いざ!No.1事務所!

「ようこそ、エンデヴァーのもとへ―――・・・なんて気分ではないな」


取り繕った笑顔から一変、不平不満をあらわに表情を険しくさせたエンデヴァーが強子たちを見下ろした。
初日の朝から、早速エンデヴァー事務所の洗礼である。思わず強子はしょっぱい顔になった。


「焦凍の頼みだから渋々許可したが!焦凍だけで来てほしかった!百歩譲って身能はいいとして、二人も余分にインターン生を押し付けられるなぞ不本意だ!!」


百歩譲って って・・・職場体験で強子を指名していた割には雑な扱いである。やはりエンデヴァーが欲しがるのは愛息子のみであって、強子はせいぜい、息子の付属品くらいの認識なんだろうな。
しょっぱい顔のままエンデヴァーを見据えていると、轟が「気にすんな」と言うように強子の背をぽんと叩いて、エンデヴァーに非難の目を向ける。


「許可したなら文句言うなよ」

「しょっ、焦凍!!」


愛息子から正論を受けてたじろぐ姿は、No.1ヒーローとは思えない体たらくだ。
そんな彼をじっと見ていた爆豪がぼそりと呟いた。


「補講の時から思ってたが・・・きちィな」

「焦凍、本当にこの子と仲良しなのか!」

「まァトップの現場見れンならなんでもいいけどよ」

「友人は選べと言ったハズだ!!」


・・・騒がしい。朝っぱらからヤイヤイ騒ぎ立てているエンデヴァーに、周囲の視線は釘付けである。いい近所迷惑だ。
騒々しさで言うなら ファットガム事務所にも引けをとらないかもしれない・・・あそこと違って、こちらは殺伐としているけども。


「許可して頂きありがとうございます!」


喧騒に負けぬよう、緑谷が声を張り上げた。
それに便乗して強子も「ありがとうございまーす」と感謝を告げれば、間延びした声が耳に障ったのか、エンデヴァーの眉がぴくりと動いて 強子をギロリと睨みつけた。うん、殺伐としている。


「学ばせてもらいます!」


意気込む緑谷の声に、エンデヴァーの意識がそちらへと向けられる。そして、何やら思いふける様子を見せたエンデヴァーだったが・・・突然、バッと勢いよく道路に飛び出した。
と同時に個性を発動させ、身体に炎を纏わせた彼が駆けだすと、直後、遠くのほうから衝撃音が聞こえてきた。なんらかの事故か、事件かが起きたのだ。


「申し訳ないが焦凍以外にかまうつもりはない―――学びたいなら後ろで見ていろ!!」


と、彼はインターン生たちを置き去りに現場へ向かったつもりだったのだろう。しかし・・・今ここにいるメンバーは、この程度でふるい落とされるようなタマじゃない。


「指示お願いします!」


緑谷も爆豪も轟も、もちろん強子も・・・エンデヴァーの迅速な行動と俊敏な動きに遅れをとることなく、びっちりと彼の背後に張りついて来ていた。
闘志満々に戦闘態勢を整えながら後を追ってくる彼らに、エンデヴァーは「後ろで!見ていろ!!」と改めて指示をくだした。


「“後ろで見ていろ”って、」

「ついて行かなきゃ見れない!」


エンデヴァーに振り離されないよう全速力で追いかけていると、衝撃音の起きた方角から声が響く。


『この地は闇に覆われようとしている!!逃げよ国民!私は闇の元凶を討ち滅ぼす者なり!』


騒ぎの中心にいたのは、一人の老人だった。
ガラスを操る個性の老人がビル街の窓ガラスを吸い寄せて集めているようだが・・・そのガラスの塊を老人がどうにかするより早く、エンデヴァーが現場に到着した。いや、「到着した」というより、炎で加速して「突っ込んでいった」のだ――ガラスの塊の中に。
すかさず赫灼熱拳を放てば、熱で瞬時にガラスが溶かしつくされる。


