ホッコリ仮免講習

「爆豪、行くぞ」

「うっせえな行くわ!」

「仮免講習の時間だ」

「後 ろ 歩 け や」


そんな噛み合わない会話をしながら、轟と爆豪が校内にあるバス乗り場へ到着すると、


「遅せ―――よ!バッボ―――イズ!!」

「今日の引率は私たちが行くよ」


二人を待ち受けていたのは プレゼント・マイクとオールマイト、それから・・・


「私たちを待たせるとは いいご身分じゃない」


フフンと高飛車な笑みを携えた強子が、腕組みをして、教師二人の間にたたずんでいた。


「「・・・は?」」


予期せぬメンバーに出迎えられて目を点にする彼らに、本来引率する予定だった相澤が別件で呼び出されて来られないこと、連合の動きも考慮して二人体制で引率することを説明するが・・・


「それで―――なんっで、コイツがいんだ!!」


爆豪が目をつり上げて鬼の形相で強子を威嚇してきた。
だが爆豪の威嚇などものともせず、強子はへらりと笑みを浮かべて機嫌よさそうに答える。


「け ん が く〜!今日の講習は仮免取得者も見学していいって、公安から許可もらったの」

「ハア!?見せモンじゃねんだよ!!つか まず俺らの許可とれや!!!」

「身能は昨日も遅くまでインターンで大変だったろ。昨日の今日で見学なんて・・・俺らの補講なんか見てもしょうがねぇだろうし」


轟も納得がいかない様子で強子を説き伏せようとするが、強子の笑顔は深まるばかり。


「そんな、とんでもない!絶対に楽し・・・学べることがたくさんあるはずだよっ!」

「おい、今コイツ、楽しいって言いかけたぞ!」


どうにか強子の見学をやめさせようと、爆豪が教師たちを見るが、


「学ぶってのは楽しィよなァ―――ヒィア!」

「学ぶ意欲がある子の意志は尊重すべきってことで、身能少女の見学は雄英もオーケーを出してるよ」


教師陣も役に立たないとわかると、爆豪はつり上げた目の角度がさらにつり上げ、盛大に舌打ちした。


「このアホ女に学ぶ気なんか欠片もねェだろ!俺らを虚仮にすることしか考えてねんだからよオ!!」


ギャンギャンと強子に噛みついてくる爆豪・・・まるで、親が授業参観にくるのを恥ずかしがる子供だ。


「ほらほら、いつまでも駄々こねてると遅刻しちゃうよ。さっ、みんなバスに乗りましょ!」

「テメェが仕切んな!!!」


ルンルンと上機嫌にバスに乗り込む強子は、まるで、楽しみにしていた遠足に出かける子供のよう。
そんな彼女の後ろ姿を目で追っていた轟が、人知れず顔色を曇らせた。


「(面倒くせェ事にならなきゃいいが・・・)」







「じゃァ 上で見てるぞ!」

「応援してるねー!」

「ケッパレよ―――ヒィア!」


てってこ会場へ向かっていく二人を見送ってから、会場の上階にある観覧席に向かおうと強子たちが足を進めていると、


「おや・・・元No.1ヒーローじゃないか」


威圧的な声に呼び止められ、オールマイトが足を止めた。


「焦凍の引率、ご苦労」


でた・・・現No.1ヒーロー、エンデヴァーだ。


「ちょうどいい・・・貴様とは、腰を据えて話したいと思っていた」


彼がギロリと血走った眼でオールマイトを睨みつければ、ピリッと空気が緊迫する。
いっきに居心地が悪くなった空間で、強子は隣にいるプレゼント・マイクとそろりと視線を合わせた。


「・・・コーヒー買ってくるぜィエ!」

「わ、私もー!」


くるりと踵を返してその場から逃げだした。しかし、

 
「待て・・・身能 強子」

「ッ!?」


突然名指しで引きとめられて、強子は内心で悲鳴をあげながら立ち止まる。
そして、無情にも、マイクは強子を置いてさっさとどこかへ行ってしまった。


「仮免資格をすでに持つ貴様が何故ここにいるのか知らんが、まぁいい・・・貴様にも言いたいことがあったのだ」

「え、ええー・・・なんですかぁ・・・?」


引きつった笑顔を浮かべながら、エンデヴァーに向き直って問う。
・・・彼とは初対面の際に、喧嘩腰でいろいろと言いたい放題してしまった手前、ものすごく気まずい。彼の強子に対する心象が悪いことは間違いないのに、エンデヴァーとの会話を楽しめるわけもない。
そんな強子の不安を具現化するように、目の前のエンデヴァーの表情がみるみる険しくなっていくが・・・いったい、何を言われるのやら。


「貴様―――やはり、焦凍と 恋仲ではないか!!」

「・・・・・・はァ!!?」


強子はあんぐりと口を開け、目もこぼれ落ちそうなほどに見開いた。
なんだかデジャヴ・・・体育祭の最中にも、エンデヴァーから同じようなことを言われた気がするが、あの時はちゃんと否定して、納得してもらったはずだけど・・・?


「冬美から聞いているぞ、焦凍と貴様が、特別に想い合った仲だとな!」

「エッ・・・いや、それって・・・」


あながち間違いじゃないけど・・・特別な“友だち”って意味だよね!?
そう弁明しようと口を開くが、エンデヴァーは食い気味に強子の言葉を遮って続けた。


「それに、俺の目を盗んでコソコソと・・・焦凍の部屋に上がり込んでいたそうだな!」


いや、そう聞くと、すごい悪い女みたいに聞こえるけど!一緒に勉強してただけだから!


