る1人も捕獲済み)、こちらは無傷・・・4−0の完全勝利だ。
A組の悔しそうな顔が目に浮かぶようだとニヤつきながら、強子は組み敷いていた心操にすっと手を差し出した。


「やるじゃん、心操くん」


結果だけ見ればこちらの圧勝、とはいえ・・・心操のおかげでB組チームの連携はまんまと撹乱させられ、苦戦を強いられた。
強子が存在しない“原作”では、A組+心操チームが勝利していたはずだし・・・心操はチームの“お荷物”になるどころか、もうすでに十分な戦力となっていたのだ。彼がここまでやるとは、きっと、ヒーロー科の誰もが予想だにしなかっただろう。
彼に称賛の声を送った強子に対し、差し出されたその手をじっと見つめていた心操が、そこに自分の手を重ね、ぎゅっと強く掴んだ。


「・・・お前が言っても、嫌味にしか聞こえないよ」


素直に強子の手を取ったかと思えば・・・苦々しい笑みを携え、またそんな皮肉っぽいことを言う。まあ、彼らしいといえば彼らしいけど。


「嫌味なんかじゃないのに・・・本当に、心操くんには苦戦させられたんだって」


彼を引っ張り立たせながら、強子は先の試合を振り返った。
心操が仕掛けた怒涛の『洗脳』ラッシュは、敵対する側としては実に面倒であった。B組チームが作戦通りに動けていなければ、強子とて 危うかっただろう。
そして・・・試合の終盤、味方もおらずに強子と対峙するという絶体絶命の状況で、心操は奇策に出た。

―――お前のことが、好きだ

あの爆弾発言には、ホント、度肝を抜かれた。
心操と対峙している状況で、何があろうと口を開くもんかと身構えていなければウッカリ反応していたかもしれない。
一方で、あのとき強子の背後に控えていた円場は、「身能に任せときゃ大丈夫」だと、あくまで自分は補佐役にすぎないと油断していた―――その隙をつかれたのだ。
心操の洗脳は、対象の“1人”に意識を集中させる必要があり、多数の一斉洗脳はできなかったはずだから・・・「お前のことが好きだ」発言したときには、すでに円場に意識を集中させてたということ。
強子に洗脳はきかないって状況判断も、円場なら不意をつけるかもって目の付け所も、戦闘中に愛の告白をするって大胆な作戦も、


「やっぱり・・・強いよ、心操くんは」


しみじみと告げれば、彼は何かを堪えるようにきゅっと口を結び、首の後ろに手を回す。それから、低い声で「・・・まだまだだよ」と絞り出した彼は、ヒーロー科にも負けず劣らずの向上心の持ち主である。







「反省点を述べよ」


・・・というわけで、講評のお時間です。
まずA組チームが各々の反省点を挙げていくと、相澤からコメントが返される。いつものことながら手厳しい指導っぷりに思わず息をひそめていると、「次、身能」と発言を求められたので口を開く。


「乱戦のときはどうしても近場に意識が向きがちですが、離れた仲間たちの安否を把握できるよう、もっと視野を広く持たなきゃな、と・・・」


目の前の敵だけでなく、周囲の味方たちの戦況にも気を配ることができたのなら・・・仲間たちが心操の洗脳にかかるのを防げたかもしれないし、洗脳されてもすぐに対処できたはず。
これは、今後の課題だ。多数の敵と乱戦になる場合には、いかに周囲を把握できるかが勝敗に影響するだろう。


「それと・・・不利な状況を破るためとはいえ、思った以上に広範囲を損壊してしまったので、“スタンピングモード”は使いどころを考えないとダメですね」


難しい顔で語った強子に、相澤は「そうだな」と頷いた。ただ、その一言で終わるほど、相澤の指導は甘くない。


「サポートアイテムの活用もいいが・・・“便利”だからって、横着して頼りすぎるなよ。アイテムなしには戦えない無能になりたくなかったらな」

「うっ・・・ハイ」

「ついでに・・・今回お前らは捕獲した敵を円場のエアプリズンで囲ってたが、あれは円場がいなきゃ使えん手だ。場合によっちゃ 捕獲した奴を取り返される可能性もあったことを考えると、逐一 牢まで運んでいくのが正攻法―――すぐに横着しようとするなよ」

「うっ・・・はぁーい」

「返事は 伸ばすな」

「・・・・・・ハイ」


今回バッチリ活躍した強子には反省点が少ないかもと楽観視していたのだが・・・相澤のスパルタ教育にかかれば、いくらでも小言が出てくる。
唇をとがらせ、チラと隣に並ぶB組チームを見やれば、


「よくやってくれた!!さすがは俺のかわいい教え子たち!!!初戦の白星、この一勝はデカいぞ!?」


ブラドキングは涙を流すほどの感動に震えながら、B組チームを褒め称えていた。


「前半は宍田を、後半は身能を軸に据えて、各々の強みを活かした良い連携だった!身能を指令塔に うまく統率が取れていたな!!」


そんな賛辞に続いて、彼は教え子たちにコメントしていく。円場をはじめとした 洗脳にかかったメンツには気の弛みを指摘したものの、基本的には生徒に寄り添う、優しい指導方針のようだ。
強子はブラドキングから相澤へと視線を戻すと、


