知らないを知る

職場体験、当日―――
今日から強子は職場体験をするべく、ファットガム事務所に行くことになっている。


「いやぁ・・・ワクワクするなぁ!」


ファットガムは、関西を拠点に活躍している武闘派ヒーローだ。毎年チャートには彼の名がのっているし、彼のこれまでの功績は素晴らしいものばかり。強子がずっと憧れていたヒーローである。彼のもとで職場体験できるなんて、もう、ワクワクがとまらない。
それに・・・ファットガムに直接会ったことはないけれど、マスコミへの対応やネットなどの評判を見ても、彼はとてもいい人なのだとわかる。きっと、一学生の強子に対しても、真摯に応じてくれるはずだ。ないがしろに扱われるなんてことはまず無いだろう。

そして、彼のところで現在インターンを行っている天喰 環は、その経験を糧に、雄英のトップに君臨する3人――通称“ビッグ3”と呼ばれるほどの実力者に成長したのだと聞く。
とはいえ・・・天喰のことは、学校の食堂などで見たことはあっても、話したことはないので、人づてに耳にする程度でしか、強子は彼のことを知らない。
彼に対して“気の弱い人”という印象を強子は持っているが、それは一方で、弱者の気持ちを理解できる“優しい人”なのだとも思う。
きっと彼なら、強子という後輩に対して、優しく接してくれるのだろう。職場体験中に彼と会えるという確証はないけれど・・・この職場体験を機に、是非とも彼とお近づきになりたいものだ。


「(他クラスの友だちは増えたけど、他学年にも知り合いは欲しいもんね!)」


その天喰が、ファットガムのところでどんな訓練を受けて、どんな経験を経てそこまで強くなったのかは不明瞭だけど・・・ファットガム事務所に行けば、強子も、天喰のように成長できるに違いないと胸を高鳴らせた。


「全員コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」

「「はーい!」」


駅の一角で集まる1−Aの生徒に向けた相澤の言葉に、コスチュームの入っているケースを抱えた強子は、芦戸と共ににこやかに返事をした。だが、


「伸ばすな!“はい”だ」

「「・・・はい」」


元気よく返した強子と芦戸の二人が注意されてしまい、二人してしょんぼりしながら唇を尖らせる。
まったく・・・隙あらばという相澤の手厳しい指導には、ぐうの音も出ないよ。


「くれぐれも、体験先のヒーローに失礼のないように!じゃあ行け」


コスチュームケースを抱え直していると、耳郎と八百万が強子に声をかけた。


「強子は関西方面だよね」

「そう、大阪だよ」

「ヤオモモも方向が違うし、みんなバラバラか・・・」


強子はファットガム事務所。
八百万は、やはりウワバミの事務所に行くことに決めたらしい。
そして耳郎は、意外なチョイスで、パンチングヒーロー“デステゴロ”の事務所に行くことになった。
みんな活動地域がバラバラなので、強子たちはここで一旦お別れだ。


「学校とは異なり、親しい友人や頼れる先生方もおらず、慣れない環境下で過ごす・・・これも、私たちの成長を促すための試練なのだと思いますわ!」

「乗り越えなきゃいけない壁ってヤツだね!」

「ほんと雄英(うち)って、そういうのばっか・・・」


マジメに職場体験の意義を説いている八百万と、呆れ半分にため息をこぼす耳郎。
いつもと変わらない、二人とのやり取りに笑みをこぼしていると、八百万が強子の正面にズイと立ちふさがった。


「?」

「いいですか、強子さん!相澤先生もおっしゃってましたが・・・体験先のプロヒーローの方々に、決して!ご迷惑をおかけしてはいけませんからね!」

「・・・いや、しないけど!?」


強子の肩を掴み、真剣な表情で言い聞かせてくる八百万に、強子は顔を引きつらせた。どれだけ強子は信用がないんだ!