「ガラス操作か ご老人、素晴らしい練度だが・・・理解し難いな。俺の管轄でやる事じゃない」


驚異的な火力。圧倒的な強さ。
真正面からやって勝てる相手じゃないのは老人も重々わかっているのだろう。エンデヴァーから逃げるよう、彼は素早い動作で細い路地へと飛び込んでいった。
エンデヴァーは他のヒーローに避難誘導を指示しつつ、老人を追って路地へと飛び込む。
エンデヴァーの後ろを追っていた強子も路地に入り、彼らの背中を見ながら走っていたのだが・・・路地の出口にいる存在を察知して口を開いた。


「そこ、待ち伏せされてます!三人です!!」


強子の警告に緑谷・爆豪・轟の三人が表情を険しくさせ、より一層スピードを速めた。つられて強子も足を速めようとして、ふと、頭上に飛行している者の存在も察知する。
他でもない、ホークスだ。
彼の『剛翼』ならば、インターン生たちよりも一歩早く、エンデヴァーを待ち伏せしている老人の手下たちを蹴散らせるだろう。
どうせホークスに手柄を取られるなら と、強子はこっそり速度をゆるめる。そうして頭上を仰ぎ見ると、そんな強子の小さな行動すら見落とさなかったホークスが小さく口元に笑みを浮かべた。


「今じゃ やれェ!!」


老人が路地を抜け出て、その背後に迫っていたエンデヴァーも路地を抜けると同時、手下たちが一斉にエンデヴァーに襲い掛かかる。
ナイフで、パイプで、ケーブルで襲い掛かってくる奴らに、緑谷が蹴りで、爆豪は籠手で、轟も氷塊で応戦する―――が、彼らよりも先に、幾枚もの紅い羽根が目にもとまらぬ速さでヴィランどもを抑え込んだ。


「ごめん、俺のほうがちょっと速かった」


ホークスはヘラリと笑って謝罪の言葉を口にするが・・・もとより手柄を横取りする気だったくせに、白々しい。


「エンデヴァーさんがピンチかと思って」

「この俺がピンチに見えたか」


待ち伏せていたヴィランにも動じずにしっかり老人を確保したエンデヴァーが、皮肉を返す。
それでもホークスは相変わらず飄々としている。地上に下りてくると、彼はニヤけた顔で「見えたよねぇ、焦凍くん」と馴れ馴れしく話しかけて、轟を返答に困らせていた。


「来る時は連絡を寄越せ」

「いやマジ フラッと寄っただけなんで」


トップヒーローたちがそんな飾り気のない言葉を交わしていると、警察が到着する。
エンデヴァーが老人たちを警察へ引き渡しているその隙に、ヒーローオタク代表の緑谷が緊張気味にホークスへと声をかけた。No.2ヒーローを前にして、彼がじっとしていられるはずもない。
そして、目前で手柄を奪われた爆豪も黙っていられるはずがなく、「さっきのぁ俺のほうが速かった!」と主張するが、胡散臭い笑顔のホークスに「それはどーかな!」といなされていた。
それにしても・・・食えない男である。
ホークスの事務所がある九州に行っている常闇も、この男にはさんざん振り回されてきたことだろうな。
なんて強子が考えていると、ふいにホークスがこちらを振り向いて互いの視線がかち合った。彼はニパッと人懐っこい笑みを浮かべ、強子にヒラヒラと手を振る。


「デトネラットで会って以来だ、相変わらず元気そうで何より!そっかぁ、強子ちゃんはエンデヴァー事務所にしたんだ」


無意識に身構えていた強子は彼のフランクな(チャラい)態度に肩の力が抜けて、「どうも」と軽く会釈で返した。
というか、しれっと名前呼びしてきたな・・・以前は「身能さん」だったのに「強子ちゃん」に変わっている。


「てっきりミルコのところに行くかと思ったのに。あのウサ耳コス、強子ちゃんに似合ってて可愛かったもんなぁ・・・もう見れないなんて残念!」

「・・・っ」


元日早々、ウサ耳コスのビヨンドが可愛いと話題になったのは事実だが・・・そういうこと、本人に向かってさらっと言えちゃうんだもんなァこの人は。
ホークスのたらし発言にうっかりニヤけないよう、強子は口をきゅうと一文字に結んだ。