「先生・・・私もアレ、やってほしいです」


憮然とした面持ちでブラドキングを指さしながら相澤に要求する。私だって、ほめて伸ばすタイプの指導がいい!
しかし彼は強子を一瞥して鼻息をつくと、「そろそろ第2セットはじめるぞ」と、強子の要求なんて歯牙にもかけてくれなかった。







「身能さん!試合おつかれ!」


第1セットの講評が終わって一息つく強子に、にこやかに声をかけてきたのは拳藤だった。


「後半たったの10分しかない中で、A組をちぎっては投げちぎっては投げ・・・すっごくカッコ良かった!」


拳を握りしめ、前のめりになりながらキラキラとした眼で語る拳藤。そんな興奮するほど、B組の勝利が嬉しいのだろう。強子は彼女の勢いに圧されつつ、「ありがとう」と笑顔で返した。


「・・・私も、身能さんと共闘したかったのにな・・・クジ運が良くなかったなぁ・・・」


小さく呟いて、残念そうにため息をこぼした拳藤。かと思えば、彼女はキリリとした笑顔に戻ってB組チームに視線を流す。


「何はともあれ、第1セットが勝ってくれたおかげで流れはB組(ウチ)にきてる!第2セットも、きっちり勝ち星とりにいくよ!!」

「「「おー!!」」」


気合いを入れるB組・・・の隣には、異様なまでに気合いあふれるA組メンバーがいた。


「さっきのはB組の勝利っていうか、“強子ちゃん込み”のB組じゃんね!?」

「彼女が一番輝いてた☆」

「A組は心操という不慣れな仲間を抱えながら、よく闘っていた」


葉隠、青山、常闇――第2セットのメンバーたち。
第1セットでA組が破れたことにより、闘争心に火がついたようである。第2セットではB組に一矢報いてやるぞと復讐心に燃えている。
そんな彼らに、同じく第2セットメンバーである八百万がキリリとした笑顔で告げた。


「今回は強子さんと敵対することになり心苦しいですが・・・だからこそ、私たちは負けられません。彼女が誇る“A組”の強さを証明してさしあげましょう!!」

「おー!!」
「ウィ☆」
「承知した」


そうしてA組メンバーを1つにまとめあげた八百万と、B組メンバーを率いる拳藤・・・二人の視線が交差する。


「・・・職場体験からCM出演しちゃって、どうにも私たち同列に見られることが多いけど―――八百万のほうが成績も個性も上なのに 一緒くたにされてんのが地味に嫌だったし・・・私がどんなに頑張っても手に入らないモノを持ってる八百万が、羨ましくてさ・・」


笑顔を携えていた拳藤の目が、すっと僅かに細められる。


「・・・個人的に、ちゃんと戦ってみたかったんだよね」

「・・・私も、あなたと戦いたいと思ってましたの」


対する八百万も、好戦的な笑みを浮かべて拳藤を見据える。


「(なんか・・・バチバチやり合ってて、こわっ)」


思わず周囲の者たちが押し黙る。触らぬ神に祟りなしだ。
それにしても二人とも、何か個人的な怨みつらみでもあるのだろうか?拳藤が“手に入らないモノ”って、もしかして・・・“財力”か?セレブに憧れる気持ちはわかるよ。


「(とりあえず・・・頑張れよ、二人とも!)」


と、心内で応援すると、強子は気配を消しつつそっと二人から距離をとった。
そうして生徒たちの待機スペースにそそくさと戻った強子が腰を落ち着ければ、今度は、


「身能、お前!またオイラのいないところでラッキースケベ発動しやがってッ!許さねェ!!」


峰田に怒鳴りつけられた。
耳元で大声を叩きつけられて、強子は耳を押さえながら顔をしかめる。それから、やれやれとため息をこぼして峰田を見やる。


「ラッキースケベなんて不可抗力だし・・・それで私を恨むのはお門違いでしょ。恨むなら、ラッキー(幸運)スケベひとつ起こせない不運な己の "日頃の行いの悪さ”を恨みなさいよ」


冷たく言い放つと「ぐっ・・・!」と唇を噛みしめた峰田。
強子の言葉がきっかけで、のちの試合中に彼は、“不可抗力”に見せかけたラッキースケベを仕込むわけだけど・・・まあ、そんなことは置いておいて。


『―――第2セット!!4−0で、またまたB組の勝利!!』


八百万、拳藤たちの因縁(?)の対決は、B組に軍配が上がった。互いに“先”を見据えた戦略を練り、一進一退の攻防を繰り返したこのセットは、観戦している側も学ぶことが多かった。
続く第3セットは、轟や骨抜といった範囲攻撃持ちがいたため、これまたド派手な試合となり・・・観ているだけで手に汗握るものだった。


