終わりの始まり
「1年生の校外活動(ヒーローインターン)ですが・・・昨日協議した結果、校長をはじめ多くの先生が“やめとけ”という意見でした」
HRにて相澤からそう伝えられると、一拍おいて、A組の教室に「えー!?」と驚嘆の声が響いた。
「あんな説明会までして!?」
ビッグ3が登場し、わけもわからないまま通形ミリオと戦って、わけもわからないまま腹パンされたことは、まだ彼らの記憶に新しい。
「でも、全寮制になった経緯から考えたらそうなるか・・・」
教室が落胆ムードに包まれる中、
「ざ ま ァ!!」
唯一、爆豪だけはニタリと笑ってご満悦だ。
仮免を取得しておらず、インターンに参加できない彼には朗報だろうよ。
「―――が、」
相澤の話には、まだ続きがある。
「今の保護下方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として・・・“インターン受け入れの実績が多い事務所に限り、1年生の実施を許可する”という結論に至りました」
それを聞き届けるやいなや、強子はぐっと拳を握った。
「っっっしゃ!!」
強子の声に、なんだなんだと クラスメイトたちが彼女のほうに振り向く。
ガッツポーズを決める彼女は、眼を爛々と輝かせて口角を上げた。
「インターンの受け入れ実績・・・わが愛しのファットさんのところなら、申し分なし!」
そもそも強子は、実績があるからこそ、ファットガム事務所を職場体験先に選んだわけだし。
「それに、実は私・・・前もってファットさんにインターンの打診をしてて、すでに二つ返事で受け入れの承諾をもらってるんですよねー!つまり、これで条件は整ったってこと―――先生っ、私、インターンに行ってもいいですよね!?ねぇ!!?」
嬉々として、期待に胸を膨らませながら相澤からの返答を待つ。
相澤は逡巡したのち、不本意そうな顔で口を開いた。
「・・・インターンの手続き書類を渡すから、あとで職員室に来い」
「やった!」
手厳しい担任からも許可が出たぞ!これで強子のインターン実施は確定だ。わぁーい!!
はしゃぐ強子に、轟は「よかったな」と表情をやわらげ、八百万は「おめでとうございます」と笑いかける。
そんな二人に向けて「ありがとう!」と、なにかを成し遂げたような満面の笑みを強子が返していると、教室の前方から「クソが!!」という悔しそうな声が聞こえてきた。ざまァ!
ファットガム事務所ならびに雄英高校、双方から許可を得た強子は、週末に手続き書類を持ってファットガム事務所に訪問する手筈となった。
そこで手続き書類にハンコを押してもらえば、強子は正式に、ファットガム事務所のインターン生となるわけだ。
「はぁ・・・週末が楽しみすぎる」
週末が近づくにつれ、日に日にニヤけ面になっていく強子の顔は、ついにインターン訪問の前日ともなると・・・かつてないほど だらしない笑顔になっていた。
そんな彼女の浮かれた様子を、寮の談話スペースに集まっていたA組女子たちは 温かい笑顔で見守っている。
「ここのところ強子は、口を開けばそれだねぇ」
「アンタさぁ、もう少し自重したら?強子のニヤけ面が増すほど、爆豪の目がつりあがる角度が上がってくんだからね」
耳郎がジト目で強子をたしなめる。
すると、今度は八百万も困ったような笑みを浮かべ、強子を諭す言葉を並べた。
「そうですわ。強子さんがインターンを心待ちにするお気持ちもわかりますが・・・インターンをしたくとも出来ない方もいますし」
彼女たちの言うとおり・・・強子がアホみたいに浮かれる一方で、爆豪の機嫌の悪さときたら、もう目も当てられない。緑谷のインターンも決まってからは、さらにひどかった。
そういえば最近、爆豪だけでなく、轟も どことなくご機嫌斜めのようだった。
強子のインターン先がどれほど素敵な環境か、インターン先の人達からどれほど可愛がられ、仲が良いかを語って聞かせたときには、「お前は楽しそうでいいな」と睨まれたし。
・・・やはり、仮免未取得(インターンが出来ない)となると、強子の浮かれっぷりは 気に障るものだったのだろう。
「でも、私は強子ちゃんの気持ち、わかるなぁ・・・」
麗日が強子を見ながら、へにゃりと眉尻を下げて笑った。
