ヒーロー志望

―――冬休みはあっという間に過ぎ、始業。
怒涛の一年次も、気付けばもう・・・残り3ヶ月だ。


「明けましておめでとう、諸君!」


朝のHR、教壇に立った飯田が爽やかに告げる。


「今日の授業は実践報告会だ!冬休みの間に得た成果・課題等を共有する。さぁ皆、スーツを纏い グラウンドαへ!」


端的かつ明瞭な説明と キビキビとした指示出しを受ければ、どことなく浮ついていたクラスの雰囲気はキリリと締まり、目が冴えたような心地よい気分で立ち上がった。


「お前ら、いつまで喋って・・・」


相澤がいつものごとく苦言をもらしながら教室にやってきた頃には、クラスメイトたちは皆、すでにコスチュームを持って教室移動を始めていた。
かつてなくスムーズな進行でHRを終えたA組に相澤があっけにとられていると、飯田がにこやかに報告する。


「先生!本日の概要、今朝うかがった通りに伝達済みです!」


教師と連携をとってテキパキとクラスをまとめる姿は、なんとも学級委員長らしい。今まで空回りすることも多かった飯田だけど・・・きっと、この一週間のインターンで彼も多くを学んだに違いない。


「まっ、この一週間での成長という点では 私も負けてないけどね!」


自信満々にフフンと笑みを浮かべて髪をなびかせた強子に、連れたって更衣室に向かっていた八百万と耳郎がそれぞれ反応する。


「まあ!それは実践報告会が楽しみですわ!」

「内面(自信過剰なとこ)はちっとも変わってないみたいだけどね」


八百万からキラキラした眼差しを向けられるのも、耳郎から呆れの苦笑を向けられるのも、なんだかとっても懐かしい。
雄英というマイホームに帰ってきたのだと改めて実感していると、校内放送がかかった。


『―――相澤先生、職員室までお願いします』


それを耳にした強子がふと足を止めた。彼女の表情は神妙なものになり、心ここにあらずといった様子で固まっている。


「強子?」

「どうかなさいました?」

「・・・いや、なんでもないよ」


強子は二人にいつもの笑顔を向けると、足早に更衣室へと向かう。
そうしてコスチュームに着替えてからグラウンドαへとやって来れば、そこにいたのは担任ではなく、オールマイトであった。


「あれ?相澤先生は?」

「相澤くんは 本当今さっき、急用ができてしまってね・・・」


オールマイトの口から詳しくは語られなかったが―――原作の通りなら、相澤とプレゼント・マイクの二人は、塚内やグラントリノらに呼び出されて監獄タルタロスへと向かったはずだ。
強子はその展開を反芻しながら、人知れず不安げに顔色を曇らせた。


「(これで、計画通りに“事”が運ぶといいんだけど・・・)」












―――遡ること、数日前。


「まさか本当に、公安トップとの対談が実現するとはな・・・」


ヒーロー公安委員会、本部。その廊下を歩みながら どことなく気が重たそうに告げるエンデヴァーに、強子は「そうですか?」と無邪気な笑顔を返した。


「私には初めから 実現する未来しか見えてませんでしたよ」

「まったく・・・ふてぶてしいな、お前は」


根拠もなく自信満々な強子に、エンデヴァーは聞えよがしに溜め息を吐いた。
そして、とある部屋の前まで来るとぴたりと足を止める。


「この部屋で、公安のトップがお前を待っている」


案内された先は、ヒーロー公安委員会の委員長の部屋だった。
案内係と護衛を兼ねてここまでついてきてくれたエンデヴァーに礼を告げれば、彼は解せない顔つきで部屋の扉を睨みつけた。