『―――20分経過!!第3セット終了!!投獄数、1−1・・・引き分けだ!!!』


その実況を聞き終えると同時、辺りに半狂乱な笑い声が響き渡った。


「残念だったねA組ィ!!全5試合で、すでにB組が2勝、1引き分け!!ということはつまりッ、もうこれで君ら(A組)に“勝ち”はありえない!!!さあ、さっさとB組に勝利をゆずってくれよ!!」


アッハッハッハと物間の笑い声が響くのを聞きながら、強子がニヤリと口角を上げた。


「まったくぅ・・・私がいないとダメなんだからぁ、A組はァ」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら聞こえよがしに告げると、A組の空気がぴりりと引き締まる。


「「「(絶対に負けたくねェ・・・!)」」」


より一層、A組に気合いが入ったところで・・・第4試合。仲間をかばい、守りながら、"チーム”で勝ちに来た爆豪の大活躍により、4−0無傷の完全勝利をおさめた。
そして、最終セット。緑谷の『黒鞭』の暴走により第5セットのメンバー全員が危険に晒されたけど、暴走状態の緑谷を心操が『洗脳』で止めて、事なきを得た。その後、AB全員で大乱闘の末―――


『4−0で、A組の勝利よ!!』


偏向実況ばかりのブラドキングに代わって、ミッドナイトが公正に実況をしてくれる。


『これにて5セット全て終了です!全セット皆、敵を知り、己を知り、よく健闘しました』


そして、彼女の口から、改めて対抗試合のリザルトが発表された。
第1セット:B
第2セット:B
第3セット:ドロー
第4セット:A
第5セット:A


『・・・よって、今回の対抗戦!A組とB組の 引き分けです!!!』


その なんだか煮えきらない結果に、どちらのクラスの生徒も悔しいようなホッとしたような・・・複雑そうな表情で顔を見合わせていた。
それから第5セットの講評が始まると、ブラドキングがみんなに向けて声を張り上げる。


「これから改めて審査に入るが、恐らく・・・いや十中八九!心操は2年からヒーロー科に入ってくる―――お前ら、中途に張り合われてるんじゃないぞ」


これを聞いたときの心操の表情ときたら、ポカンと呆けちゃって、彼にしてはめずらしく間抜けヅラをさらしていた。
なんて顔をしてるんだか・・・心操ならば、ヒーロー科編入なんて当然だろうに。
だって彼は、心操人使という名のとおり―――心を操る力で“人を使う”のではなく、心を操る力を“人のために使える”男なのだから!


「先生っ、どっち!?」

「A!?」

「B!?」

「その辺はおいおいだ」

「先生!もし心操くんがA組に取られるなら、ABの人数比が平等じゃなくなるんで・・・代わりに身能さんをB組にもらいましょう!!」

「!?」


喧騒の中・・・B組のほうから聞こえてきたそれに、強子がギョッと目を見開いた。
オイ!さわやかな笑顔でなに馬鹿なこと言ってんだよ、物間寧人!ブラキン先生も、「検討しておこう!」って前向きな返答をするんじゃない!


「先生!もし心操がB組に来るなら、クラス人数21人だとチーム分けやりづらいんで・・・ついでに身能にもB組に来てもらいましょう!!」


オイオイ!それじゃ心操がどちらのクラスになっても強子がB組に移籍する未来しかないだろ、円場硬成!相澤先生も「・・・一理あるな」って、納得するんじゃない!A組在籍の生徒を他クラスに移籍するなんて、合理的じゃないでしょ!?


「先生!そんな“ようやく厄介払いできる”みたいな顔でこっち見ないでくれます!?私っ、今後もA組に居座りますからね!!?」

「静かにしろ、まだ講評続いてるぞ」


相変わらず、強子の要求など歯牙にもかけてくれない相澤であった。









秘密を共有する者の一人として、強子は仮眠室に呼び出された。
オールマイトからお茶をいれてもらって、それに口をつけながらオールマイトの話に耳を傾ける強子だったが・・・本題に入る前に、一つ確認させてほしい。


「・・・私が真ん中って、おかしくない?」


仮眠室に置かれている三人掛けのソファ――その左端には緑谷がちょこんと座っており、右端には爆豪がどっしりと腰を落ち着けていて、他に座る場所もないから仕方なく強子が二人の間に座ったわけだけど・・・おかしいよね?ちょうどオールマイトと向かい合って座る位置だし、本来なら緑谷がここに座るべきじゃないの?今は緑谷の話をしてるんだから。
合点がいかない顔で左右の二人に視線を向けると、


「か、緩衝材に・・・」


緑谷は弱々しい笑みを浮かべて申し訳なさそうに告げ、


「テメーは“ついたて”代わりだ、アホ女―――俺ぁクソナードが視界に入るだけでもヘドが出ンだよ」


もう一方が尊大な態度で吐き出した言葉に、「・・・ほらね?真ん中に必要でしょ?」と弱々しくつけ加えた。


「(・・・ホント、しょうもない幼馴染みコンビ)」


ため息とともに正面のオールマイトへ向き直ると、いよいよ本題に入る。
先の戦闘で突如発現した、『黒鞭』――歴代継承者の個性がワン・フォー・オールに備わっていたとは、オールマイトも、彼の先代も知らなかったという。歴代の個性を発現させたのは、現状、緑谷が初というわけだ。