「私と梅雨ちゃんもインターンが決まったけど・・・やっぱりワクワクして、落ち着かないもん」
「ええ、明日からリューキュウ事務所のお世話になると思うと、とっても楽しみよ・・・少し緊張してしまうけれど」
「お茶子ちゃん、梅雨ちゃん・・・っ」
笑顔で強子に共感してくれた二人―――こんなにも可愛らしく、優しいクラスメイトたち。
この先、彼女たちは、チームアップして とある案件に立ち向かうことになる。
その案件を主導するのはナイトアイ事務所だが、そこでインターンを行う緑谷も、当然チームアップに参戦するだろう。
そして、強子のインターン先であるファットガム事務所からは、大好きなファットガムと、信頼してやまない天喰と・・・そこに、強子が敬愛するクラスメイト、切島もチームアップに加わるという展開だ。
切島のインターンが決定したという話はまだ聞かないが、強子の知る物語では、インターンを希望する彼は、天喰に頼みこんで ファットガム事務所に紹介してもらっていたはずだ。
「(うん・・・ものすごく楽しみだ!)」
ファットガム事務所では、愛弟子かのように可愛がられ、期待され、信頼されている強子だ。職場体験だって十分に有意義なものだったけど、インターンは、さらに実りあるものとなるだろう。
切島とともに、またファットガム事務所のお世話になる―――そんな近い未来に想像を膨らませ、彼女は口元をニンマリと歪めた。
「言ってるそばから またニヤけてるよ、この子は・・・」
呆れたようにため息をこぼした耳郎の隣で、八百万はぷくりと頬を膨らませた。
「・・・強子さんは、ずいぶんと楽しそうで、いいですわねっ」
「え、急に、なに?」
突然、ツンとした態度で轟と似たようなことを言う八百万に驚き、目を見開く。その反応が気にくわなかったらしく、八百万は目をつり上げた。
「インターンに出向いてる期間、私たちとは会えないというのに、強子さんはちっとも寂しくないのでしょうね!ええ、そうでしょうとも!強子さんはファットガム事務所の方々と親密にされ、学校では手に入らないような様々な経験を積み、有意義な時間を過ごすのでしょう!私のいないところで!」
「も、百ちゃん・・・?」
「強子さんが公欠で不在の間は、私の後ろの座席は無人・・・誰も座ることのない空席です。虚しいですわ・・・後ろを振り返っても、誰もいないなんて。私は日々、あなたに置いていかれた寂しさと戦うことになるのでしょう!」
「えええ・・・?」
何を言ってんだ と顔を引きつらせた。
いやいや、八百万はなんだか大げさに嘆いてるけど・・・強子がいなくても、隣の席には轟がいるし、同じ仲良しグループの耳郎だっているじゃないか。
・・・というか、もともと原作では、出席番号20番の彼女の後ろは空席なんだが?
強子が助けを求めるようにあたりを見回すが、耳郎も他の女子たちも、苦笑をこぼして肩をすくめるだけだ。
「私ばかりがこんな孤独を味わうなんてっ・・・なんだか、悔しいですわ!!」
・・・不思議なもんだ。本来は居ないはずの強子の不在を、こんなふうに寂しがってくれる人がいるなんて。
八百万の深い友情を感慨ぶかく受け止めながら、強子はプリプリと可愛く拗ねる彼女をぎゅうと抱きしめた。
「・・・私も、百ちゃんに会えないのは寂しいよ。A組(みんな)と離れるのは、寂しい」
「っ、強子さん・・・!」
1年A組に属する20人―――どいつもこいつも一筋縄ではいかない連中で、彼らにはいつもいつも苦悩させられてるけど・・・やっぱり強子は彼らが大好きで、彼らと過ごす時間は、強子にとって宝物で。
大好きな皆と、いつまでも一緒にいたいとすら、思う。
「でもね―――私は、インターンに行かないと駄目なんだ。インターンで、やらないといけない事がある」
固い決意をもって告げる。
そんな強子を不思議そうに見つめる八百万から離れ、彼女に笑顔を向けた。
「百ちゃんも、今はインターンより優先すべきことがあると思ったから、インターンに行かないんでしょう?私たちは、やるべきことも やりたいことも、それぞれ違うから・・・いつも一緒ってわけにはいかないよね」
「・・・ええ、その通りですわね」
相変わらず寂しそうな様子だけど、納得したように頷く八百万。