「俺(NO.1)ですら数えるほどしか入ったことがないというのに、一介のヒーロー候補生ごときが入室するのは分不相応としか思えんが・・・公安も何を考えているのやら」

「それはやっぱり、私が“一介の”ヒーロー候補生にとどまらない存在だから、公安も無視できなかったんでしょうね」


臆するどころか、緊張感の欠片もなく飄々と笑顔で答える強子。その神経の図太さにエンデヴァーは僅かに感心しつつ、強子を見下ろして忠告する。


「公安と何を話すつもりか知らんが、せいぜいここでは立場をわきまえることだな」


用が済んだら連絡するよう強子に言いつけると、エンデヴァーはくるりと背を向けて去っていく。深く首を突っ込もうとしてこない彼に、強子は静かに感謝した。
そして、強子は目の前にある部屋の扉をノックする。中から「どうぞ」と促す声が聞こえ、部屋の中へと足を踏み入れた。


「・・・この度は、私の要望に応えてくださりありがとうございます」


部屋にいた人物に向け、強子はよそ行きの笑顔で丁寧に告げる。
部屋にいた一人は、委員長だ。彼女の顔ならビルボードチャート発表の場でも見ているので、間違いない。
それと もう一人は知らない顔だが・・・佇まいからしておそらくは公安の幹部の人間だろう。
確かに強子の要望どおり、公安の“トップ”にあたる人物たちのようだ。
強子が笑顔の裏で彼らの素性を推測していると、委員長が口を開いた。


「申し訳ないけれど、私たちがあなた一人のために割ける時間はそう長くないわ。あなたもエンデヴァーを待たせているのだし、お互いのためにも手短に済ませましょう」


公安の二人は、愛らしい笑顔を振りまく強子を前にしてもほだされることなく、ただ、氷のような冷たい瞳で、何を考えているのか読めない表情で強子を見据えている。
・・・食えない人たちだ。
ホークスも食えない男だと思ったけど、それ以上に 公安の上層部の奴らが食えない連中の集まりだったんだな。


「そうですね・・・回りくどいのは無しで、さっそく本題に入りましょう」


強子はフッと自嘲気味に笑みをこぼすと、二人に向かってツカツカと歩みを進めた。
彼らが強子に対して椅子に座るよう勧めもしない様子から、強子がいかに歓迎されていないか伝わってくる。
彼らが強子をここに呼んだのは、ホークスに言われて“仕方なく”か、あるいは、ホークスへの“義理立て”のようなものなんだろう。
だがまあ、キッカケは何だっていいさ・・・この者たちに、伝えるべきことを伝えられるのなら。
彼らの眼前まで歩みを進めると、強子は携えていた笑みを消して真剣な表情で言い放った。


「私は―――この先の“未来”を知っています」


普通なら、こんな話は荒唐無稽だと笑われるだろうな。
しかし・・・これを言えば、彼らは強子の話に真剣に耳を傾けるしかない。


「近いうち・・・公安や警察の指揮のもと、大勢のヒーローたちによる“超常解放戦線”の一斉掃討が行われますよね」


確信を持った様子で、強子はきっぱりと断言する。
これは、一介のヒーロー候補生が知るはずのない 機密情報だ。というか、トップヒーローたちですらまだ知らされていない極秘情報。
そもそも“超常解放戦線”という組織名も、ごく一部の人間にしか知らされていない。
強子の口から語られるはずのない情報に、公安の二人がぴたりと動きを止めた。


「綿密に作戦立てて一斉掃討に臨んだようですけど・・・ヒーロー側と“戦線”の全面戦争の結果は、あなた方が想定するより、はるかに悲惨なものになります」


真剣に聞き入る彼らに危機感を抱かせる。このままでは、日本はえらいことになるんだぞ。
強子は「そこで提案なのですが・・・」と続け、一呼吸おいてから口を開く。


「一斉掃討に向けた 作戦会議――そこに、“未来”を知る私を参加させてください。そうすれば、ヒーロー側と一般市民への被害を最小限におさえられます」


公安はホークスのおかげで敵陣営の構成員・配置を把握しているだろうけど・・・強子はさらに、作戦開始後に奴らがどう動くかまで把握している。
奴らを一網打尽にするにも、こちらの被害をおさえるにも、強子の持つ情報はこれ以上ないほど有益だろう。
だが・・・公安のトップともなると疑り深いもので、軽はずみに強子の提案に乗ってはくれない。