「オイ 何かキッカケらしいキッカケあったんか」

「ううん、全く・・・ただ、時は満ちたとだけ言ってた・・・何か外的な因果関係があるのかも・・・」


幼馴染みたちが強子を挟んでそんな会話をするのを黙って聞いていると、爆豪が何かを察したように口を開いた。


「オール・フォー・ワンが関係してんじゃねえのか?」


それを聞いた途端、緑谷も、オールマイトも・・・思い詰めたような重苦しい空気をまとって口を閉ざす。


「ワン・フォー・オール・・・元々アイツから派生して出来上がったんだろ?複数個性の所持―――なるほど、アイツとおんなじじゃねえか」


まったく・・・イヤなことを言う。
オールマイトが「言いたくなかった事を・・・」と苦々しく呟くのを聞きながら、今まで押し黙っていた強子が口を開いた。


「"おんなじ”じゃないよ」


うっかりボロを出さないよう、余計な口は挟まないほうがいいと黙っていた強子だったが・・・陰鬱に顔を曇らせる緑谷を前にして、黙ってなどいられない。


「個性を人から"奪ってきた"オール・フォー・ワンと、信頼する人へと"託されてきた"ワン・フォー・オールとじゃ、本質が違う・・・似て非なるものだよ」


緑谷のメンタルのため、ひいては歴代継承者たちの名誉のために言わせてもらう。
わざわざ強子が言わなくともいずれ理解することだろうけど・・・大切なのは、個性の"成り立ち”ではなく、個性の“使いみち”―――その個性をどう使うか、何のために使うかだ。


「身能さん・・・!」


強子の言葉に感銘を受けたかのように、緑谷がうるんだ瞳で強子を見つめる。その熱い視線からフイッと目をそらして、強子は淡々と言い放つ。


「ま、何にせよ・・・さっきみたく個性を暴走させてるようじゃ話になんないけど」


うっ、と緑谷が言葉を詰まらせると、爆豪が強子に便乗するように「ザコだな!」と勝ち誇った顔を緑谷に向けた。
そんな彼らを見ていたオールマイトが、すっくと立ち上がる。


「身能少女の言うとおりだ―――また ああならぬよう、もっとその力を知る必要がある」







ところ変わって、体育館。
もう午後7時をまわり、外はすっかり暗くなったというのに・・・明かりのついた体育館からは、とめどなく爆破音が鳴り響く。


「オ゛ラ゛どうした びびってんのかゴラ!!!」

「待ってって!待って!!」


悲鳴とともに、立て続けに放たれる連続爆破から逃れる緑谷―――の、背後からヌッと現れた強子が、緑谷の側頭に向けて痛烈な手刀を叩きこむ。


「わあぁああ!!?待って、マジで出ないんだって!!!」


前方の爆豪、後門の強子という危機的状況にて、緑谷は命からがらに逃げ惑う。
二人がかりで挟み撃ちするよう、抜群のコンビネーションで容赦なく緑谷を追い詰めていく彼らの表情はイキイキとしたもので、いくら緑谷に「待ってくれ!」と懇願されたところで止まってやる気は微塵もない。息つく間もなく、二人は緑谷へと攻撃を仕掛けていく。


「やめーーー!!そういうんじゃないから!落ち着きなさイブハッ!!」


吐血まじりのオールマイトの叫びを聞いて、ようやく強子は踏みとどまった。
追いこんでいた緑谷からオールマイトへと視線を移すと、強子は半笑いでさとすように告げる。


「オールマイトこそ落ち着いて・・・私たち、デクくんの練習に付き合ってるだけですよ?」

「そうだけど・・・!」

「ヤバくなりゃ出るもんだろうが こういうのは!」

「いや これ、出さない為の練習だから!!」


秘密の共有者とはいえ、この二人に練習に付き合ってもらうのは間違いだったか?と、オールマイトは自分の選択を悔いながら緑谷へと声をかける。


「緑谷少年、どうなんだい?」

「・・・やっぱり、出ないです」


彼は半信半疑ながらも「気配が消えた」と、その直感を口にする。
それを聞いた強子はハッと小さく吹き出すと、ニヤリと口を曲げて爆豪を見やった。


「ほら〜、爆豪くんったら 力量差を考えてあげないとぉ!手加減なしにデクくんをいびるから、個性もびびって引っ込んじゃったみたいよ?」


意地の悪い笑みを浮かべる強子を見て、爆豪のほうも機嫌よく口角を上げる。


「アホか、ンな理屈ならコイツはとっくに“無個性”まで戻ってら」


そんな会話を交わしては、クスクス、プププと笑いながら緑谷を見下げたように見る二人。


「コラコラやめなさい、二人とも!悪いとこ出てるぞ!」


オールマイトが慌てて二人を諌めるが・・・すでに緑谷は、ガーン!とわかりやすくショックを受けて放心している。
なんせ緑谷にとってこの二人は、特別とも言える存在。入学当初から二人は大きな壁のように緑谷の前に立ちはだかり・・・期末試験以前はそれこそ“鬼門”というか、厄介極まりない彼らはトラウマのごとく緑谷の心を苦しめた。
紆余曲折を経て、彼らとの関係は改善された―――にもかかわらず、今となって、二人が最凶のタッグを組んで緑谷の前に立ちはだかるなんて。


