ライバル

絶対に爆豪を倒す!負かす!泣かす!

そう息まいて臨む個性把握テストは、全部で8種目だ。
ソフトボール投げ、立ち幅とび、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。
正直に言えば・・・どの種目にも自信がある。
種目内容が身体能力を測るテストであるから、強子の個性『身体強化』の見せ場はたっぷりだ。というより、見せ場しかない。


「よしッ!」


気合いを入れて、まずは出席番号の早い順に始まったテストを見物する。
第1種目は、50メートル走だ。


「3秒04!」


やはり、個性『エンジン』である飯田の走りっぷりは凄まじい。クラスメイト達は目を見張り、彼のたたき出した記録にざわついている。
オーディエンスのうちの一人である強子はうずうずと落ち着きがなく、出席番号順に呼ばれていくクラスメイト達を見送っている。


「(早く、走りたい・・・!)」


個性を使っての体力測定など、もちろん人生で初めてだ。いったいどんな記録がでるのか、今から楽しみで仕方ない。


「爆速!!ターボ!!」


爆豪と緑谷の滑走で、グラウンドに再び爆音が響いた。
両手のひらで爆破を起こして加速した爆豪は、見るからに速い。


「4秒13!」


その記録に、またクラスメイト達がざわついた。
強子は爆豪の記録を頭の中で反芻する。絶対にこの記録だけは抜いてやる、そう強く望んで。
実技入試では、確かに彼に負けた。
だが、他人の邪魔が入らない能力テストなら、強子は爆豪に勝てる可能性がある。
性格の悪さが介入しない、純粋な能力比較であれば、強子にもチャンスがある。
それならば、早く!早く走らせてくれ!
ここで積年の恨みをはらしてやる!弱者というレッテルを返上してやる!
この胸にたぎる熱い思いを、この個性把握テストでぶつけてやるんだ!!


「じゃ、次・・・峰田と八百万」


相澤が呼んだその名を聞いた強子が、くわっとその目を見開いた。


「って相澤先生!?私は!?私の番は、いつですか!」


峰田と八百万は、確か出席番号が1−Aで末尾だったはず。それなのに、


「私、まだ呼ばれてないんですけど・・・!?」

「身能は八百万の次だ」

「え?でも・・・」


淡々と答えた相澤に、強子は首を傾げる。
強子の名前からすると、強子の出席番号は―――


「お前は名前に関係なく、出席番号21番と決まってる」


相澤の鋭い目で射貫かれると同時、強子は彼の言わんとすることを察してしまった。


「・・・まさか、」

「お前の入学は他20名よりも遅れて決まったからな。当然、出席番号も末席ってわけだ。理解したなら大人しく順番を待てよ―――出席番号21番、“補欠入学生”の身能強子」


“補欠入学”。そのワードに、一斉にクラスメイト達がざわついた。
・・・こんなざわつきは求めてないのに。強子も好成績を出して、クラスメイトをざわつかせたかったのに。
何もこんな入学早々、こんな場所でバラさなくてもいいじゃないか!


「(それもこれもっ・・・!)」


強子を補欠にさせた元凶の爆豪へ、ギロリと視線をやれば、彼はめずらしく驚いたような顔をしてポカンと強子を見ていた。
なんだ、そんなに補欠合格者がめずらしいってか?
そりゃそうだ。なんせ補欠合格なんて、異例も異例、史上初の事例らしい。強子はそんな稀少な存在となったのだ。


「(お前のせいでな!)」

「じゃ最後、身能」


峰田と八百万が走り終えると、相澤に呼ばれて強子は爆豪から視線を外した。
50メートル走のスタート位置まで来ると、相澤にまた声をかけられる。


「わかってると思うが・・・補欠のお前は、他の奴らより『除籍』される可能性が高いことを忘れるなよ」


苛つきながらも無言で一つ頷くと、スタートラインに立ってクラウチングスタートの構えをとる。
いいんだ。補欠だなんだと馬鹿にされようが、ここから巻き返せばいいんだ。
悔しさをバネに、怒りをパワーにして、全員見返してやる!


「位置について・・・」


脚力を―――否、全身を個性で強化する。


「ヨーイ・・・」


スタートの合図と同時に、飛び出した。
強い風を身にあびながらも、ただただ必死に、ゴールラインまでめいっぱい力を振りしぼって、駆け抜けた。そして、


「3秒87!」

「おおー!」

「4秒きってきたな!」


クラスメイト達が驚嘆の声をあげた。強子の望んでいたざわつき。
ただ、強子自身もその結果に驚いていて、みんなの反応に喜ぶ余裕などなかった。


「(爆豪に、勝った・・・!)」


今まで負け続けてきた相手に、初めて勝ったのだ(足の速さでは、だけど)。
慌てて爆豪の方を見れば、彼の顔は屈辱の色に染まり、眉間に皺を寄せて強子を睨んでいる。
強子はこっそりとガッツポーズをとる。そして改めて確信する。