「未来を知っていると言ったけれど・・・それは、あなたの個性によって知り得たものかしら?」


委員長が強子に淡々と問う。
この世界じゃ 荒唐無稽に思えることでも、“個性”由来であれば納得できてしまうフシがある。ゆえに彼女も個性によるものかと問うたのだろう。でも、


「いいえ、違います」


強子の『身体強化』ではさすがに説明がつかないので、首を振って否定した。
彼女を納得させるのに、もっと上手い言い訳がある。


「私ではなく・・・サー・ナイトアイの個性です。彼は生前、この先の“未来”を私に教えてくれました」


彼の個性『予知』による未来予知ほど、信憑性の高いものはない。彼の残した実績がそれを証明している。
もちろん 彼から未来を教えてもらったなんて嘘だけど、死人に口なしだ。この嘘がバレる心配もない。
それに大勢の人を救うためなら・・・嘘をついたことも、ナイトアイの名を利用したことも、彼だって笑って許してくれるだろうさ。


「サー・ナイトアイが、あなたの未来を見たの?彼はある時期から他人の未来を見ることをやめたと、そう報告を受けていたけれど」


疑わしいと言わんばかりの視線を向けられ、ギクリとする。
他人の“不幸”を、“死”を、『予知』することにより確定させてしまう―――そうならないよう、ナイトアイは他人の将来を『予知』することをやめた。彼が見るのは、ほんの一瞬先の未来まで。
この事はオープンになっているわけじゃないのに・・・さすがというか、公安は把握していたようだ。公安の情報網は侮れないな。
彼女からの鋭い指摘に内心で舌を巻いた強子だが、当然、こちらの言い訳も考えてある。


「・・・煽ったんです」

「煽った?」


怪訝な表情で聞き返してきた彼女に、少し恥ずかしそうに笑いながら「はい」と頷く強子。


「私は“秘蔵っ子”だの“次世代のオールマイト”だのと言われているけど、まったく彼に似ていないし、彼の足元にも及ばない“凡人”だと・・・ナイトアイにそう侮辱されて、腹が立ったんです。だから、私の将来を見てみろ、オールマイトもびびるほどのスーパーヒーローになってるぞと彼を煽って、『予知』を誘導してやりました!」


嘘の信憑性を高めるには、嘘の中に少しの真実を混ぜると良いという。
ナイトアイと衝突したときのことを懐かしく思い返しながら語ると、公安の二人は無言で顔を見合わせた。
ナイトアイが熱狂的なオールマイトファンであることは、わりとオープンに知られている事実であった。


「そんな経緯もあって・・・彼の今際に、彼から託されたんです。きっと“未来”は変えられるものだから、人々が殺される未来を、大勢の悲しい未来を、変えてくれ と―――」


だから、強子がなんとかしなくちゃいけないのだ。強子にできることがあるなら協力させてほしい。
そんな想いを込めた瞳でじっと彼らを見つめること、数秒――その数秒をずいぶん長く感じていると、今までだんまりだった幹部が口を挟んできた。


「本当に未来は変えられるのか?ナイトアイの『予知』した未来は、どう足掻いても覆せないものだと聞いていたが・・・」

「はい、ナイトアイ本人もその認識でしたが・・・死穢八斎會での一件では『予知』した未来がねじ曲げられたので、未来は変えられると彼も認識を改めたようです」

「しかし・・・そう簡単なことではないだろうな。もし未来を変えられたとしても、より良い未来に変わるという保証はない。それこそ想定よりも悪い結果をまねく可能性も・・・」


未来へ干渉することに対し、彼はずいぶん懐疑的だ。
まあ、未来なんてもの自体が不確かであやふやだから、雲を掴むような話に思えるのも無理はない。
フムと強子は視線を宙に向けると、一つの持論を口にした。