「身能さんがかっちゃん(そっち)側についたのが 思った以上にダメージ大きい・・・!なんとなく、身能さんなら僕のほうに味方してくれるんじゃ って期待しちゃってたからなぁ・・・」


ショックを受けた心理なんて自己分析しては、しょぼくれている緑谷。
強子はそんな彼の言葉を拾うと、彼に見向きもせずに淡々と言い放つ。


「私、特定の誰かだけを味方した覚えはないんだけど?強いて言うなら、私は・・・他の誰でもない “私”の味方」


薄情な強子に突き放され、緑谷は涙ながらにガックリと肩を落とした。
その様子をニヤニヤと楽しそうに眺めていた爆豪に、「テメーもようやくクソデクの扱いがなってきたじゃねーか」と褒められたけど・・・嬉しくないなぁ。
それから爆豪は獰猛な顔つきで緑谷に向き直ると、厳しい言葉で彼をたしなめる。


「危機感が足ンねンだよ!もっとボコしゃあ ひょっこり発現すンだろ!!んで その状態のテメーを完膚無きまでにブチのめして 「モチベーションおさえて」


どれだけ外野が騒ぎ立てようと、『黒鞭』の個性は発現しない。
緑谷自身が「今扱える力じゃない」と判断したことで、ロックがかかったような状態になっているのだろう。これをまた発現させようとするなら、相応の修練が必要となるはずだ。


「つまンねえなクソが!扱えねーなら意味がねェ!」


緑谷が自己分析しながらブツクサ呟いてるのに苛立ち、爆豪がくるりと踵を返す。そして強子に顔を向け、


「オイ、帰ンぞ!」


そう言って、顎で出口を指し示した。
特訓を続けたところでどうせ、今日はこれ以上の成果は得られないだろう。強子は爆豪に頷いて応じると、彼とともに体育館をあとにした。










体育館を出て、暗くなった夜空の下、寮に向かってテクテクと歩く。
爆豪と一緒に帰る流れになったものの 二人の間に会話はなく、しばらく無言で歩いていたのだが・・・1−Aの寮が見えてきたところで、隣からハアとため息が聞こえてきた。


「・・・いつまでシケた面してるつもりだ、てめぇは」


呆れたような声で言われて、え!?と驚いた表情で爆豪を見やる。
自覚はなかったが・・・いっつも眉間にシワを寄せた気難しい面をしている彼に言われるほど、自分はシケた面をしていたんだろうか。


「さっきからやる事なす事ガラじゃねェし、目に余ンだよアホ。ここぞとばかりにクソデクをあしらうわ、こき下ろすわ・・・アイツから目ェそらして突き放すような態度なんざ、期末んとき以来じゃねーか」

「・・・・・・爆豪くんって、私のことよく見てるのね」

「勘違いすンな!てめェが勝手に俺の視界に入ってくンだわ!!」


そんなテンプレ通りのツンデレみたいなセリフを言ったかと思えば・・・直後、彼は強子の核心をつく言葉を口にする。


「―――びびってんのか?」

「っ、」


否定も肯定できず、言葉に詰まる。
そうして、再び“シケた面”へと戻った強子を見て、爆豪は「やっぱりな」と息を吐いた。


「ただでさえ『ワン・フォー・オール』にはパワー負けしてんのに、そこに歴代継承者の個性まで上乗せされちまったら もうデクには敵わない、ってか?ンで腐ってんのかよ・・・アホの骨頂だな」


小バカにするようハッと嘲笑した彼の横で、強子は不甲斐なさから顔をしかめ、ぽつりぽつりと心の声を表に出していく。


「・・・私だって、本当は・・・デクくんに、あんなイヤな態度、とりたくないんだよ」


爆豪の言うとおり、迫りくる“未来”にびびって、焦っていた。すっかり心に余裕がなくなっていた。それで気づけば、彼に冷たく当たってしまった。
彼には何の落ち度もないし、なんなら彼のほうこそ 突然開花した個性にびびり、焦っているだろうに・・・そんな彼を気遣う余裕はなく、ちっぽけな自分の嫉妬心が態度に出てしまった。


「・・・・・・大切な、友だちなのに」


互いに秘密を共有しあう、大切な存在だ―――“ただのクラスメイト”という希薄な関係だった入学当初とは、ワケが違う。もう、強子と緑谷の間には、確かな絆が結ばれている。
それなのに・・・良くない、ホント良くない。ダメだよなあ・・・友だちは大切にしなくっちゃ。
猛省していると、そんな強子を見ていた爆豪が眉間にシワを刻む。