「あげくに・・・うちの家内にももう挨拶を済ませたそうじゃないか!俺の許可もなく、勝手なことを・・・っ!」


あ、それについては、ごめんなさい。家庭の事情に首を突っ込むようで厚かましいなとは思ってました。
でも、奥様本人が強子に会いたいって言ってくれたのだから、不問でしょ?そもそも、挨拶って変な意味じゃなく、普通に“友だち”として、普通にお話しただけだから!


「体育祭のときは、貴様の否定する言葉を鵜呑みにしたが・・・信じた俺が馬鹿だった!」


そ、そこまで言う!?
人には否定の言葉を挟むスキも与えず、勝手に誤解しておいて・・・ホント、この人は馬鹿だよ、親バカだよ!強子がエンデヴァーから怒られる謂れなんて無いのに!!
轟のことになると、こんなにも人の話を聞かない、思い込みの激しい頑固オヤジになるとか、なんというか、もう・・・面倒くさい。うん、轟が彼を毛嫌いするようになるのも納得だ。


「職場体験でこの俺が貴様を指名したというのに蹴ったのも、どうせ 俺に嘘をついていたと気付かれたくなかったからだろう!?」


その随分な言いがかりに、強子は目を見開いて彼を凝視する。


「そんな事をしても、焦凍の態度を見れば 「エンデヴァー!!」


彼のデカい声を凌駕する大声を発すれば、ようやく彼の口が止まった。
人の話に耳を貸そうともしないエンデヴァーには、正直、轟との恋仲説を否定するのも面倒くさいなと思い始めていた強子だけど・・・これだけは、否定せずにはいられない。
職場体験先をエンデヴァー事務所にしなかった理由が、そんな下らない理由だと誤解されたままじゃ、据わりが悪いぞ!


「私があなたの指名を蹴ったのは、あなたが、”私”に期待してるわけじゃないと気付いたからですよ」


強子がオールマイトを彷彿させる戦い方をしていたから・・・だから、打倒オールマイトの予行演習になることを期待して、指名したんだろう?エンデヴァーは、強子自身の成長や活躍に期待してたわけじゃない。


「私は、“焦凍くん”にではなく ”私”に期待して、”私”を成長させてくれるヒーロー事務所を選んだだけです。これって、当たり前のことですよね?」


強子は自分の選択が間違っていないことを確信しながら、なにか文句でもあるかと喧嘩腰で エンデヴァーの目をまっすぐに見つめた。
すると、彼はきまり悪そうに表情を歪めたあと、強子の視線から逃げるように視線をそらした。


「・・・そこまで理解した上での選択だったなら、まあ・・・納得しよう」

「(勝った・・・!)」


素直に認めたエンデヴァーに心の中でガッツポーズする。同時に、「やっぱり”私”には期待してなかったんかい」と複雑な気持ちにもなった。


「しかし・・・言っておくが、俺は まったく期待できない者を指名してやるほど寛容ではない。個性はもちろん、君のその・・・誰に対しても堂々意見する度胸にも、多少は見どころがあると思っている」

「!!」


低く、ぼそぼそと呟かれたエンデヴァーの言葉に、はっと息をのんだ。
まさか、まさかの展開である。エンデヴァーに、褒められた!現No.1ヒーローに褒められた!!強子の超聴覚は彼の言葉、一言一句漏らさなかったぞ!


「それで、だな・・・あー、以前は焦凍と別れるよう君に告げたが・・・今は、節度を保ってくれれば・・・お前たちの交際を許してやってもいいと考えている」

「・・・エッ?」

「君との交際は、少なからず焦凍にいい影響を与えているようだしな」


どうだ、俺は理解のある親だろう――とでも言いたげなドヤ顔で強子を見てきたエンデヴァーにぎょっと顔を青ざめさせた。そうだった・・・まだ、こっちの誤解は、全然とけてなかったんだ。


「いえあの、それっ、勘違いですから!私たち、付き合ってません!!恋仲じゃないんです、本当に!!!」


いくら面倒だとしても、やはり、誤解はきっちり解いておかねば。相手がエンデヴァーのような社会的に力のある人間だと、こういった誤解がのちのち厄介ごとを引き寄せたりする恐れもある。
エンデヴァーに向け、必死に身振り手振りで語っていると、彼はフッと笑みをこぼした。


「今は そういうことにしておいてやろう―――それより、そろそろ観覧席に移動するぞ。焦凍の勇姿を見逃すのは君も惜しいだろう?」


そう言ってすたすたと観覧席のある上階に向かうエンデヴァー。その後ろ姿を見ながら、表情を曇らせた強子が隣に問いかける。


「・・・今の、誤解、解けたと思います?」

「いや、解けてないだろ」


強子の問いに「う、う〜ん・・・」と言葉を詰まらせるオールマイトに代わり、いつの間にか戻ってきていたマイクが端的に答えた。







「えー本日はここ、総合体育センターをお借りしての講習です」


強子たちが上にあがると、ちょうど講習が始まろうとしていた。
・・・ところで、進行役を務めている目良は、以前に強子が見たときより更にやつれているけど・・・大丈夫なんだろうか?