「―――で!?何用だ、ホークス!」


ヴィランを警察に引き渡してエンデヴァーが戻ってきた。


「用ってほどでもないんですけど・・・エンデヴァーさん、この本読みました?」


ホークスは上着のポケットから一冊の本を取り出した。その表紙にあるのは、『異能解放戦線』の文字。


「いやね!知ってます?最近エラい勢いで伸びてるんスよ!泥花市の市民抗戦でさらに注目されてて!昔の手記ですが、今を予見してるんです・・・「限られた者にのみ自由を与えればその皺寄せは与えられなかった者に行く」とかね―――時間なければ、俺 マーカー引いといたんでそこだけでも!」


ペラペラとページを捲りながら、流れるような口調で語るホークス。ピーチクパーチクと、相変わらずよく喋ること・・・。


「異能解放軍の指導者“デストロ”が目指したのは究極あれですよ、自己責任で完結する社会!時代に合ってる!」


熱で浮かされたように聞いてもいないことをペラペラと語ってくるホークスに、あのエンデヴァーすら「何を言ってる・・・」と困惑気味だ。


「そうなれば―――エンデヴァーさん、俺たちも暇になるでしょ」


そう告げたホークスの表情は、ヴィランの前でさえなかなか見せないほど真剣な、必死に何かを訴えかけるような面持ち。


「・・・読んどいて下さいね」


真面目くさった顔で、ホークスがエンデヴァーの手に本を押しつけると、


「No.2が推す本・・・!僕も読んでみよう!あの速さの秘訣が隠されてるかも・・・」


都合よく緑谷がそんなことを言うものだから、「そんな君の為に持ってきてました」とホークスは布教用に持参していた数冊を懐から取り出した。


「そうそう、時代はNo.2ですよ!速さっつーなら、時代の先を読む力がつくと思うぜ!」


渡すのも“速すぎる男”だと緑谷が目を見張るほどの手早さで、ホークスは『異能解放戦線』を配っていく。
緑谷、爆豪、轟・・・そして強子にも渡されそうになったところで、強子は首を振ってそれを断った。


「私は結構です、もう持ってますから」


この本なら、強子はとっくに予習済みだ。分厚くてカサ張るこの本をさらにもう一冊だなんて、邪魔でしかないので断っておく。
強子に断られたホークスはきょとんとした後、にこっと笑顔を浮かべた。


「さすが、デトネラット社長から“先見性に優れる”と評価されるだけあるねえ!これからの時代に求められるものをよくわかってる!!」


あー・・・余計なこと言わなきゃよかったな。
ただでさえ 四ツ橋社長が強子にやたらと好意的なのが不気味なのに・・・強子が自前の『異能解放戦線』を愛読しているなんて誤解されたら、また彼の強子に対する好感度が上がってしまう。


「強子ちゃんには必要なかったみたいですけど・・・全国の知り合いやヒーローたちに勧めてんスよ。これからは少なくとも解放思想が下地になってくと思うんで。マーカー部分だけでも目通したほうがいいですよ―――“2番目”のオススメなんですから」


わざとらしい言い方でエンデヴァーに目配せすると、ホークスは両翼をバサリと広げた。強子たちの視界に幾つもの紅色の羽根が舞い散る。


「それじゃ皆さん、インターンがんばって下さ 「ちょっと待って」」


用は済んだとばかりにホークスが飛び立つ、その間際―――強子の腕がホークスの腕を引っ掴んで、彼を地上に縫いとめた。
唐突な行動に皆が瞠目する中、強子は真剣な表情で口を開く。


「ホークスに、お願いしたい事があるんです」


必死に何かを訴えかけるような瞳でホークスをじっと見つめる強子。するとホークスも、ヘラついた表情を引き締め、探るような視線で強子を見つめた。


「・・・で?その“お願い”って、なに?」


慎重な彼は簡単には頷いてくれず、まずは強子の要求を確かめる。
警戒する彼に強子は無邪気な笑顔を向けると、かねてより考えていたその“お願い”を口にした。


「ヒーロー公安委員会のトップと話がしたいんです。対談の場を設けてもらえるよう、取り計らってもらえませんか?」


以前から、ずっと考えていた。
強子になにが出来るのか。この先 悲しい思いをする人を一人でも減らすために、何をすればいいのか。どうしたら“明るい未来”なんて築けるのか。
そのヒントが、取っ掛かりが―――きっと今、強子の目の前にある。