「クソデク相手にどんな態度とろうが そりゃテメーの勝手だが・・・テメーは、“友だち”に理想を抱きすぎだ」


ため息まじりに「“友だち”を神仏とでも思ってンのか」と苦言を呈されてしまった。


「所詮は他人だろが。お前がいくらオトモダチと信じてようが、ある日突然ワケもわからず ソイツに愛想つかされたっておかしくねえ・・・・・・どっかの舐めプ野郎みてェにな」

「うっわ、イヤなことを言う・・・」


我が心の友である轟との 気マズイ関係――その現状を引き合いに出され、強子は顔をゲンナリさせて天を仰いだ。
精神的に打ちのめされている強子に向け、爆豪はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら ただ一言、「滑稽」と嘲りの二文字を吐き出した。ひどい。
そんな彼を横目に見て、強子は解せない様子で首を傾げる。


「・・・爆豪くんはさ、」

「あァ?」

「爆豪くんは・・・びびってないの?焦らないの?」


不思議でならない。
爆豪だって、強子と同じく、緑谷に対してずっと敵愾心を抱いてきたはずなのに。彼にはびびっている様子も焦っている様子もなく、なんなら いつもより嬉々としているようにさえ見える。


「・・・デクくん、複数個性もちになっちゃうんだよ?」


緑谷が精神世界にて五代目継承者から聞かされたとおり、ワン・フォー・オールの成長によって、これから緑谷には6つの個性が発現する。
これまでは“パワータイプ”として活躍していた彼だけど・・・もう、彼の個性はパワー自慢だけじゃない。捕縛や遠距離に優れた『黒鞭』のほかにも、『浮遊』やら『危機感知』やら・・・有用な複数の個性が、彼をさらに強くする。
圧倒的な強さだ。その強さは、もう、強子たちとは次元が違う。


「それがどうした」


強子の問いにまたハッと嘲笑すると、彼はその目に確かな意志を宿して前を見据える。


「俺は “一番になる”―――お前とサシでやり合った あン時から、やるこたァ何も変わってねえ」


爆豪と因縁の対決を行ったときの、彼の言葉を思い出す。
自分よりすげェ連中ばかりいる中でも、目の前にいる奴ら全員を“上”から捻じ伏せてトップになってやると・・・彼は、そんなことを言っていた。


「あのザコがどんな個性もってようが どんだけ個性もってようが、負けねんだよ。俺はもうとっくの昔に決めてんだ・・・No.1、これだけだってな。だから、オールマイトをも超えるトップヒーローに、なるんだよ 俺ぁ!ンでもって、高額納税者ランキングに名を刻む!絶っ対にな!!」


彼の言葉にだんだんと熱が入っていき、最終的には ものすごい気迫で強子を睨みつけながら宣言した爆豪。モチベーションがすごい。
あまりの勢いに圧倒され、ぱちくり瞬きしながら強子は口を開いた。


「えーと、それは・・・たいそう立派な夢をお持ちで・・・」

「“夢”じゃねえッ、俺がNo.1になんのは "確定された将来”だわ!!」


あ、そっスか。
それにしても・・・彼の語った"将来"というのは、たしか、彼が中学生の頃から公言していたはず。それだけの熱意をもっていれば、“夢”が“現実”になる可能性はグッと高くなるんじゃないだろうか。


「・・・ついでに言うと、今は・・・もう一つ、思い描てるモンがある」


そう言って ふいに彼が足を止めたので、つられて強子も立ち止まる。そして、前を向いていた爆豪がこちらに振り向き、まっすぐな瞳で強子を射抜いた。


「俺がNO.1になったとき・・・俺の隣に、お前がいる―――そんな未来だ」


心を決めているような顔つきに思わずドキリとして、反応が遅れる。
一拍置いて、ようやく「えっ?」と混乱気味に声を漏らした強子。信じられない言葉を耳にしたかのごとく彼を凝視する彼女が、何かに気づいたようにハッと目を見開く。


「え!ぁ、それ、って・・・・・・」


戸惑いがちに口元に手を運んで、強子は「つまり、」と彼の言ったことの意味を整理する。


「私が、No.2ヒーローになってるってこと!?」


No.1の隣――つまりNo.2の座には、強子がいると!名だたるトップヒーロー、数多の実力者たち、それこそ 緑谷出久という最高のヒーローもいる中で・・・彼らを差し置き、強子がNo.2という快挙を成し遂げられると!
爆豪が言っているのは、そういうことだろう!!?