「前のほうでいっスかね!見やすいし!」

「なるべく目立たない席にしよう。皆の邪魔になる・・・」


というオールマイトの心遣いは、エンデヴァーの「焦凍ォオオオ!!!」という雄たけびで一瞬にして崩れ去った。
突然の彼の登場に、轟は嫌悪の表情を見せ、その他の受講者たちがざわつき始める。そして、彼らの視線は自ずとエンデヴァーの隣にうつった。


「隣にいるのって、あれ・・・え・・・え・・・っ!?」

「オールマイトだ!!」

「何でいるのォ!?」

「すげえー!」


エンデヴァーのときとは打って変わって、キラキラした顔つきでオールマイトを見つめる彼ら。その格差に何とも言えない気持ちになって見守っていれば、今度は彼らの視線が、さらに隣へとうつる。


「あっ、身能 強子!?」

「あの子、仮免もう取ってたよね。何でここにいるんだろ・・・?」

「オールマイトの付き人でもしてんのかな・・・”秘蔵っ子”って話だし」


わあ・・・注目を浴びてしまっている。
こういう時って、リアクションに困るんだよな・・・彼らとは物理的に距離があるし、すでに講習が始まっているのに会話を投げかけるのも違うだろうし。でも、良い印象を与えたいなら、無視するなんてもっての外。
よし・・・とりあえず、ここは笑って誤魔化しておこう!
強子は階下にいる彼らに向けて、ふわりと笑みを浮かべた。少し恥じらいを含んだ笑顔で、戸惑いがちにペコリと小さく会釈をすれば、


「「「かっ・・・かわいい〜」」」


階下にいる者たちがヘラリとだらしなく顔を緩ませるのを見て、強子は内心でほくそ笑んだ。
そうだろう、そうだろうとも。
まったく、チョロイもんだぜ・・・強子の完璧な微笑みに対して、複雑そうに顔を歪めた轟と、「ケッ」と眉間に皺を寄せた爆豪を除けば、誰しもが強子にメロメロじゃないか。
・・・まあ、轟と爆豪には強子の本性を知られているので、彼らにこの技が通用しないのは しょうがない。


「えー・・・皆さん、落ち着いて下さい。続きいいです?」


目良の呼びかけにより、気が散っていた受講者たちは再び講習へと意識を戻した。そして、現見ケミィが新たに加わる受講者として紹介されると、いよいよ講習が始まる。
強子はオールマイトたちと並んで座ろうとしたのだが、ふと、会場の向かい側の観覧席に、士傑の人たちが座っているのに気がついた。
すると移道と目が合って、ちょいちょいと手招きで呼び寄せるような仕草をされる・・・一緒に観ようという、お誘いだ。
強子はオールマイトたちに一言かけると、雄英側の席と士傑側の席の中間くらいの位置で移道と落ち合い、二人はそこに腰かけた。


「今日は誘ってくれてありがとう」

「久しぶり、強子・・・昨日報道で見たけど、早速インターンで活躍したって?凄いじゃないか」

「ん?あー・・・うん。そう、そうだね」


本当は、「まァね!」と自慢げに返してやりたいところだったけど・・・実際、インターンでどれほどの活躍ができたかを思うと、うまいこと返せず、歯切れの悪い回答となってしまう。
そんな強子の様子に移道は首を傾げて、「・・・疲れてるなら、無理しないようにな」なんて、気を遣われてしまった。


「これまでの講習でわかったことがある―――貴様らは ヒーローどころか底生生物以下!!ダボハゼの糞だとな!!」


会場にギャングオルカが現れると、途端にものすごい緊張感が受講者たちを包む。先程まで弛緩していた空気も、一瞬のうちにピリリと引き締まった。なんというか、講習というより、軍隊の訓練のような・・・そして彼の言葉に、すかさず「サー イエッサー!!」と返す受講者たちは、すっかり調教済みである。
移道が隣でぼそりと「・・・こわっ」と漏らしたのも、真っ当な反応だろう。
だが・・・ああ見えてギャングオルカが子供好きで、後進育成に骨身を惜しまないヒーローだと知っている強子にとっては、この光景が微笑ましくすら思え、温かな目で見守った。それから・・・


「指導―!!」


そのかけ声とともに、爆豪や轟、夜嵐らがギャングオルカにポイポイ投げ飛ばされる様は 実に痛快であった。
目にした瞬間、強子は思わずガッツポーズで椅子から立ち上がっていたくらいだ。これを見られただけでも、今日ここに来た価値がある。
そうして指導をくらった三人は、戦闘力は充分だが・・・欠けたものがあると、ギャングオルカはそう告げた。


「救う!救われる!その真髄に在るは 心の合致、通わせ合い!!」


その言葉に、思わずウンウンと大きく頷いた。要救助者との信頼関係がいかに大事であるか・・・強子自身、職場体験やインターンといった現場で、身をもって学んだものだ。


「死闘を経て、”彼ら” と心を通わせてみせよ!!それが貴様らへの試練だ!!」


――という煽りとともに現れたのは、市立間瀬垣小学校の皆さん。
キャアキャアと楽しげにはしゃいでる幼い彼らは、傍から見ている分には、とっても可愛らしい。だが、しかし・・・心を通わせろと言われた彼らは、そんな暢気なことを言ってる場合じゃなさそうだ。