「それから、他事務所の方々の言うことも聞くんですよ!?」

「当たり前だよ!」

「諸先輩方と意見が対立するようなことがあっても・・・感情のまま、たて突くような事は駄目ですからね!?」

「だから、さすがの私も、プロの現場でそれはしないってば・・・!」

「ですがっ・・・心配ですわ!体験先では、誰も強子さんのフォローをしてくれるクラスメイトはいないのですから!!」


過保護モードの八百万に、強子も耳郎も苦笑をこぼす。彼女の強子に対する心配性も、相変わらずだ。
しかし―――ちらりと、1−Aの集団から遠ざかっていく飯田の後ろ姿を強子は視界に入れた。
インゲニウムがヒーロー殺しに襲われて以降、飯田が過保護モードで強子に構うことは、一度もなかった。なんてことない普通の会話すら、まともにしていない気がする。
ここのところずっと、何かを抱え込んだような顔で・・・強子のことも含め、周りなんて見えちゃいないようだった。


「(どうか、無事で・・・)」


強子と同じく、飯田の後ろ姿を見送っている――緑谷と轟。
彼らを一瞥してから、強子も自分の荷物を手にとる。そろそろ出発しないといけない時間だ。
飯田の件・・・強子に出来ることは、何もない。
強子は、ステインと衝突する未来を避けた身だ。だから、勝手だけれど・・・緑谷と轟に託させてもらう。ステインなんか、お前ら三人でぶっ飛ばしてやれ。
そして、お互いに成長した姿で、また学校で会おう。


「強子さんっ!ハンカチは持ちましたか!?ティッシュは!?忘れものがあれば今すぐ私が創造して・・・」

「それ(過保護モード)まだ続いてたの!?」


シリアスなシーンが台無しだよ、百ちゃん。










新幹線で新大阪駅に着いて、そこからさらに電車に乗り継ぐ。電車を降りて、賑わう街中を歩いていくと、大通りに面したところに、ファットガムをモチーフにした可愛らしいビルが建っている。そこが、ファットガム事務所だ。


「(うう・・・緊張するっ!)」


いざプロの事務所に足を踏み入れるとなると、やはり緊張する。
強子の格好、変じゃない?今このタイミングで入っていいの?っていうか入ったら、なんて挨拶するのが好印象!?
そんなことをうだうだと悩み、事務所の前をうろうろしていたら、通行人たちから視線が集まってしまった。このままでは不審者として通報されかねない。


「(ええい、ままよッ!)」


覚悟を決め、強子は、事務所のドアを両手で力いっぱい押し開けた。気分はまるで、いざ敵陣に乗り込まんとする、道場破りだ。


「あのっ・・・!」


言葉を発した瞬間、「パーンッ!」という大きな音が鳴り、強子はびくりと身体を震わせ、固まった。
え、なに・・・?何の音!?
混乱する強子の視界に、ひらひらと細かな色紙が舞い散っている。その紙吹雪の向こうには、縦にも横にも大きい、丸みをおびたフォルムの男が立っていて―――強子に向けて、紙製の筒のようなものを持っていた。


「(なんで・・・クラッカー?)」


憧れのプロヒーロー“ファットガム”が、パーティークラッカーを自分に向けて鳴らしているという理解しがたい現状に・・・強子がぽかんと呆けていると、ファットガムがニッコリと笑って、小声で「せーのっ」と呟いた。


「ようこそ、ファットガム事務所へ!!」

「(え?今・・・“せーの”って言ったよね?なんで!?)」


相変わらず理解できない現状に、ことさら混乱した強子が固まっていると・・・ファットガムがくるんと方向転換し、ニッコリ顔を険しい顔つきに変えたかと思えば、くわっと声を張り上げた。


「コラぁ!環ィ!!身能さん来たら二人同時にクラッカー鳴らす作戦やろ!?ほいで“せーの”の合図で、“ようこそファットガム事務所へ”って声揃えようなって、言うたやん!!何でせえへんの!?」


ファットガムの視線の先を追うと・・・壁に、まるでセミの抜け殻のように張り付いている、天喰の存在に気がついた。
天喰は壁に向けていた目をちらりと強子の方に向けた―――かと思うと、再び彼は壁を見つめ、ぼそぼそと言葉をもらした。


「・・・俺はやらないって何度も言ったのに、ファットが聞く耳もたないから・・・」

「環がノってくれんと、俺ひとりハシャいで変な奴やて思われてまうやろ!!ほら見てみィ!?身能さん、えらいビックリしとるで!もうこれ完全にツカミから失敗やない!?どないすんねん この空気!」

「・・・驚いてるんじゃなく引いてるんだ、ファットのノリに」

「うっ、嘘やん!!?」


ファットガムの怒涛のツッコミを目の当たりにした強子は、状況がわからないながらも、とりあえず・・・関西のノリってスゲェと圧倒されていた。ある意味、ツカミはバッチリであった。







「えーッゴホン、それでは改めまして・・・」


事務所の中へ通してもらって、ファットと向い合わせに座り、ようやく落ち着いて会話ができそうだと強子はホッとする。
ファットガムは腕をパッと広げてファニーなポーズをとると、強子に向けてバチコンとウインクした。