そんな彼女を見ていて、はたと思い付く。
「でもさ―――お互いにやりたいことをやって・・・あとで、お互いに学んだことを報告しあうってのも、有意義だと思わない?」
「!」
強子の言葉に、八百万がぱちりと目を見開く。同時に、他の女子たちも一斉に反応した。
「それ、いいね!」
「インターン組は、インターンで学んだことを居残り組に共有して・・・」
「居残り組は、インターン組が公欠のときに学校で学んだことを共有する、ってことだよね!」
「うんうん!インターン組のお土産話、楽しみだなぁ!!」
先ほどまでのしんみりした空気が嘘のように、女子たちがきゃっきゃとハシャぐ中、八百万が控えめに口を開いた。
「・・・先ほどは、幼稚な我が儘を言って、すみませんでした。その・・・くれぐれも、気をつけて行ってきてくださいね。お怪我などなさらないように・・・」
寂しそうに、けれど、先ほどよりも明るい表情の八百万に、強子はニッと笑ってみせた。
「大丈夫、心配しないで!百ちゃんも知ってるでしょ?圧縮訓練で磨いてきた―――私の“新ワザ”を!!」
「え、ええ・・・そうですわね」
自信満々な強子に気圧された八百万だったが、物言いたげな表情で「ですが、」と言いかけたところで、
「身能、盛り上がってるとこ悪ィけど・・・ちょっと話いいか?」
女子が占領する談話スペースに切島がやってきて、神妙な様子で切り出した。
きゃっきゃと話し込んでいた女子たちは何だろうかと口を閉じ・・・芦戸がハッとしたように口元を押さえた。
「もしかして・・・告白!?」
「ばっ、ちげェよ!!」
赤い顔で、即座に否定した切島。
うん、まあ、違うだろう・・・。芦戸はどこまでも恋愛脳だなと、呆れを通り越して感心する。
おそらくは、インターンが決まったことを伝えに来たのだろうけど・・・切島はその場で話す気がないらしく、強子を寮の外まで連れ出した。
そして、強子は、彼から思ってもみなかった言葉を聞く―――
「―――・・・え?」
笑顔のまま、キョトン、と切島を見つめる。
「今・・・なんて?」
強子の目の前では、拝むように両手を合わせ、切島が頭を下げていた。
「だからっ・・・俺もインターンさせてもらえるよう、身能からファットガムに頼んでもらえねーか!?」
顔をあげた切島は、必死な形相で強子に懇願する。
「身能は明日からインターンに行くんだろ!?ファットガムに会ったら、インターン生をもう一人受け入れてもらえないか、聞いてみてくれよ!!」
と、いうことは―――
「(まだ、インターン先が決まってなかったの!?)」
サァッと血の気が引いていく。
今年の1年生のインターンは、どこの事務所も等しく、今週末から解禁となっている。つまり、強子も麗日も蛙吹も緑谷も常闇も・・・みんな、明日がインターン初日だ。
だというのに、
「(なんで・・・切島くんだけ、インターンが未だに決まってないんだよ!?)」
もう、前日の夜だぞ!?
原作でも、切島のインターン先が決まるタイミングってこんなに遅かったんだろうか?
・・・いや、そうじゃない。
だって、切島のデビュー戦は、麗日たちと同時期のはずなのに―――彼のインターン参加を強子からファットガムに頼むとなると、彼のデビューのタイミングは、確実に麗日たちより遅れてしまう。
「(ちょっと、コレ・・・原作と、話が違くないか!?)」
だとするなら、非常に困ったことになる。
なにせ、切島のデビュー戦では・・・彼の活躍のおかげで、“あの案件”に関わる重要なヒントを得られるのだから。
彼の活躍なくしては、ヒーローや警察が“死穢八斎會”の企みを暴くことなど出来ない可能性もある。
「頼む、身能!職場体験先(フォースカインドさん)はインターンを受け付けてねえし、インターン実績がある事務所といわれても・・・俺にはツテがねえ。それでも俺はっ、もっと経験つんで、もっと・・・もっと、強くなりてェんだよっ!!」
切島の本気の想いが伝わってきて、ハッとする。
もちろん強子も、彼にはファットガム事務所でインターンをしてほしいと思っている。むしろ、この先のことを考えると、彼に来てもらわないと困るのだ。
だが・・・そもそも、彼がそれを強子に頼むのは 何故?