「・・・“未来”ってのは、ミスコンみたいなものだと思うんです」


ミスコンという突飛なワードに、公安の二人は虚をつかれたように強子を見た。


「ミスコンの優勝者は投票によって決められるでしょう?多くの人が選んだ結果に収束する、つまりは“多数決”です―――けど、ミスコンの水面下じゃ、特定の誰かを勝たせるために組織票が動いていたり、あるいはライバルを蹴落とそうと画策する人がいたり・・・あらゆる人たちの思惑や策略が重なった上での“多数決”なんですよね」


ミスコンの投票結果は純粋な“多数決”のように見えて、実際には、強い意志を持った誰かによって操作された結果なのだろう。
“未来”というものも、似たようなものじゃないだろうか。


「誰かが強く望む、そのエネルギーが未来を成していく。それなら、私の持つエネルギーだって未来を形づくる一端となるんでしょうが・・・私ひとりじゃ おそらく足りません」


自信家の強子とて、自分ひとりの力で未来を変えられるなんて自惚れちゃいないさ。
超常解放戦線の奴らも 奴らなりの正義を掲げており、強固な意志をもって戦火を交えるのだから・・・そのエネルギーは計り知れない。


「でも―――公安や警察、それにヒーローの皆さんが私とともに戦ってくれるのなら・・・その“組織票”は、きっと、明るい未来を成せるはずです!」


たとえ公安のトップ二人が懐疑的であっても、強子に折れる気はまったくない。なんとしても彼らを説得してやる!
ホークスが作ってくれた、またとないチャンス。この機を逃せば、未来を変えるなんて それこそ雲を掴むような話になってしまう。


「(頼むから、色よい返事をくれよ・・・!)」


ひやひやしながら返答を待っていると、委員長がすっと目蓋を閉じた。


「“未来”を知る人が作戦に協力してくれるなんて、願ってもないことよ。“未来”だなんて貴重な情報は、喉から手が出るほどほしいもの」

「!」


肯定的な返答に強子の表情がぱっと明るくなる。
しかし、目蓋を開けた委員長はやはり冷たい瞳で強子を見据え、「けれど・・・」と付け加えた。


「あなたの知る“未来”が、本当にこの先に起こり得る“未来”であるという確証がないのに、あなたの言葉を鵜呑みにはできないわ」


その言葉に、強子はガッカリしたような顔で固まった。


「あなたを疑っているんじゃないの・・・ただ、私たちはあらゆる可能性を見過ごすわけにいかないのよ。たとえば、もしもナイトアイがあなたに真実を語っていなかったとしたら?真実を語っていたとしても、ナイトアイが見た“未来”がすでに変わっていたら?それ以前に、あなたが何者かに偽物の記憶を植えつけられている可能性は?」


そんな、疑いだしたらキリのない事をくどくどと語る委員長に、強子は閉口するしかない。


「重責ある立場にいる以上、確証が得られない状況では迂闊に判断を下せないわ・・・理解してちょうだい」


そう話をまとめて口を閉ざした委員長は、こちらも全く折れる気がない様子である。彼女の意志を覆すことは難しいだろう。
強子はそう判断すると、素直にコクリと頷いた。


「わかりました」


ここは一旦、大人しく引き下がろう。
ただし・・・“置き土産”を渡すのを忘れちゃいけない。


「ようするに、確証が得られればいいんですよね」


こういう展開になることを、まったく予想していなかったわけじゃない。
だから強子はこうなった場合に備え、とっておきの置き土産を用意してきた。
強子が真実を語っているという証拠に―――誰も知るはずのない“未来”を、彼らに教えてやればいいのだ。