「ファットガムです!よろしくね!」

「・・・カワイイ」

「ホンマ!?よっしゃ、アメちゃんやろーな!」


これからお世話になるプロヒーローに“カワイイ”だなんて、うっかり口を滑らせてしまったが・・・幸いにもファットガムは上機嫌に、アメちゃんを強子へと差し出した。
それをありがたく頂戴してから、強子も姿勢を正して、笑顔で口を開く。


「私は、雄英高校から来ました、身能 強子と申します!職場体験を通してたくさんのことを学ばせて頂きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!!」

「ウンウン!きちんと挨拶できてエライなぁ!環も見習うんやで!?」

「・・・帰りたい」


向かいあって椅子に座る強子とファットガムとは違い、未だに壁に頭をこすりつけるように立っている天喰に、強子は失笑する。
前情報として、彼はかなりの小心者で、ヘボメンタルなんだと知ってはいたが、こうして実物と会ってみると、思った以上に人見知りが激しいというか・・・取っつきにくそうな人である。


「しっかし、身能さん・・・よくウチに来てくれたなぁ」

「え、」

「体育祭みたで!身能さんなら、もっとチャート上位のヒーローからも指名きてたんとちゃう?気合い入れて身能さんに指名したものの、ウチには来えへんやろと思とったわ。なんでウチに来てくれたん?」


ニコニコと強子を見てくるファットガムから問われ、強子はわずかに頬を上気させると、目線を泳がせた。
雄英の教師陣の前で言った通り、いろいろと理由はあるけど・・・


「やっぱり、一番の理由は・・・その、私がファットガムのファンだから、ですかね・・・」

「ッファー!!」

「!?」


唐突に叫び声をあげたファットガムに、強子は目を見開いて凝視した。壁際から「・・・騒がしい」と迷惑そうに呟く声が聞こえてきた。


「あー・・・アカン、アカンわ。嬉しすぎて激情が抑えられんかった・・・あ、驚かしてもうた?堪忍な〜」

「い、いえ・・・!」


どうやら先ほどの奇声は、激情に駆られたために、発せられたらしい。
驚いたけど、彼は嬉しいとかなんとか言ってたし、ネガティブな反応ではなさそうだ。そう深く考えずとも問題ないだろう。
強子は気持ちを切り替ると、ファットガムから天喰へと向き直り、人好きのする笑顔を見せた。


「それに私、天喰先輩とも、お話したかったんですよ!雄英のビッグ3と呼ばれるほどの実力者と、同じ事務所で学ぶことができるなんて、光栄です!ここでお会いしたのもご縁ですし、仲良くしてくださいねっ」


きらきらと、いつもより輝きマシマシの笑顔。
強子のこの渾身のキメ顔で、理想的な可愛い後輩アピール――これならさすがの天喰も、後輩を可愛がりたくなっちゃうはずだ。そっちの壁ではなく、強子の方に近寄ってくれてもいいのよ?
彼の警戒心を解くよう笑顔を保っていると、天喰は三白眼の瞳で強子を一瞥し、


「・・・・・・はぁ」


気乗りしない様子で答える か細い声が、かろうじて強子の耳に届いた。
かと思えば、次の瞬間には天喰はまた壁と見つめ合っていた。先ほど聞こえた声は幻聴だったのかと疑ってしまうほどの瞬時だった。


「(あ、あら・・・?)」


その、思っていたのとは違う反応に、強子の笑顔が固まった。
頭の上に疑問符を浮かべていると、ファットガムが楽しそうに笑い声をあげた。


「仲ようなれたみたいやな!いやァ良かった良かった!」

「(これは・・・仲よくなれた、のか・・・?)」

「身能さんも環も、二人とも俺が指名したサイドキック同士なんやし・・・やっぱ二人には仲良うしてもらわんとなァ!みんなで仲良くしようやーッ!」


そう言うと、ファットはまた両手をパッと広げ、可愛らしいポーズをとった。
・・・ああ、あの柔らか豊満ボディに、抱きつきたい。
そんな欲求を抱えてじっとファットガムに熱視線を送る強子だったが、はたと彼の言葉に、聞きたいことがあったのを思い出した。