「えっと、切島くん・・・まずは環先輩に頼んでみたら?私はまだ正式なインターン生じゃないし、私より先輩を通したほうが、話は早いと思うよ」
原作では そうしてたんだから。
うん・・・それがいい。それに今から頼み込めば、まだ間に合うかもしれない。明日、強子と同じタイミングで事務所に連れていってもらえる可能性はまだある。
あの天喰ならば、切島が強く頼めば断らない(断れない)だろうし!
「・・・天喰先輩には、もう頼んだよ。でも―――断られちまった」
「えっ!?」
予想していなかった返答に、再び強子は混乱した。
「環先輩に、断られた・・・?」
「ああ」
「本当に?えぇ・・・ちゃんと頼みこんだの?簡単に引き下がったりしてないよね?」
「先輩に迷惑がられるくらい、何度も何度も頼んでみたよ。俺だって、そう簡単には引き下がれねえし。それでも、絶対に駄目だって 先輩の意思は変わらなかったから・・・こうして身能に頼んでんだ」
切島は、打ちひしがれたような様子でそう語った。
「(いったい・・・どういうこと?)」
天喰が、切島のインターン受け入れを断った?何度もしつこく頼み込んでくる切島を、あの天喰が、突っぱねたのか?
だとしたら・・・強子の知る物語とは、ちょっと違うような・・・?
それにしても、だ。
「(なに、してくれてんだ・・・あの男はっ)」
強子は深いため息とともに、片手をおでこに当ててうなだれた。
この重要人物のインターン受け入れを、拒否するなんて!
“あの案件”での活躍を抜きにしたって、切島という、熱い漢気ヒーローをみすみす逃すだなんて、ヒーロー事務所としても痛手だろ!?
まるで身内が粗相をしたかのように 肩身を狭く感じながら、強子は切島を見やった。
「切島くんがファットさんのところでインターンするのには、私も賛成だよ」
「本当か!?じゃあ・・・!」
「うん。とりあえず、ちょっと・・・環先輩のとこに行ってくるわ」
「え?・・・って オイ、身能!!?」
言うやいなや目を鋭くさせた強子は、切島を置き去りに、目にも止まらぬスピードで駆けて行った。
「ちょっと、先パアァイ!?」
3年生の学生寮に、強子の怒声が響きわたる。
天喰の部屋の前で仁王立ちする強子は、部屋から天喰が出てくるなり、その怒声とともに、自分より目線が高い彼を睨むように見上げた。
「っ!!?っな、なんで、ここに、身能さんがっ・・・!?」
予期せぬ強子の来訪に、天喰は驚きのあまり目を瞬いている。
天喰が驚くのも無理はない・・・いくら親しい仲とはいえ、彼の部屋が何号室かも知らない強子が急に部屋を訪ねてくるなどと、彼は夢にも思わなかったはず。
けれど・・・3年生の寮に来た強子が「天喰に会いにきた」と一言いえば、彼のクラスメイトたちはワクワクと楽しげな様子で、ご親切に、彼の部屋まで案内してくれたのだ。
そうとは知らぬ天喰は、天変地異でも起きたかのような慌てぶりで部屋の中へ戻ろうとする。が、
「逃がすかッ!!」
「ぐっ!!?」
瞬時に彼の後ろ襟を掴んで、廊下へと引きずり出す。
そして、すかさず彼の部屋の扉を叩きつけるようにバタンと閉め、彼の退路を断った。
「さて、先輩・・・説明してもらいましょうか?」
強子はずずいと身を乗りだすと、険しい顔つきで天喰を問いただす。
「どうして、切島くんの頼みを断ったんですか!!?」
まったくもって、理解できない。
だって、こんなの、強子の知ってる物語にはない展開だ!