「えーっ!ウソ、爆豪くんってば!私の実力をそこまで認めてくれてたなんて!!」

「っ、ちっげぇわ!!!」

「うんうん、私たちでワンツーフィニッシュしようねえ」

「そういう意味じゃねンだよ!!!」


爆豪の言葉に舞い上がってニヤつく強子に、彼はやっぱりテンプレ通りのツンデレみたいなセリフを言ってるけど、


「大丈夫、わかってるよ!爆豪くんって実は、友だち思いのイイ奴なんだよね〜」


友だちが間違ったことをすれば指摘したり、友だちが落ち込んでるときは励ましたり・・・なんだかんだ言って、優しい男なのだ。険しい表情で肩を落として「わかってねンだよ・・・!」とこちらを睨まれたって、微笑ましい気持ちで受け流せる。
強子はフフフと含み笑いしながら「ありがとう」と心からの感謝を述べる。


「私・・・爆豪くんと友だちで良かった!」


彼にとっちゃ「所詮は他人」かもしれないけど・・・そう思わずにはいられない。
ここぞという時に強子を奮い立たせてくれる彼も、緑谷とはまた違った意味で、強子にとって大切な存在なのだ。入試で出会ってから今日までの間に、強子と爆豪も 確かな絆で結ばれ―――


「・・・て め ぇ」


低く呻くような声が聞こえたかと思えば、爆豪が強子の正面にズイと歩み寄って 彼女の胸ぐらをグワシッと掴み上げる。
気づけば目の前には、今にも強子に殴りかからん剣幕の爆豪が・・・


「あれ?」


おかしいな・・・相手は“友だち”のはずなのに、まるで いじめっ子といじめられっ子のような構図になっている。


「このウスら馬鹿は、何度同じこと言わせりゃ気ィ済むんだァ?てめェが信じる“友だち”なんてモンは 砂上の楼閣なんだよ、幻想いだいてンじゃねえわ!独りよがりに“友だち”扱いされたって、こっちはミジンも嬉しかねェんだよ!!」

「えぇ・・・?めちゃめちゃイヤなこと言うじゃん・・・・・・」


なにもそんな鬼の形相で、真正面から“友だち拒否”することなくない?ツンデレの域をプルスウルトラしてるよ。
何がいけなかったのか、強子は彼の怒りスイッチを押してしまったらしい。ぶち切れモードになってしまった爆豪を前に、半ばあきらめの表情で静観していた強子だったが・・・そのとき、1−Aの寮の扉がバンッと勢いよく開けられて、誰かが出てきた。


「身能っ!!」


慌てたように名前を呼ぶ声を聞いて、強子は目を真ん丸に見開く。
そして、ヒョイと顔を傾けて爆豪の肩越しに声のほうを見やると、こちらに走ってくる人物と目が合った。


「とっ、轟くん!?」


聞き違いじゃなかった。強子の名前を呼んだのは、轟だった。
彼から話しかけてくるなんて・・・というか、目が合うことすらも久しぶりで、途端にドッと緊張が走る。
それにしたって、駆け寄ってきた轟は肩で息をするほどに急いで来たようだけど、いつも冷静な彼がそんなに慌てるなんて・・・いったい、何があったんだ!?
強子が彼を凝視していると、彼は気まずそうに視線をそらして口を開く。


「身能・・・その、ちょっと いいか・・・?」


遠慮がちに問われたそれに「よかねーンだよ!!」と口を挟んできた爆豪を押しやって、強子は「もちろん!!」と大きく頷いた。











話がしたい。
轟からそう切り出されて、爆豪には先に寮に戻ってもらってから、寮の前に設置されているベンチに 轟と二人で腰を落ち着けた。
けれど、


「・・・」

「・・・」


口を閉ざしたまま、悩ましげな表情で手を揉み合わせている轟。そして彼の隣で、おどおどと落ち着きなく、彼の顔色をチラチラ窺っている強子―――かつてない気まずい空間で、しばらく無言が続いた。


「・・・最近、どうだった」


唐突に、藪から棒に話題を投じられた。
話の振り方がいささか雑な気はするけど、そんな些細なことなんて捨て置き、すでに強子の舌は回り始めていた。
今日の戦闘訓練でのこと、昨日の授業中の気づきとか、数日前に談話スペースで盛り上がった話とか・・・轟に話したくても話せなかった ここ数日間での出来事を思いつくままに、取っ替え引っ替え、取りとめなく喋りまくる。
ペラペラと自由気ままに話し続けても、轟は嫌な顔ひとつせず、静かに相づちを返してくれた。そんな彼の優しさに甘えて、ついつい強子は、水を得た魚のごとくマシンガントークをぶっ放していたのだが・・・はたと思い立って口を止める。


「(私、もしかしたら・・・轟くんに甘え過ぎてたのかな)」


思い返せば、彼と親しくなってからというもの、強子は彼の厚意に甘えてばかりだった気がする。優しい彼は、大抵のことなら許し、受け入れ、温情をかけてくれるから。
対して・・・その優しさにつけ込んでいた強子は、彼にどれほどのものを返せていた?“友だち”ってのは一方的な関係じゃなく、ギブアンドテイク――互いが互いのためにとあるべきだろうに。
親しき仲にも礼儀ありと言うけれど・・・彼に甘え、頼りきるうち、彼に対する礼節を欠いてたんじゃないのかと不安になる。


「あの、轟くん・・・」


“友だち”は神仏じゃない、相手もひとりの人間だ。だから、こんな強子に愛想を尽かして、距離を置かれてしまったのかもしれない。
でも・・・。
だけど・・・。
そうだとしても・・・!