「数日後・・・警察はタルタロスに収容されている黒霧を通して、重要なヒントを入手します」


雄英始業の日、相澤とプレゼント・マイクの二人は監獄タルタロスに向かった。そこで彼らは、黒霧と面会することになる。
二人は、黒霧の“ベース”となった白雲朧と親しい級友だったから。
無二の友からの必死の呼びかけに応じて、黒霧の中に眠っていた白雲は、死柄木らの居場所を突き止めるための重要なヒントを与えてくれた。


「―――『病院』」


その一言だけでは何のことかさっぱりだろう。でも、


「このキーワードと、ホークスが潜入捜査で掴んだ情報とをつなぎ合わせることで、死柄木の潜伏場所が“蛇腔病院”だと判明するでしょう」


予言めいた話ながら明確な情報まできっぱりと言いきる強子に、公安の二人は半信半疑ながらも固唾をのんで聞き入っている。
強子はふっと余裕の笑みを浮かべてみせた。


「私から得られる情報は役立つという確証が得られましたら、また私にお声掛けください。その際には、最大限に尽力させていただきますので」


己の立場をわきまえて恭しく進言すると、強子は「それでは、失礼します」と頭を下げて颯爽と退室した。
そして廊下に出てから、強子は笑みを消し、神妙な顔つきで思案する。


「(・・・餌はまいた。今は、これ以上やれることもない)」


強子の持つ情報が有益だと思わせるのに、十分な情報を与えた。その情報が嘘偽りなく“未来”のものであることも、数日後にはわかるだろう。
あとは・・・強子の垂らした釣り餌に、彼らが食らいつくのを待つだけだ―――










始業一発目の“実践報告会”は、対ロボット戦にて各自の成果をお披露目する形式であった。
インターン先ごとにチームを組んでロボットの軍勢を殲滅していく中、エンデヴァー事務所チームも圧巻のパフォーマンスを見せていた。


「能力の底上げ!」


爆豪は威力を圧縮した『爆破』を放ってロボットをぶっ飛ばし、


「スピードの強化!」


轟は氷結と炎熱の二刀流、目にも止まらぬスピードでロボットを薙ぎ払う。
二人の圧倒的な強さに、一瞬にしてロボットの大半が破壊される。
しかし・・・いくつかのロボットは彼らの攻撃から逃れていた。その残党どもを一機残らず索敵済みの強子は素早く戦場を駆け抜けて、


「並列思考!」


爆豪や轟たちに攻撃を仕掛けようとしているロボットを優先的に狙って撃破する。
そして間髪入れずに、なおも生き残っている何機かのロボットに意識を向け、“スタンピングモード”のブーツで地面を踏み抜いた。途端に彼女を中心に地割れが起こり、砕かれた地盤が、ロボットの残党らを空中へと押し上げる。
宙に浮き上がった無防備なロボットたち――それらを狙い、緑谷が高く飛び上がる。


「経験値!」


浮き上がった全てのロボットを『黒鞭』でたぐり寄せ一纏めにしたところを、シュートスタイルで一発撃破。
エンデヴァー事務所チームのお披露目はものの数秒で終わってしまった。
その華麗なる手さばきに、そして、エンデヴァーチームの成長ぶりに、クラスメイトたちは思わず声をあげていた。


「強子の索敵能力、あがってない!?」

「乱戦は苦手と言っていたが・・・克服したんじゃないか?」


現在ギャングオルカのもとで索敵強化中の耳郎と障子からも興味深そうに問われ、強子は誇らしげに「へへっ」と笑みをこぼした。


「皆 しっかり揉まれたようだね。録画しといたから相澤くんに渡しておくよ!」


クラス全員のお披露目を終えると、オールマイトもどこか満足げな様子で締めくくる。


「引き続きインターン頑張ってくれ!さらなる向上を―――」







その後、仮眠室にていつもの秘密会議が行われた。オールマイトと緑谷と爆豪、そして強子の面子である。
何の話かと思えば、歴代継承者の詳細な情報をオールマイトが調べてノートにまとめてくれていたので、皆でそれに目を通していく。
歴代の個性は様々だったが・・・オールマイトの判断により、緑谷が次に習得する個性は『浮遊』に決まった。
自由に宙を飛べるなんて、確かに便利である。すごく羨ましい。
すでに『爆破』で飛べる爆豪はいいよなぁ と、無意識のうちに羨望の目で彼を見ていたら、それに気づいた爆豪に勝ち誇った笑みを向けられた。くそぅ・・・。