死闘を期待していた爆豪が怒鳴れば、大きな声に驚いた子が泣き叫び、瞬時に爆豪は子供たちから“敵”認定されてしまう。
生真面目というか 遊び心のない轟は、やんちゃ盛りな子供たちから「つまんね」と総スカンを食らう。
夜嵐はエンデヴァーがいるせいで気持ちが集中できずスキだらけで、子供たちにボカボカと一斉攻撃を浴びせられている。
子供好きだという現見なら善戦するかと思いきや、男子をたぶらかしたと お年頃な女の子たちの反感を買ってしまって、苦戦する。

もはや 収拾つかないのではと思われるほどの状況の中・・・四人で協力し、問題児だらけのこのクラスの心を掌握しろ と、ギャングオルカから無理難題を押し付けられた。





小学生ごときを相手に、見事なまでに翻弄されている彼らを高みから見物する強子。
ニヤニヤとした笑みを携えているのは・・・彼らの滑稽な姿を嘲笑しているのではなく、勝手に実況を始めたマイクの軽妙なトークが面白いから、ということにしておこう。
そして、他人事ながら「頑張れー」と応援していた強子だが、どうにも・・・さっきから視線を感じて、落ち着かない。
視線を送ってきている人物のほうを盗み見て、強子はそっと移道に問いかけた。


「あのさ・・・おたくの先輩、さっきからずっとこっち見てるみたいなんだけど・・・?」


そう・・・士傑の教師とともに観覧席に座している、肉倉精児――離れたところにいる彼が、チラッチラとこちらに絶えず視線を送ってきているのだ。
その表情は、一見すると、怒っているようにも見える。生真面目そうな固い表情だとか、鋭い目つきだとか・・・いや、単に目が細いだけという可能性もあるけど。


「瞬、アンタ・・・何か怒られるような事でもしたんじゃないの?」


彼の視線に居たたまれなくなった強子がコソコソと訊いてみたが、移道は何食わぬ顔で「してないよ」と言う。


「あの人はいつもああだから、強子は気にしなくていいよ」

「え、でも・・・」


肉倉のほうには一瞥もくれず、さわやかな笑みを浮かべて答えた彼に、戸惑いを覚える。
だって、肉倉はあんなにも物言いたげな視線をこちらに向けてきているのに、“気にするな”って・・・ちょっと強引じゃない?あの熱い視線を無視してて、本当に大丈夫なの?
強子は不安げな様子で、移道と肉倉とを交互に見やっていたのだが、


「おいっ・・・補欠女ァ!テメェ、見学に来たんだろが!ヤロウばっか見てねェでコッチ見てろや!!!」


会場の階下から爆豪の怒号が飛んできて、その突然の大声にビクリと肩を揺らした。
なんだよ、もう。さっきまでは「見せモンじゃねえ」とか言ってたくせに、今度は「コッチ見てろ」って・・・意見をコロコロ変えやがって、勝手な奴め。
っていうか、また ”補欠”って言ったな!?
爆豪の言葉に強子が不服そうに頬を膨らませたところで、なんと今度は、別方向からも怒号が飛んでくる。


「貴様っ、焦凍というものがありながら他所の男にうつつを抜かすとは、どういう了見だっ!!」

「だからそれは勘違いだって言ってるじゃん!!もう何コレ、めんどくさッ・・・」


講習中なのに、オーディエンスである強子に向けて難癖つけてくる爆豪もどうかと思うけど・・・それ以上に、オーディエンスでありながら五月蝿く騒ぎ立てるエンデヴァーはどうかと思う。
強子の視界の隅で、轟が申し訳なさそうに顔を俯け、手で額を覆う姿が映った。
さて―――そんな事をしているうち、子供たちと四人の攻防に動きが見えた。四人を完全になめてかかっていた子供たちが、四人に向け、個性を放とうとしているのだ。


「見せてやるぜ!!俺たちのほうが上だってよ!!」

「来いや ガキ共、相手してやるぜ!」


子供たちの行動に、好都合だと爆豪が応戦態勢をとると、


「力に力で対応するは迂愚の極み!!」


マイクに続いて、肉倉までもが解説実況に乱入してきた。彼はマイクに負けず劣らずといった勢いで、チームダボハゼ VS 子供たちの戦況を実況していく。
そして、実況の合間合間に、やはりチラッチラッと強子たちのほうに視線を投げてくるんだが・・・。
一応 強子は移道を見やったが、やはり彼は「気にするな」と言うように頷いたので、もう肉倉のことは気にせず、戦況に集中することにした。


「すみません!悠長に話してる場合じゃないですよ!!あの子たち・・・自分の”個性”がヒーローより優れていると・・・本気で皆さんを負かす気でいます!!」


間瀬垣小の先生が危惧した通り、子どもたちが一斉に、四人に向けて攻撃を仕掛けてきた。多種多様、威力もえげつない個性攻撃が、躊躇なく四人へと襲い掛かる。
その様子を見た他の受講者たちも「マズいのでは!?」と肝を冷やしたが・・・あの四人は、腐っても ヒーロー志望。彼らの実力を知る強子も、移道も、余裕の笑みを浮かべて悠々と彼らを見守っていた。


「そんな・・・!!俺たちの”個性”にビビってねー・・・!」


当然ながら、子供たちの攻撃なんてものともしない。かすり傷ひとつない彼らの姿に、子供たちに僅かに動揺が走った。けれど、あの四人との力量差がまだわかっていない彼らは諦めず、さらに力を振るおうとしている。