「ファットガム事務所でインターンしたいから紹介してくれって、切島くんからお願いされたんですよね!?どうして断っちゃうんですか!!」
だいたい、いつもなら 切島みたいな押しの強いタイプには抗えず、言われるがままに甘んじるようなナヨい天喰なのに・・・いったいどういう風の吹きまわしで、切島を突っぱねたというのか。
「切島くんみたいな 将来有望な人材を受け入れないなんて、事務所にとって大損失ですよ!?彼は、先輩とはタイプが全然違いますけど・・・すごいヤツなんですから!明るくて、前向きで・・・カッコいい“漢”なんです!きっとファットさんなら、切島くんに会えば、彼をインターン採用するって言うに決まっ「身能さんは、」・・・はい?」
キョトンとして天喰を見つめる。
彼が強子の話を遮って話をするなんて、めずらしい。いや、初めてのことかもしれない・・・強子のほうが彼の言葉を遮ることなら、多々あるけど。
天喰にしてはめずらしい行動に虚をつかれていると、
「身能さんは・・・どうしてそこまで、彼に味方するんだ?」
天喰を問いつめていたはずが、逆に彼から質問を返され、ぱちくりと目を瞬いた。
「もしかして・・・」
彼はジトリと、強子に探るような視線を向けた。
「身能さんは・・・切島くんのことが・・・好き、なのか・・・?」
「!?」
天喰の口から出てきた意外な話題に驚き、思考がとまった。この人は、急に何を言い出すんだろう。天喰って、案外・・・恋愛脳なのかもしれない。
強子が固まっていると、天喰は苦渋の表情を浮かべた。
「・・・正直に言うと、俺は・・・彼を、ファットガム事務所に紹介したくない」
「どっ、どうしてですか!?」
強子がズイと詰め寄って問えば、ぎょっとした彼は後ろにのけぞり、後頭部を思いきりぶつけた。痛そうに顔を歪める彼をじっと見つめて答えを待っていると、やがて彼が口を開いた。
「・・・・・・彼をインターン採用することで、ファットガム事務所が得られるメリットがない・・・と、思う」
少し申し訳なさそうに、視線を落とす天喰。
「ファットガム事務所のサイドキックは、現状で十分に足りている・・・以前に、武闘派のサイドキックが欲しいなんて話も 出たには出たが・・・今はもう、うちには身能さんがいるから」
「え、」
「これからは、事務所所属のインターン生が俺と身能さんの二人に増えるわけだけど・・・インターン生の指導をファット一人で担うとなると、面倒を見れるのはせいぜい二人が限界だろう。切島くんも含め、三人同時に目をかけるというのは、あまり現実的じゃない」
くどくどと語られる否定的な意見に、目を見張る。
だって、彼が語ることは、要するに・・・“強子のせい”で、切島がインターンに採用してもらえないということじゃないか。
「(おいおい、なんだよ!こんなの聞いてないよ!!)」
冗談じゃない。強子のせいで切島がインターンに行けないなんて、そんな話あってたまるか!
強子は、切島がインターンで立派に活躍する未来を知っているが・・・その活躍は、彼にしかできないことなんだよ。強子じゃ、彼の代わりは果たせない。
「君の言うように、切島くんは凄いヒーローなのかもしれない。けど・・・彼がどんなに凄くたって、身能さんには及ばないだろうし・・・」
もじもじと落ち着きない天喰が、顔を火照らせ、ゴニョゴニョと喋る。
「・・・お、俺は・・・身能さんがいれば、それで十分、だから・・・」
まるで、恋する乙女かのように頬を赤らめる天喰。
だが・・・可愛くない、可愛くないぞ。そんな態度には、ときめかない。今、強子が求めている言葉は、そうじゃないんだ。
「これ以上なんて、望まない。身能さんがいてくれるなら、サイドキックを増やす必要なんか「何を言ってるんですか!そんなの、駄目です!!!」
彼の言葉をかき消すほどの大声で、キッパリと言い張る。
切島がファットガム事務所に行けないなんてこと、あってはならない。絶対に駄目だ!!
「事務所にメリットがあるかなんて、そんなの、やってみないとわかりませんよね?先輩が決めることじゃないでしょう!」
「うっ・・・」
叱るような口調で彼の話に異を唱えれば、彼はびくりと肩を震わせた。
「いいですか、先輩―――私が切島くんを好きか、なんて・・・そんなの当然っ、“好き”に決まってますよ!」
「ッ!!?」
言った瞬間、天喰があんぐりと口を開けて強子を凝視した。まるで世界の終わりを見たような絶望顔をする天喰。
いや・・・なんなの、その反応?