「―――何してたんだよ、遅ェ〜よ!問題児ども!」


秘密会議を終えた三人が寮に帰ってくると、瀬呂から咎めるような声がかかった。


「早く手伝わねーと肉食うの禁止だからな!」


そう焚きつける上鳴も、瀬呂と同じように忙しなく食器や食材を運んでいる。
そうだった―――今日はA組の寮で鍋パを開催することになっていた。
緑谷がハッと慌てて「すぐやるね!」とクラスメイトたちの輪に飛び込む。


「肉を禁じたらダメに決まってんだろが イカれてんのか!!」


爆豪は慌てるどころか逆ギレしながら、ノシノシと偉そうに調理チームにまざっていく。
残った強子は、不服そうに瀬呂を睨みつけた。


「謹慎ボーイズと私を引っくるめた三人で“問題児ども”と扱われるのは不本意なんだけど!?」


強子は緑谷と爆豪のように、ケンカして謹慎するような問題行動を起こしちゃいない。いつだってトラブルの中心にいる彼らと同等に扱われるのは納得いかないぞ。


「お前だって似たようなもんだろ、A組のトラブルメーカーじゃん」

「文句言うヒマあったら手伝えよ、エキセントリックお騒がせガール」

「トラブルメーカーじゃないし、変てこなあだ名つけないで!!」


おざなりな態度の上鳴と瀬呂にあしらわれて憤慨していると、炊き出しで使うような どデカイ鍋を持った砂藤が笑いながら強子に声をかけた。


「まァ落ち着けよ身能、腹減ってるからカッカしてんだろ?もうすぐ鍋も出来上がるし、お前の食う量を考慮して大量に作っておいたぜ」


A組の料理長、砂藤の言葉に強子は「わーい!」と子どものようにはしゃぐ。
今宵の鍋は料理が得意な砂藤が監修しているというので、期待値は高い。まず間違いなく、どこに出しても恥ずかしくない絶品鍋が出てくるだろう。


「遠慮せずにじゃんじゃん食えよ!」


にこやかに告げる砂藤は、もはやA組のおふくろとも呼べる存在だ。おふくろの存在に感謝しつつ強子も鍋の準備にとりかかると、


「テメーはいっつも食い意地張りすぎなンだよッ!インターン先でも毎度バカスカ食いやがって・・・」


包丁で手際よくニラを切りながら、爆豪が強子に苦言を呈してきた。
すると、轟が「ああ、」と思い出したように口を開く。


「そういや事務所の食堂いくと、いつも身能の周りに人だかりが出来てたよな。すげェ量を完食するのを物珍しそうに見て盛り上がってた」

「身能さんの大食いぶりは、食堂のちょっとした名物みたいになってたよね」


苦笑まじりに緑谷も付け加えると、クラスメイトたちが「あぁ・・・(納得)」みたいな顔になる。
ちょっと待ってくれ、強子の食欲を食い意地だと評されるのは許容ならない。