「私が行くわ!・・・クイーンビーム!!」


女児の放ったビーム攻撃が、轟へと一直線に向かっていく・・・―――


「オイオイ、君の可愛い顔が見てぇんだ・・・シワが寄ってちゃ台無しだぜ」


そこにいたのは、いつもの3倍増しくらいキラキラした眼差しで、背後に大量のバラを背負った轟であり・・・これまたいつもの3倍増しくらい軽やかな声で、甘い言葉を女児に捧げていた。


「ンブフッ!!」


現見の作り出した、幻惑の轟だ。
これを見て笑わずにいられる奴、A組にはいないだろう。当然、強子も耐え切れず吹き出した。
普段のクールな轟を見慣れているから、ギャップが凄まじくて笑いがこみ上げる。
爆豪もまた幻惑の轟がツボに入ったらしく、グププと嗤っている。そして、彼は何を思ったのか・・・


「カワイイカオガ ミテーンダ」


いつもの5倍増しくらいキラキラした眼差しで、爽やかな表情をして・・・轟の所作を再現しながら、彼のセリフを真似たではないか。
 

「!?ブハッ・・・!!!」


これは幻惑ではなく、紛れもない、リアル爆豪である。
お前・・・何してくれてんだよ。普段の爆豪からはとても想像できない、そのはっちゃけぶり・・・こんなの、笑うに決まってるだろ!とんでもない笑いの刺客の登場に、強子はケラケラと笑い転げた。


「俺は良いと思うぜ!!マボロキ君よォ!」


轟をからかい、笑い交じりに爆豪がそう言うが・・・もう、爆豪が何を喋っても笑えてしまうので、頼むから何も喋らないでほしい。


「?そんなに面白ぇ事言ってたか?」


一方、轟はマイペースなもので、何がそんなに可笑しいのかと不思議そうに顎に手をあてた。続けて、彼の口から、爆弾発言が飛び出す。


「似たようなことなら、よく身能にも言ってると思うんだが・・・」

「エッ!?」


その発言に、会場中のあちこちから一斉に、強子へとトゲトゲしい視線が向けられた。
受講者の女性陣に、間瀬垣小の女児たちからの 嫉妬の視線・・・だけでなく、エンデヴァーからもギロリと妬ましげな視線を向けられるし、隣にいる移道からはジットリと恨みがましい視線を向けられる。
おまけに、その他の男性陣からは「この女、彼にそんなことを言わせてるのか・・・?」と批判的な目を向けられた。
直前まで笑い転げていた強子は、瞬時に顔を青ざめさせると、誰にともなく首をブンブンと横に振って否定する。


「(いや、怖いこわい・・・!知らないんだけど!?似たようなことなんて言われたことないんだけど!?)」


轟の口から、女性を喜ばせるような甘い言葉なんて、言われたことないはずだ。
・・・あ、一度、強子の寝顔を「かわいい」と言われたことがあったが・・・轟はそのことを言ってるのか?
だとしたら、余計に弁明しづらいぞ。寝顔がどうのなんて話したら・・・今度こそ、エンデヴァーに灼かれてしまう。


「いーから、さっき話したヤツ、行くっスよ!」


夜嵐の仕切り直す声をきっかけに、会場内の止まっていた時間が動き出した(ように強子は感じた)ので、心から夜嵐に感謝する。


「君たちは確かに凄いっス!!でもね!ブン回すだけじゃ まだまだっス!!―――行くっすよォ!!」


次の瞬間、強子は無意識のうちに「わあ!」と感嘆の声を漏らしていた。
館内に姿を現したのは、氷で作り上げられた巨大なすべり台だった。その上空には、美しいオーロラがたゆたう夜空が広がっている。
オーロラが氷のすべり台にも映りこんで、館内全体に幻想的な景色を作りあげている。さらに、ところどころに子供たちが個性で出したものを織り交ぜているので、色とりどりで複雑なアスレチックに仕上がっていた。
世界中どこを探したって他にはない・・・今、ここにしかない、特製のアトラクションだ。
そのすべり台に、夜嵐が風をコントロールして子供たちを運び乗せれば、あっという間に、彼らはアスレチックに夢中になる。


「子供たちの心を折らずに、仲良くなる・・・か。やるなぁ、アイツら・・・」

「ねっ、ホッコリするわぁ・・・」


強子も混ざりたいと思うくらいに楽しそうなすべり台だ。だが・・・一人だけ、不機嫌そうに傍観している子がいた。おそらく彼が、この問題児クラスの先導者。
爆豪はその子に歩み寄ると、「てめェも交ざれ」と腕を引く。


「いつまでも見下したままじゃ、自分の弱さに気付けねェぞ」


人生の先輩として彼にアドバイスを与えた爆豪は、いつもよりどこか、大人びて見えた。実体験からくる心のこもった爆豪の言葉は、きっと、あの子の心にも響いたことだろう。







「”協力して子供らの心を掌握せよ”――アバウトな課題に対し、よく努めた」


アバウトな自覚あったんかい、と四人はもの言いたげな顔をしていた。
とにかく、課題は無事にクリアということで、子供たちも一緒になって会場を片付け、講習は終了だ。


「他の者もよくついてきている!!今日の講習を忘れることなく次も励め!君たちはとても可能性・・・あ、」


そこまで言ってから、思い出したように「糞どもが!!!」と言い直すギャングオルカに、強子はにっこりと口角を上げた。


「怖い人かと思ってたけど・・・ギャングオルカって、意外と優しい人なのか・・・?」

「・・・ホッコリするわぁ」


ホクホクと心温まりながら、やっぱり、ギャングオルカに一緒に写真とってもらえるよう後でお願いしようと強子は決意した。





講習が終わって、帰りのバスに乗る前にと強子は館内のトイレに向かった。轟の氷で館内はすっかり冷え切っていたので、尿意を催していたのである。
用を足し、すっきりした心地になってトイレを出たところで、