「あのっ!聞きたいことがあるんですけど!」

「ええよ!何でも聞いて!」

「どうして・・・私を指名してくださったんですか!?」


オファーのリストで彼の名前を見た瞬間から、ここに来るまでの間・・・ずっと、考えていた。
ファットガムが、なぜ強子を指名したのか。ファットガムが指名する雄英生の基準はなんなのか。だって、以前に彼が指名したという天喰は、個性も、見た目も、性格も・・・強子とは似ても似つかないし。
相澤は、強子を指名したヒーローのうち9割は、“オールマイトに期待されている”から強子を指名したのだと言っていたが・・・。


「・・・やっぱり、ファットガムも、私がオールマイトに期待されていると思ったから・・・」

「ああ!チャウチャウ!!オールマイトは関係あらへんっ」


顔の前で手をパタパタと振り、否定の意を示すファットガム。
その反応に強子はほっと胸を撫でおろしたが―――しかし、それならば、彼が強子を指名した理由はなんだろうかと、再び勘繰る。


「身能さんを指名した理由なんて・・・そんなん、決まっとるで!」


不安げに瞳を揺らす強子の肩にポンと手を置くと、ファットガムはニカッと快活な笑みを浮かべた。


「俺が・・・君のファンやから!!」

「!?」


ファットガムが、強子のファン?
・・・逆ではなくて?確かに強子はファットガムのファンだけれども。
意表をつかれて言葉を失う強子に、ファットガムは上機嫌に語った。


「まあ、実を言うとな・・・体育祭の――身能さんがスタジアムに入場するとこ見た瞬間からもう、ファンやってん!」

「えっ?そこから!?」

「だってなァ・・・めっっっちゃカワイイ子が、あんっなキラキラオーラ振りまいて、シュッとした佇まいでっ・・・もうなァ、ずるいで?ホンマ!あんなん惚れん男おらんやろ!?なァ、環!」

「・・・人によるでしょう それは」

「(えーと、つまりは、見た目なのか・・・)」


べた褒めしてくれるファットガムの言葉はもちろん嬉しいが・・・若干、複雑な気持ちになった。
それと、ファットガムに話をふられた天喰が、賛同しかねるというような渋い顔をしていたのも気になった。なんだよ・・・ファットガムの言葉のどこに賛同できない部分があった?そんなの無いよな!?


「―――せやけど、そのカワイイ容姿からは想像つかんほど・・・競技に臨む身能さんは、格好良かった!!」

「!」


予期せず続いたファットガムの言葉に、目を見開く。


「負けん気ィ強くて、スポーツマンシップに則って、どエライ根性で戦う、漢らしい姿・・・あんなん見せられて、ファンにならん奴はおらん!!個性もごりっごりパワータイプで、身能さんにぴったりの華々しさがあるしな!」

「(ファーッ!!)」


あまりに嬉しい言葉をいただけて、強子は脳内で盛大に叫び声をあげた。
こうもストレートに褒められること自体がもう至福なのだが、その上、褒めてくれているのが、憧れのヒーローだなんて・・・!


「それに、ウチは武闘派のヒーローが欲しかったんや!ここらはチンピラやチーマーやらのイザコザも多いし、最近は人攫いのヴィラン集団なんつーもんも出てきてなァ・・・ホンマ、身能さん適材やでェ!」


そうまで言ってもらっては・・・なんとしても、この期待に応えるしかない。
ファットガムがこんなにも“強子自身”を見て、可能性を見い出し、期待して、求めてくれているのだ・・・!
元より楽しみで仕方なかった職場体験だが―――これは思っていた以上に、充実した一週間を過ごせそうだと、強子は胸を弾ませた。


「せや、俺も身能さんに聞きたいことあるんやけど・・・」

「何でしょうか?」

「身能さんの個性って、戦闘中 どう使うてんの?それ・・・」

「?」


ファットガムの質問の意図がつかめず、頭上に疑問符を浮かべた。
現代の人々にとって『個性』は、身体機能の一部である。どう使うもなにも・・・感覚的なものなので、言語化が難しいのだが。
あえて説明するとすれば、


「力をしぼり出して・・・殴る、蹴る」


以上だ。


「ブフォッ・・・説明の仕方までシンプルで漢らしィな!!」


吹き出し、肩を揺らして笑ったファットガム。
しかし、彼の思っていた解答ではなかったらしく「そやなくて・・・」と彼は自身の顎に手をあてて、慎重に言葉を紡いだ。


「んー、身能さんの説明を聞くかぎり、筋力を『強化』して戦ってる感じなんやろなぁ・・・見た目はマッチョやないし、筋肉を増幅しとるわけでもないし・・・筋肉繊維のパワー出力を『強化』しとるんか・・・?」