「(この体力テスト、この調子なら爆豪に勝てる!!)」





―――しかし、全ての種目において彼に勝つ、ということは叶わなかった。

第2種目の握力も、強子が勝利した。
彼の記録も平均より高いが、個性を使うと握力計が壊れるというジレンマから、個性なしの記録だったのだ。
強子はといえば、男子顔負けの記録を残すことができた。

第3種目の立ち幅跳びは、爆豪が勝った。
悔しいが・・・この種目では、爆破で飛行できる彼に軍配が上がる。

第4種目の反復横跳び、これも爆豪の勝ちだ・・・僅差だったけど。
彼はうまいこと爆風を利用していた。彼は、個性の応用がうまい奴なのだと認めるしかない。

そして、第5種目のボール投げ。
強子としてはここらで挽回したいところだ。爆豪の記録、705.2メートルを越えなくてはいけない。
やれるだろうか?いや、やらなくてはいけない。自分の限界を超えてでも!
そう意気込んでいると、ようやく強子の番になり、強子は大きく振りかぶった。
結果―――


「・・・260.8メートル」

「うそぉ・・・!」


己の出した結果のしょぼさに、愕然とする。
もっと飛ばせると、爆豪以上の記録を出してやると、そう思っていたのに。
爆豪に勝つどころじゃない、大きく差をつけて、負けた。彼の記録の半分にも満たない。
・・・今までいい勝負をしていたはずなのに。唐突に力の差が浮き彫りになり、面食らう。
顔面を蒼白にして呆然としている強子の肩を、ぽんと軽くたたかれた。


「なにヘコんでんだよ、身能も十分すげぇ記録じゃねーか!」


強子が振り返ると、赤髪を逆立てた少年がニカッと人好きのする笑顔を強子に向けていた。間違えるはずがない、彼こそ切島鋭児郎である。


「爆豪に勝てなくて悔しいのはわかるけどよ・・・種目ごとに個性の向き不向きはあるしさ、気持ち切り替えて、また次の種目に気合い入れてこーぜ!!」


そう言うと彼は、彼自身や強子を鼓舞するように、握った両拳(硬化してる)を打ち付けた。
そんな彼の勢いに負け、気圧されるような形で強子は一つ頷く。
どうやら、落ち込む強子を励ますためだけに声をかけてきたらしい。すでに強子には背を向けて去っていく彼を見て、この一瞬でも彼の人の良さを理解した。

しかしだ。彼の言葉のとおりである。種目によって、個性の向き不向きがある。
爆豪の個性が握力測定で目立たなかったように、強子の個性が目立たない、他より劣るということもあるだろう。それがソフトボール投げだっただけだ。
そもそも『爆風』を乗せた球威に、ただのパワー増強型の個性で勝つなんて―――


「・・・あれ?」


ふと、思い出す。
ボール投げにおいて、爆豪とほぼ互角の結果を出した人物がいたことを思い出す。
これまでの種目で目立った記録を出していなかったが、ここにきて、705.3メートルというヒーローらしい記録を出した男。


「(緑谷出久ッ・・・!)」


バッと勢いよく彼の方を見やる。その表情は驚愕と、畏怖を含んだもの。
強子の知っている通りなら、彼の個性はオールマイトから受け継いだ『ワン・フォー・オール』だ。
そしてその個性は強子と同じ、増強型の個性に分類されるはずである。
だけど、彼は705.3メートルという驚異的なパワーを見せた。それも―――


「(指、いっぽんで・・・?)」


彼の人差し指だけ、痛々しく変色して腫れあがっているのが見える。
まだ個性の調整ができない彼が、全力でやって行動不能にならないよう、指先にのみ個性を発揮させた結果だ。
ということは、全身で、全力でやれば、さらに記録は伸びることだろう。

今まで強子の個性は、オールマイトのようだと称賛されてきた。持てはやされてきた。
けれど、実際に彼の個性と、強子の個性を比べるとどうだ?
強子の全力が、彼の指いっぽんの力にすら、こんなにも届かないなんて。
これでは、強子の個性は―――緑谷の個性の“劣化版”と言わざるを得ない。


「・・・ははっ」


無意識のうち、乾いた笑いが漏れる。
個性がダダかぶり。
その上、パワーは格上の相手というわけだ。パワーが命である増強型なのに。
今はまだ、彼は個性の調整をできていないけれど、調整できるようになったら・・・?
そうなれば、強子にヒーローとしての需要はなくなる。緑谷という最高のヒーローに奪われる。
ヒーロー社会での生存競争を、強子はどう生きぬいていけばいい?
その未来を思うと、今もひたむきに頑張っている緑谷に、恐怖だって覚えるさ。

先ほどまでは爆豪しか目に入っていなかったのに、今は、嫌でも緑谷を意識してしまう。
彼を視界にとらえたまま、強子はその目に強い焦燥と、静かな闘志をやどらせた。

そんな彼女の様子を見ていた相澤は、相変わらず気怠そうなまま、一つ息を吐き出した。


「(お前が本当に張り合うべき“ライバル”が誰か、ようやく気付いたか・・・)」










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相澤先生は、気怠そうに見えて、生徒のことしっかり見てくれてる、そんな素敵な先生だと思います。そういうところを描写していきたいです。


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