「私、もっと、ちゃんとするから・・・ダメなところは 直すから・・・・・・もう一度、チャンスがほしいです」


ああ・・・恋人に捨てられそうで、どうにか繋ぎとめようとするダメ人間みたいなセリフになってしまった。まさか自分がこんなセリフを言う日がくるとは。
しかし、今回 彼と離れてみて、彼の隣がいかに心地良いか、強子は改めて思い知った。一度でも、轟 焦凍という人の優しさに触れ、彼の魅力を知ってしまったなら・・・なんとしても繋ぎとめたいと 誰だって思うに違いない。
ドキドキしながら彼の返答を待っていると、


「・・・お前に、ダメなところなんてない」

「!」


轟の言葉に、強子は弾かれたように顔を上げる。
いやでも待てよ・・・いつぞや見た悪夢のように、上げてから落とすパターンもあるし、迂闊には喜ばないほうがいい。慎重に彼の言葉の続きを待っていると、彼は重く息を吐き出した。


「ダメなのは、俺のほうだ・・・」

「え?」


突然の自虐的発言に、パチクリと目を瞬かせる。呆然としていると、轟がゆっくりと振り向いて強子を見る。


「ここんところ ずっと・・・お前を避けてて、悪かった」


それを聞き、強子はピシリと固まった。
・・・やっぱり、避けられてたのか。本人の口から言われると改めて心的ダメージがくるなぁ。


「お前がどんな気持ちになるか考えもせず、ひでェ態度とってたよな・・・身能は、なんも悪くねえのに・・・ごめん」


真摯に、申し訳なさそうに謝罪の言葉を告げられる。その様子から、彼が、心の底から後悔と反省をしているのがひしひしと伝わってくる。


「さんざんお前を傷つけておいて、都合いいこと言ってる自覚はあるが・・・俺のほうこそ 言わせてくれ――― “もう一度、チャンスがほしい”」

「っ、」


轟がなぜ強子を避けていたのか、彼の口からその理由は語られない。
だけど―――本能的に、これだけはわかった。
彼のほうから勝手に強子を避けるようなことは、もう、この先二度とないだろう と。彼の瞳が、声色が、所作が・・・いや、彼のすべてが、そう物語っていた。
だったら強子は、避けてた理由なんか確認して暗い空気をつくるより、この先の明るく楽しい未来を確認するほうを選びたい。


「んじゃ、お互いに合意ってことで・・・これで 仲直り!ねっ?」


パッと満面の笑顔になった強子が提案すると、轟もホッと表情をゆるめ、頷いた。
すると、ここ数日間ずっと胸に抱えていたものがスッと晴れたからか、なんだか二人とも肩の力が抜けてしまった。
ベンチの背もたれにぐたっと体重をあずけて、脱力したように夜空を見上げると・・・冬の澄んだ空気のおかげか、二人の視界には、美しい星空がひろがっていた。


「・・・お前と離れてみて、ようやく気づいたんだが、」


星空から轟へと視線を移すと、彼と視線がからみ合った。そして、


「俺は―――身能がいないと、ダメみてェだ・・・」


へにゃり、と眉尻を下げた弱々しい笑みを向けられて、強子は目をむく。
そんな へたれた顔で、情けない言葉を吐露する彼なんて、初めて見た。捨てられた子犬のように哀愁ただよわせる彼に、胸がきゅうと締め付けられる。
それと同時に、彼にとって強子という存在がどれほど大きいかを物語っているようで、胸が高揚感に包まれた。


「・・・気づくの遅いよ、も〜」


溢れる嬉しさ、それと少しの照れくささを堪えきれず、ニヤつきながらそんな軽口を叩けば、


「ああ・・・まったく、遠回りをした」


なんて、神妙な様子で懺悔してくるものだから、強子は声をあげて笑ってしまう。
やっぱり、この轟 焦凍という最高の友を手放すことは出来ないな と、強子はしみじみ思うのだった。










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第1セット以外の試合模様はこちらでは描きませんが、皆よく健闘し、またひとつ成長できたと思います。詳しくは原作またはアニメでご確認くださいね!
試合の合間のちょっとした会話なんかは描きたかったのですが、ゴチャつくので諦めました・・・。
たぶん、第4セットで耳郎が爆豪に庇われたシーンについては、「耳郎ちゃんヒロインしてたねー!」と上鳴と一緒になってイジってたと思われます。

そして夢主、主人公くんへの劣等感を燻らせてますねー。
当連載を書き始めた頃は、まだ複数個性の使用なんて設定が出る前だったんですけど・・・この展開には正直「うちの夢主じゃ、デクと対等に張り合うとか無理じゃね!?」と焦ったものです。今後の彼女の成長に期待するしかないですね!


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