ファットガムの言葉に、強子は曖昧な笑みを浮かべると、こてんと首を傾げた。


「えっと・・・多分、そうかと・・・」


いかんせん感覚的に『個性』を使っているため、自信をもって答えられない。
けれど、言われてみれば、強子は『個性』を使う際、身体(筋肉)に意識を巡らせていたように思う。
強子は、『個性』を筋肉に作用させることで、怪力パワーを発揮できるようになっているんだろう。


「ほんなら―――ジブン、筋肉以外も『強化』できるんちゃう?」

「え・・・?」


ファットガムの言っている意味を理解できず、強子は目を点にした。


「体育祭で身能さんの戦うとこ見て、ずっと気になっててん。身能さんの『身体強化』なら・・・筋肉以外の“身体”も『強化』できるんちゃう?ってな。例えばやけど、聴覚、嗅覚、視覚やら動体視力・・・そないな“身体機能”も『強化』できるゆうたら、出来ることの幅、めっちゃ広がると思わん!?」


強子は口が半開きのまま、コクコクと首を縦にふる。
目から鱗だった。
ファットガムのその発想は、今までの強子の人生の中で、一度も思い至らなかったものだ。

もし、それが可能だとすれば・・・かなり、凄いことだ。

聴覚の強化で―――耳郎や障子のように、優れた索敵能力を発揮できる。
嗅覚の強化も同様―――生活指導担当のハウンドドッグのように、匂いによる索敵が可能となる。
視覚を強化すれば―――サポート科の発目のように、遠く離れたものも視認することができるだろう。
動体視力を強化できれば―――スピードのある攻撃をも避けられるはず。

そんなふうに『個性』を使えたなら、対ヴィラン戦においても、災害レスキューにおいても・・・非常に有用に違いない。
強子の“優良個性”は、もはや“万能個性”に化けるだろう。


「俺の『脂肪吸着』はな、何でも“吸着”して沈められんねん。せやけど、それだけやなくて、個性をより強くするために・・・個性を応用させて、個性の使い方の幅を広げたんや!せやから、沈めた衝撃を逆に“放出”するっちゅう、必殺のカウンター技があんねんで!―――ええか!?個性を強くしたけりゃ“工夫する”!“ひねり出す”!“練り上げる”!に、エトセトラ!!シンプルな強さっちゅーのも格好ええけどな、一芸だけじゃプロヒーローは務まらんでェ!」


見た目は可愛らしくても、さすがはチャートにのる程のプロヒーロー。彼の言葉には、とてつもない説得力があった。
きっと彼自身も、個性を強くするため、これまでに数々の努力と経験を積み重ねてきたのだろう。


「でも・・・そんなことって、できるのかな・・・?」


筋肉以外の身体機能を、強化する。
そんな『個性』の使い方、強子は知らない。今まで考えもしなかった『個性』の使い方だ。幼い頃からずっと実践してきた『個性』とは、かけ離れている。
眉根を寄せ、怪訝な表情をした強子は、口元に手を置いて逡巡する。


「出来るかどうかは、やってみんと わからん!せやけど・・・やってみん限り、出来るモンも、一生 出来ひんままやで!!」

「!」


ファットガムにもっともな事を言われてドキリとすると、姿勢を正して、ファットガムを見つめた。
そうだった。やれるかどうか・・・なんて考えてたって、時間の無駄だ。やってみなきゃ、なにも始まらない。
ファットガムは前のめりに身を乗り出すと、気迫のこもった表情で言葉を続けた。


「ダメ元でも試してみるっちゅうなら、俺もトコトン身能さんに付き合うたる!さっきも言うたけど俺は身能さんのファンやし、身能さんの将来性にはごっつ期待しとんねん!身能さんがすごいヒーローになるための手助けやったら・・・なんぼでもやったるわ!」


強子はきゅっと口を一文字に結んで、その瞳を揺らした。
そうまで言ってもらっては・・・その期待に、なんとしても応えるしかないだろ!


「どや!試してみるか!?」


彼とて、もう強子の答えなど解っているだろうに。形ばかりの意思確認に、強子はギラリとその眼を光らせ、口を開いた。


「当然っ、お願いします!!」


その答えを聞くと、ファットガムは、二ッと不敵な笑みを見せた。


「この職場体験が終わる頃には―――今までの身能さんと、一線を画しとるでッ!!」










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関西弁むずかしいです。エセ関西弁で申し訳ない(土下座)
ネイティブの方、おかしい部分があったらコッソリ教えてください。



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