彼の態度を奇妙に思いながらも、強子は、いかに切島がすばらしいヒーロー(の卵)であるか、どうにかわかってもらおうと言葉を紡いでいく。
「切島くんは、ヒーローになるべくしてなるような人です!根っからのイイ奴で、アツい男で、かっこよくて、でも年相応のかわいい一面もあって・・・とにかく凄い奴なんです!」
彼を知る人なら、きっと誰もが、彼に好感を抱いているにちがいない。彼を嫌う要素なんかあるわけない。
対敵したヴィランでさえも、彼を認め、彼を気に入ることだろう。
「切島くんのことが好きです、大好きです」
「っ、」
「信頼できる人だし、尊敬もしてます」
「・・・っ」
「同時に――― 度し難いほどに厄介で、持て余しるんです」
「・・・・・・ん?何・・・?」
好意的な言葉が続いていたのに、唐突な“厄介”発言に、天喰が混乱する。
「切島くんの実力は 私にも引けをとらない・・・優劣つけがたいもんです。私はいつだって彼をズタボロに負かしてやるつもりで競ってるんですけど、彼の純真さには、どうにも毒気を抜かれるというか・・・まったく、侮れないライバルですよ・・・」
「ら、ライバル・・・?」
「そう、彼は私にとって 大好きな友人であり、恨めしいライバルでもある。総じて言うと、切島くんは―――かけがえのない、大切なクラスメイトってことです!」
そう・・・彼は、強子が常日頃から必死に競っている“猛者達”の一人。
どいつもこいつも一筋縄ではいかないし、いつもいつも苦悩させてくる連中だけど・・・強子が愛してやまない、A組20人の猛者―――そのうちの一人が 彼だ。
「・・・彼が、大切なクラスメイトだから・・・身能さんは彼に味方するのか?」
「もちろん、それもありますけど・・・」
「?」
ニッコリと最上級の笑顔を浮かべると、強子は天喰と目を合わせる。
「ファットガム事務所は 私にとって大切な場所です。ファットさんも、環先輩も、私にとって大切な人だから―――だから二人に、切島くん(大切なクラスメイト)のことを知ってほしいと思ったんです」
ファットガムも、天喰も、切島も・・・みんな、強子にとって大切で、自慢の、大好きな人たち。
だから、単純に・・・自分の好きな人たちどうし、仲良くしてるところを見たいと望んだ。
もとより強子は、原作で見ていたときから、彼ら“3人の”組み合わせが好きだった。誰か一人でも欠けては物足りない。
「身能さん・・・」
天喰は、どこか誇らしげな顔で強子を見つめている。
サイドキックはこれ以上いらない なんて言う彼だけど、原作では切島を太陽のようだと誉め、ずいぶんと気に入っていたはずなんだ。
ファットガムだって、切島の漢気を認め、かなり可愛がっていたと記憶している。
原作(強子のいない世界)では・・・切島こそが、ファットガム事務所の愛弟子のような位置付けにいた。
「・・・まぁ、でも?」
強子が、笑顔をニヤリと歪ませる。
「切島くんが相手だって、ファットガム事務所の愛弟子の座はそう簡単には譲れません!私がいかに可愛がられてるか、知らしめてくれるわ・・・!」
「・・・身能さん」
驚き半分、呆れ半分といった表情で自分を見つめる天喰に、強子はさらに付け加えた。
「そんでもって 切島くんに自慢してやるんです―――私の大好きな、最高のサイドキックの存在を!私たちが相性最高の名コンビだってところを、彼に見せつけてやりましょう!!」
その後―――
天喰はすんなりと意見を変えて、切島をファットガム事務所に紹介し・・・切島もインターンに行くことが決定したのだった。
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しばらく更新が滞ってる間に、アニメ5期の放送開始日の情報が・・・!5期放送前までに、4期のインターン編まで書き終えられるかな・・・(焦)
そして4期は・・・重たいです。テーマが。そのせいか、いつもより筆が重いような気がしてます(言い訳)
そんなわけで、今回はほのぼの日常回のはずなのに、タイトルがご覧の通り、パワーワードとなってしまいました。こわいですねー。
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