「ホークスは公安のトップとも繋がりがあるでしょう?ホークスが推薦してくれたなら、ヒーロー候補生ごときのお願いとはいえ、公安も動いてくれると思うんです」


強子は今、“全面戦争”に備えて力をつけている段階だ。“全面戦争”までには見違えるほど成長しているだろう。
しかし・・・強子ひとりが力をつけてどうこう出来る範囲なんて、たかが知れている。
だったら、ヒーロー全員の力を借りることが可能なら?ヒーロー側の人員すべてを望むままに動かすことが可能なら?それだけの力があれば・・・未来を変えるのだって夢じゃない。
ようするに、ヒーロー組織全体を牛耳っている公安委員会さえ味方にしてしまえば、明るい未来を実現できるってことだ!
そのためにも、ホークスが協力してくれるのが一番手っ取り早いのだけど・・・


「それ、お願いする相手って べつに俺じゃなくてもいいよね」


慎重な彼は、やはり簡単には頷いてくれない。


「エンデヴァーさんだって公安トップとは面識あるんだし、そっちにお願いしたら?」

「アハハ ご冗談を・・・私、インターン生(雇用されてる身)ですよ?エンデヴァー(雇用主)にワガママなんて言えるわけないじゃないですか」

「あれま意外、ワガママ言ってるって自覚はあったんだ」


うわべだけ見れば互いに笑顔を浮かべて和やかに話しているようだが・・・会話の内容を聞けば、腹の探り合いと揚げ足とりの、冷ややかな応酬。
二人の間にただよう不穏な空気に、緑谷が青ざめた様子で二人を交互に見交わしている。


「ワガママなのは承知の上ですよ。それでも・・・ホークスは、私のお願いを聞いてくれるハズです」


なかなか首を縦に振らないホークス相手に、強子は自信満々にそう言いきる。


「だって、私が“大成できるよう応援してる”って言ってましたもんね?私のこと応援してくれてるなら・・・お力添えいただけますよねえ?」


No.2ヒーローともあろう人が自分の言葉に責任を持たないわけないよな?と言外に匂わせれば、「え〜?」とホークスが苦笑をこぼした。


「最近の女子高生って あんな社交辞令ひとつにも言質とってくんの?油断ならないなぁ」


そう言いながら彼は流れるような動作でスマホを取り出し、誰かに電話をかけはじめた。それから通話相手に手早く用件を伝えて、ホークスは強子へ向き直る。


「はい、お望みどおり 君がトップと話したがってることを公安に伝えたよ・・・あちらさんが応じてくれるかはわからないけど。これでいい?」

「十分です。ご協力に感謝します」


強子は満足げに頷いて、逃げられないよう掴んでいたホークスの腕をようやく離した。
晴れやかな笑顔で礼を告げた強子に、彼もアハハとさわやかに笑って告げる。


「そりゃ カワイイ“雛鳥”ちゃんにお願いされちゃあね!ムゲには断れないでしょ」


彼の口から出たワードに、ぎくりと強子の肩がはねた。
ホークスのファンであることを本人に知られているというのは、なんとも決まりが悪い。
というか、強子が雛鳥であることを知ってるってことは・・・ホークスめ、デトネラット社からの帰り道での会話をやっぱり盗み聞きしていたな。
決まり悪そうに明後日の方向を見つめる強子の背後では轟が「雛鳥?」と不思議そうに首を傾げ、「ホークスのファンのことをそう呼ぶんだよ!」と緑谷が丁寧に解説していた。
・・・ライバルである彼らに知られるのも、これまた決まりが悪い。