「「あ」」


バッタリと遭遇したのは、現見ケミィであった。彼女も、会場のあまりの寒さにトイレに行こうとしていたところなのだろう。
現見(本人)とは初対面であるが・・・こうもガッツリ目が合ったからには、挨拶しておくのがスジだろう。そう判断した強子が動くより早く、


「ウッソヤッバ ゲキマブじゃん!マジカワイイんだけど実物の身能強子!!」

「!」


現見は驚愕したように目を見開き、一息にそう並べたてた。
予想していなかった反応に強子が目をぱちくりさせていると、彼女はズイと身を乗り出し、強子の顔を間近から凝視してくる。


「え〜、可愛さレベチじゃない?近くで見てもカワイイとか本物じゃん、マジ美少女。肌もめちゃキレーなんだけど・・・“肌あれ”って言葉 知ってる?つーか毛穴なくない!?」

「え、っと・・・あの、現見先輩・・・」

「ケミィって呼んで」


圧倒されながら話しかければ、彼女はニコリと笑ってそう返した。友好的な彼女に安心し、強子は思っていることをストレートに告げた。


「じゃあ、ケミィ先輩・・・その、近いのですが・・・!」


強子に対して好意的な印象を抱いてくれるのは嬉しいのだが・・・現見に至近距離で見つめられると、自然と脳裏によぎるのが――以前、現見に扮したトガからキスされたこと。
今、対面している相手がトガではないことは理解している。それでも、現身のチャームポイントともいえる、ぽってり厚めのプルプル唇の感触を思い出しては、顔が熱くなる。
そんな強子の様子に、現見は「・・・あ、ごめん」とすぐに察してくれて(仮免試験のときに何があったのかは聞いているんだろう)、強子から離れた。


「にしても、移道とか、カタブツの肉倉までハマるのもわかるわ。こんなにカワイイんだもん、マジ眼福でしかない・・・あーでも、轟と付き合ってるんだっけ?」

「いえっ、それは誤解で!ただの友だちなんです!!」


強子が目一杯に否定すれば、「なんだ、そうなの」とすんなり信じてくれて、彼女には感謝しかない。
・・・いや、普通の反応はこうだよな。エンデヴァーの反応が異常なだけで。


「けど実際、あんなイケメンから甘いセリフ言われてみたいよねぇ」


そう言うと彼女は、ぽってり唇からフゥと息を吐き出した。そして直後、強子の前に現れたのが、


「強子、お前の可愛い顔が見てぇんだ・・・どうか俺に 笑いかけてくれねえか」

「ブフォッ!!」


笑顔でバラの花束を差し出してきたマボロキくんに、強子は思わず吹き出した。
無駄にイイ顔で強子を見つめてくる彼を直視できず、サッと彼から顔を逸らせば、


「なァ、強子・・・そんなつれない態度は逆効果だぜ。お前の冷てぇ素振りが、余計に俺を熱くする・・・」

「ッ・・・!」


甘ったるい表情で、どこかキザっぽく挑発的に強子に囁いてくる轟。
何その新しいキャラ設定!?お顔も台詞も実にイケメンではあるが・・・実物とのギャップに無性に笑いが込み上げてきて、腹筋が痛い。
真っ赤な顔でふるふる震えながら笑いを堪えている強子に、現見がさらに追い討ちをかける―――


「おい、強子・・・俺以外のヤツばっか見てんじゃねェよ」

「ブッ・・・!!?」


いつもの10倍増しくらいキラキラした眼差しの爆豪が、切なげな表情で強子を見つめているではないか。しかも彼のまわりには、バラ園かと思うほど大量のバラが咲きほこっている。
現見の個性『幻惑』・・・もう何でもアリだなと感心し、笑いを堪えながらマボカツくんをガン見していれば、


「ッ・・・お前にそんなに見つめられると―――心が爆発しそうだ・・・」

「ッッッ・・・!!」


前髪をくしゃりと押さえて、はにかむ表情を見せたマボカツくんに、もう、我慢の限界を突破した。


「ンブッ・・・ッ、アッハッハッハッ・・・!!!おかしっ、もう駄目・・・お腹いたいぃ!!」


怒涛の勢いで笑かしてくる幻惑の彼らに、強子はお腹を抱え、涙が出るほどに爆笑する。
トイレに行った後でよかった・・・これが用を足す前だったら 危ないところだった。


「ヒィィィ!息ができないっ、笑いすぎて死ぬ!ケミィ先輩のセンス、最高すぎてヤバいぃ!!幻惑、乱用ダメ、絶対!」

「抱腹絶倒する身能強子とか マジ秘蔵ー」


ヒーヒー言いながら笑い悶える強子に気を良くしたようで、現見も上機嫌に肩を揺らして笑っている。
そして彼女は、ふと気がついたように眉を押し上げた。


「つか爆豪って、黙ってればソコソコ良さげ?」


マボカツくんの顔をしげしげと眺めながら呟かれたそれに、強子は即座に反応した。


「そう!そうなんですよ!!あの性格のせいであんまり気付かれないんですけど、実は爆豪くんって、イケメンに分類される顔してるんですよねー!」


黙っていれば(悪態やら嫌味やら怒声を発しなければ)イケメン――強子が常々思っていたことだ。
初対面の他校生である現見も同じことを感じたようで、どっと親近感がわいて、テンションも上がる。
そして強子のテンションにつられたのか、現見がさらに悪ノリし、幻惑の彼らを再び操る。