「人を食いしん坊みたいに言わないでくれる?私は消費エネルギーに応じたカロリーを摂取してるだけ!!」


No.1事務所という過酷な環境下での個性のばし―――エネルギー消費量はハンパじゃないわけで、消費したぶん強子の食事量が増えるのも当然のこと。


「それに事務所の皆さんが私に群がるのは、私が カ ワ イ イ から!動物園でパンダ見たさに行列をつくるのと同じで、皆さんは私に癒やしを求めてきてるの!」


ドヤ顔で正しく事実を述べると、轟は「確かに」と納得したように頷いた。一方で、


「テメーみたく化けモンじみた胃袋した女が、世間一般に“カワイイ”なんざ持て囃されるわけねェだろ!!とっとと現実見てバカ食いやめろや、いいかげん腹ァ壊すぞ!」


不快極まりないといった様子で強子に怒鳴り散らす爆豪。そんな彼に「えっ!?」と驚くと、強子は考える仕草を見せる。


「それはつまり・・・化けモンじみた胃袋しててもなおカワイイ私は 最強にカワイイってこと!?いやーなんか、そこまで言われるとさすがに照れるわぁ」


爆豪からひどく罵られたというのに、強子は照れくさそうに後ろ頭をかいて笑っている。
打たれ強さには定評のある彼女だが・・・以前にも増して、ポジティブ思考に磨きがかかっている。ポジティブというより、単なる“おめでたい奴”のような気もするが。
能天気に笑っている彼女に爆豪は脱力すると 諦めたように口を閉ざした。轟は盲目にも「事実だろ」と頷いて強子を全肯定する始末だし、緑谷は穏やかに微笑むばかりで余計な口を挟まないようにしている。
そんな彼らの関係性を見たクラスメイトたちは、ほっこりとして笑みを浮かべた。


「(((エンデヴァー事務所組・・・心配してたけど、仲良くやれてるみたいでよかった!)))」







「―――では!“インターン意見交換会”&“始業一発気合入魂鍋パだぜ!!!会”を、始めよう!!」


飯田の発声を合図に、イェーイ!と沸き立ってジュースで乾杯するクラスメイトたち。
寒い日は鍋に限る!と、アツアツの美味しい鍋をつついてホっと息をついていると、耳郎がしみじみ告げた。


「暖かくなったらもうウチら2年生だね」

「あっという間ね」

「怒涛だった」

「後輩できちゃうねえ」

「ヒーロー科部活ムリだから、あんま絡みないんじゃね?」

「有望な子来ちゃうなァ や〜だ〜!」


進級後のことに思いを馳せてあーだこーだと皆が語る中、強子も厶フフと笑みをこぼす。


「後輩が入ってきたら また校内に私のファンが増えちゃうなー、困っちゃうなあ!」


強子に憧れて雄英に入学してくるであろう可愛い後輩たちに囲まれる己の姿を想像してウキウキしていると、何人かから「お気楽な奴め」と呆れの表情を向けられた。


「君たち!まだ約3ヶ月残ってるぞ!期末が控えている事も忘れずに!」

「やめろ飯田 鍋が不味くなる!」


楽しいひとときに“期末試験”の話題を持ち出すとは野暮である。峰田が険しい顔でたしかめると、轟がきょとんと呆けた顔で峰田を見やった。


「味は変わんねェぞ」

「・・・おい身能、コイツのこれ もう天然とかじゃないよな・・・!?」


助けを求めるようこちらに振り向いた峰田に、強子は「そう?」と首を傾げた。今日とて轟は純真でかわいい天然ボーイだろう?
耳郎がイタズラっぽく笑って、強子に代わり峰田に答える。


「皮肉でしょ、「期末 慌ててんの?」って」

「高度!!」


峰田の嘆きに続いて、皆の笑い声が響きわたった。
なんてことない他愛もないやり取りだけど、気心知れた級友たちと過ごす時間は格別なもの。久しぶりに21人全員が集まったこの空間はホームのように懐かしく、心地よくて・・・たまらなく愛おしい。
ここ何日かは各々インターンで学校を離れていたのもあり、クラスメイトたちの誰もが同じ心境であったろう。