「俺も・・・お前のこと、かわいいと思ってたんだ。いつもは、素直になれねぇだけで・・・本当はずっと、お前のことを・・・」

「!」


眉根を寄せ、切なげな眼差しで強子を見つめるマボカツくん。
素直になれない自分を責めるような、悔いているような、思い詰めたその表情に・・・幻惑だとわかっていても、胸がきゅっと締め付けられた。


「待てよ爆豪・・・お前より、いや、誰よりも強子のことを想ってるのは 俺だ!今までみてぇに“友だち”なんて枠じゃ、いい加減、ガマンできねぇくらいにな・・・」

「!」


キリリと雄々しい顔つきで爆豪を牽制して、強子に熱い視線を送ってくるマボロキくん。
それはもう“友だち”に向けるような眼ではなく、彼の深い情愛と欲望を滾らせたもので・・・幻惑だとわかっていても、胸がトクンと跳ね上がる。


「強子・・・俺を見てくれッ」
「強子・・・俺を選んでくれ!」


真剣な表情でたたみ掛けてくる二人に、「誰だお前ら」と心中で突っ込みつつも・・・A組ツートップから言い寄られるのは、悪くない。
ニマニマと表情筋が弛むのを自覚しながら強子はスマホを取り出し、幻惑の彼らを動画におさめられないかと試そうとして、


「―――・・・ずいぶん、楽しそうだなァ?」


後ろから頭をガシっと鷲づかみにされ、強子の口から「あっ・・・」と情けない声がもれる。
聞き馴染んだドスのきいた低い声に、顔をさぁっと青ざめながら、強子はそっとスマホをしまった。





その後・・・すっかり意気投合した現見と、爆豪に轟、夜嵐らと一緒に会場を後にすると、体育館を出たところで、雄英と士傑の教師たち(移道と肉倉もいる)が話し合っていた。
情報共有も含めて、今後は両校で連携をとっていこうと話していたらしい。


「今後、合同での実習も検討して下さるとの事だ!」


こちらに気がついた肉倉がデカい声でそう教えてくれたのだが・・・どうにも彼は、同胞である現見ではなく、隣にいる強子のほうを見ている気がする。
あれ・・・もしかしてこの人、強子に向けて言っているのか?でも、なんで??
彼の視線の意図がわからず戸惑っていると、強子の前にスッと爆豪が歩み出た。


「次ァ サシでぶちのめす」


不遜に告げられたその一言に、肉倉はくわっと爆豪に噛みついた。


「貴様はまだそう粗暴な言動を!!立場をわきまえろ!」

「あんたに言われたかァねェんだよ。一次で俺らに負けたてめェが偉そーに威張りくさんな」

「くッ・・・貴様、よくも身能女史の前でその話を・・・!」

「(身能、女史・・・って私のことだよね? “女史”って、なんだっけ?)」


この人って、ムダに難しい言葉を使うから、何を言ってるかイマイチ頭に入ってこないんだよなぁ。
ぐぬぬと唇を噛みしめる肉倉を見つめながら、彼の刺すような視線が強子から爆豪に逸れたことにホッとしていた。


「・・・あの時、私の視野が狭かったばかりに 貴様らに立ち遅れた事は認めよう。だが、千慮一失であったと省み、すでに改悛している。もう同じ過ちは繰り返すまい・・・私とて、斯様なところで足踏みしている場合ではないのだ」


目蓋を伏せてアンニュイな様子で語ると、肉倉は再び強子のほうへ視線を投げてよこしたので、強子は慌てて佇まいを正した。


「象徴の不在だの ヴィラン隆盛期だのと憂苦されるこの時代において、煌々と人々を眩耀させる、鮮烈な存在・・・私と同世代、それも学生の身でありながら、すでにヒーローとしての責務を享受し、民衆を正しき平和な治世へ導かんとする人傑――身能女史の躍出に、私も、心動かされたという故由である」

「・・・ん?(なんて?)」

「インターンでの貴女の活躍は聞き及んでいる。私は貴女の獅子奮迅ぶりを 魯鈍な己への督励と受け取り・・・貴女のような、ひときわ眩い希望の光となれるよう 一意専心してきたのだ」

「は、はあ・・・?(つまり、どういうこと?)」


やはり彼の使う言葉は難解で、ぱちぱちと瞬きしながら どうしたらいいのと悩む強子に、現見が助け船を出してくれた。


「要するに、肉倉も 強子と仲良くなりたいってワケね」

「!」


手をぽんと叩いて、ぱぁっと顔を輝かせる。


「なぁんだ!それならそうと早く言って下さいよ!」


強子は安堵から満面の笑みをこぼしていた。
実を言うと、強子のこれまでの経験上・・・優等生とか、真面目・堅物と言われるようなタイプからは快く思われないことが多かったため、もしかしたら肉倉もそのパターンなのではと内心ビクついていたのだ。