―――激動の日々。時々、ふと我に返る。

今、“私”がここにいること。
まさかヒロアカの世界に転生するなんて思ってなかったし、A組の皆とこうして鍋を囲みながら談笑する日が来るなんて思ってなかった。


「(私は・・・―――)」


ふとした瞬間 強子の頭によぎるのは、いつだってこの疑問だ。


「(私は、なんのためにこの世界に転生したんだろう)」


なぜ“私”だったのだろう?
なぜヒロアカの世界だったのだろう?
そこに意味はないのかもしれない。だけど、もし、意味があるというのなら・・・―――


「あらっ、今日は皆でお鍋?いいわね、青春だわぁ!」


寮の玄関から聞こえてきた声に、はたと思考を止める。声のほうを見れば、そこにはミッドナイトがいた。


「盛り上がってるとこ悪いのだけれど・・・身能、ちょっといいかしら?」

「はい?」


ミッドナイトに手招きされ、強子は席を立つと彼女のもとにトテトテと足を進める。
なんの用だろうかと訝しんでいると、ミッドナイトは単刀直入に切り出した。


「今取り込み中の相澤くんに代わって私から伝えるわ―――公安からあなたに 呼び出しよ。明日、朝から来てくれって・・・ずいぶん急な話よね」

「!!」


ミッドナイトが頬に手をあて、「あなた、何かした?心当たりある?」と不安そうに尋ねてくるが・・・そんな彼女のことなど視界に入っていないかのように強子は静止している。
彼女は脳内で何度も何度も状況を整理し、そして、一つの結論にたどりつく。


「(食らいついた・・・ッ!!)」


ながらく垂らしていた釣り餌に、魚が食らいついて引っ張られる感触。その確かな手応えを覚えると、思わず強子はニタリと口角を上げた。


「アイツ、すっげー悪い顔して笑ってんぞ」

「悪魔のような笑みだな」

「なに考えてんだか、A組のトラブルメーカーは・・・」


強子の笑みを見た外野が囃し立てるのを聞くと、ミッドナイトは不安をさらに煽られて眉を寄せた。


「ちょっと・・・大丈夫なんでしょうね?雄英の名を汚すようなマネはしないでよ?」

「心外ですね」


悪代官のごとき笑みを消して、強子は愛らしくぷくりと頬を膨らませてミッドナイトを見る。
まったく・・・彼女も、クラスメイトたちも、ちっともわかっていないんだから。


「(私がなんのためにこの世界に転生したと思ってるんだか・・・)」


本当は、意味なんてないのかもしれない。だけど、もし意味があるというのなら、強子は・・・―――
“誰かが殺される未来”を変えるんだ。
多くの人々の“悲しい未来”を変えるんだ。
この世界で定まっている“未来”――それよりもずっと明るい、“みんなが幸せな未来”に変えること。それこそが、強子がこの世界に存在する理由だと思いたい。


「(守りたいものを全て守る。救けたい人を、全員救ける・・・!)」


もちろん、それが簡単なことじゃないのは百も承知だ。とてつもなく苦労するだろう。とんでもなくツラくキツい道のりになるだろう。
それでも・・・

―――笑って、未来に 立ち向かえ


ナイトアイからもらい受けた最後の言葉。頭から離れず重苦しくすら感じたその言葉が、今や 強子の指針となっている。


「大丈夫です!私に任せてください!」


強子は胸を張ると、不安げなミッドナイトにニカッと太陽のように眩しい笑顔を向けた。


「(私は 何も出来ない“傍観者”には成り下がらない―――この世界の未来に、立ち向かってやる!!)」












==========

この先、夢主の頑張り次第では、原作とは異なる展開(救済等)があるでしょう。苦手な方はご注意ください。

また、夢主が原作展開を変えようと奮闘する関係で、終盤までの原作展開がわからないと当連載の執筆は進められないと考えております。
現時点でもすでに「こういう展開になるなら、考えてたあのネタは使えないなー」みたいに断念することがしばしば。
そこで、原作が終盤を迎えるまでの間、しばらく当連載の更新をストップさせて頂きたいと思います。
代わりに連載番外(短編や劇場版)など更新しようと考えてますので、よろしければそちらでお暇つぶしくださいませ。
よろしくお願いいたします。


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