「仲良くなりたいなんて、こちらこそです!士傑と合同実習ってのも楽しそうですね!―――あっ、連絡先、交換しませんか?いろいろ情報共有もしたいし・・・」


強子のその提案に、肉倉は驚くほど素直にスマホを取り出した。
その背後では、夜嵐が「身能さん、交流術さすがっス!」と叫び・・・爆豪が「肉てめェ、この女が轟と連絡先交換したときゃ“下作である!”とか抜かしてたろーがッ」と現見を指差して怒鳴る。
さらに移道は「士傑と情報共有がしたいって意味なら、俺が出来るんだけどな」と黒い笑顔で肉倉を見ていた。

雄英生と士傑生とで、ワイワイ騒がしくしている中・・・端から様子を伺っていたエンデヴァーが、轟に歩み寄り、「久しぶりだな」と声をかけた。


「焦凍、お前は自慢の息子だ―――ならば 俺も、お前が胸を張れるようなヒーローになろう。父はNo.1ヒーロー・・・最も偉大な男であると」

「・・・」


決意を言葉にして示したエンデヴァーに対して、轟は、不機嫌そうに顔をしかめると、フイと彼から顔をそむけた。
・・・轟のこういう一面を見ると、やっぱり彼も"男の子"なのだと感じる。
嫌っている相手を素直に認めることなんて出来ず、自分の感情を優先させてしまう。親に向かって反抗的な態度をやめられない。
複雑な家庭環境であることを抜きにしたって、同級生がいる手前じゃ、父親と素直に話すのが躊躇われる年頃だとは思う。それでも・・・これじゃあ いくらなんでも、エンデヴァーが可哀そうだと強子は苦笑した。


「轟くん・・・」


諭すように彼の名を口にすれば、彼はばつが悪そうな顔になって強子を見た。
轟だって、エンデヴァーの様子が今までとは何かが違って、憑き物でも落ちたかのように、澄んだ眼をしていることに気付いているんだろう。
轟は脱力したように息を吐きだすと、エンデヴァーを一瞥した。


「・・・勝手にしろよ」


否定とも肯定ともとれる、素っ気ない一言。だけど、何もないよりは、ずっといい。轟家の確執はまだまだ深いが、少しずつ・・・少しずつでも変わっていけばいいんだ。


「エンデヴァァーーー!!!俺、応援してるっス!」


ずっとエンデヴァーを嫌悪していたはずの夜嵐も、彼の変化を認め、応援しようと思い改めたようだ。
そんな彼らの変化を目の当たりにし、強子はにっこりと笑みを浮かべた。


「私も応援してますよ、エンデヴァー」


朗らかにそう伝えた強子に、彼は、尊大な態度でフンとせせら笑った。


「お前こそ、焦凍に見限られないよう せいぜい頑張るんだな」

「いやだから、そういう関係じゃないって、言ってるのに!この設定、いつまで続くの・・・?」


何度否定しようと、エンデヴァーは強子の否定の言葉など右から左に聞き流し、轟と付き合ってる設定を一貫してくるんだが・・・。
どうしたらいいの と強子が轟を見れば、彼はまたばつが悪そうな顔になる。


「・・・悪ィ。俺も、否定はしたんだが・・・」


・・・うん、思い込みが激しいエンデヴァーの誤解を解くのは大変だよね。
ぐったりと疲れた顔した轟に謝られたけど、強子はゆるゆると首を振って応えた。確かにエンデヴァーの言動には驚かされ、振り回されたけど・・・轟が悪いわけじゃないもんな。


「ったく、あいつは勝手なことばっか言いやがって・・・俺が身能を見限るなんてこと、あるわけねぇのにな」


そう言って、ふわりと柔らかな笑みを強子に向けた轟を見て・・・やっぱり、轟のこういう態度が誤解を招く原因の一つでは?と疑念を抱いた。










雄英へと帰るバスの中、凝り固まった身体を癒やすようにグッと背伸びしながら、強子は満足げに笑みを浮かべた。


「はあ〜・・・楽しかったァ!」


今日は見学という気楽な立場で講習に参加したわけだけど・・・たくさん面白いものが見れたし、士傑生との新たな繋がりも出来て、非常に有意義な一日であった。ついでに言うと、帰る前にギャングオルカとツーショット写真も撮れてすこぶるハッピー。
爆豪から盛大な舌打ちが送られようと、どこ吹く風だ。
ルンルンと鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌な強子であったが―――寮に帰れば、真顔の緑谷から、いかに強子が向こう見ずで考えなしの危なっかしい人間であるかを延々と説かれるという、罰ゲームのような説教が待っていることを、彼女はまだ知らない・・・。










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士傑(特にケミィとお肉先輩)の喋り方がわかりません・・・。

ケミィさんと夢主には、秒で意気投合した後、更衣室で雄英と士傑の制服交換して写真とりあったりとか、そういう女子っぽい遊びをしてほしい。
ちなみにマボロキくんとマボカツくんのセリフですが・・・スピンオフ作品のチームアップミッションより、巻末イラストのセリフを参考にさせて頂きました!こちらの作品も面白いのでオススメです!


なお、百万打の際に「肉倉先輩がファンサを貰う」というリクエストを頂いてたので、今回、連絡先交換という形で消化させていただきました!


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