「まァでも・・・たとえ対談にこぎつけたところで、ただの女子高生の意見なんて あの人たちはマトモに取り合わないと思うよ」

「それについては心配いりません。だって私、“ただの”女子高生じゃないですから」


フンと胸を張って鼻高々に言い放った強子に、「え〜?」とホークスは苦笑をこぼした。まったく信用してないって顔である。


「まあ見ててください・・・私なら、相手が公安のお偉いさんであろうと誰であろうと、手のひらで転がしてやりますよ」


強子の人心掌握スキルをなめるなよ?不敵な笑みを浮かべて豪語すると、ホークスがほんの一瞬だけ表情を消した。
彼だって本当は、公安に腹を立てているに違いない。公安は彼の都合も気持ちもおかまいなしに、彼を良いように駒として使ってきたんだから。
ホークスがこれまで公安に利用されてきたように、今度は、強子が公安の連中を利用してやるんだとしたら・・・いい意趣返しになるでしょう?ホークスにとっても悪い話じゃないはずだ。


「・・・楽しみにしてるよ」


いつものヘラついた笑顔で告げると、ホークスは再び両翼をひろげた。今度こそ彼の身体は地上から浮き上がる。
そして強子たちに向け「それじゃ!」と軽い挨拶を落とすと、彼は紅色の羽根を舞い散らせながら上空へと飛んでいった。
上空を飛行している彼を見送っていると、緑谷がそそくさと強子に歩み寄る。


「公安の偉い人と話がしたいって、どういうこと?まさか、また何か無茶をするつもりじゃ・・・!?」

「ああ、違う違う!ただちょっと、今後のことを相談しようと思ってるだけ」

「それならいいんだけど・・・身能さんってば あのホークスを相手に強気でグイグイいくから、もう、見てるこっちが生きた心地しなかったよ!?」


心臓に悪いよ、と胸をおさえながら緑谷が息を吐いた。それから彼も上空を飛行するホークスを見上げ、「それにしても・・・」としみじみ告げる。


「身能さんが大人びてるのは前から知ってたけど・・・ホークスも、若いのに見えてるものが全然違うんだなあ。まだ22だよ」

「そっか、6歳差かぁ・・・」


・・・いや、別に、年齢差を確認したからどうって話でもないんだけど。
ただまあ、学生という身にとっては“6年”という年の差は大きく感じるよね。
・・・いや、別に、年齢差が小さければどうって話でもないんだけど。


「ムカつくな・・・」

「ああ、身能に馴れ馴れしくて不快だった」


声のほうへ振り返ると爆豪と轟が眉間に皺をよせ、上空のホークスを睨み付けていた。
爆豪はともかく、轟までもがホークスに嫌悪感を示したのは意外である。そんな二人にエンデヴァーまで「そうだな」と同意しているし・・・強子はフムと顎に手をあてた。


「ホークスって、同性からは嫌われるタイプなのね」


女性人気は高いけど・・・確かに、ちょっと鼻につく感じあるもんなぁ。ひらめいたように強子が告げると、緑谷は気まずそうに「・・・いや、そういうわけじゃ、ないと思うけど・・・」と言葉を濁した。
自分は同性からも好かれるヒーローを目指そうと決意を新たにしていると、エンデヴァーが強子に鋭い視線を向けた。


「貴様・・・なにを企んでいる?」


ヒーロー候補生ごときが公安のトップに接見を求めるなんて、常軌を逸する行動だ。
インターン中の強子の監督責任を負うエンデヴァーとしては、この怪しい行動は見過ごせない。


「そんな心配しなくても、悪いことしようなんて気はないですよ」


強子はあくまでも、この世界の未来を より明るいものにするために動いたまでだ。

―――勝つために出来ることは何でも好きにやっちまえって話だ!


上手くいくかなんて、わからない。
他にもっといい方法があったかも、わからない。
だけど・・・今までのように、『原作』の都合が悪い部分“だけ”変えられないかと試しているようじゃ、足りないんだと思う。これまでみたく『原作』ありきで後手に回っているようじゃ、未来を変えるには至らないのだろう。

―――“型”にハマったままじゃすぐに限界がくる。そいつを乗り越えるには、“型”を破っていくしか方法はねぇぞ


そう、強子は『原作』に縛られすぎていた。
親愛なる従姉妹サマの言うとおりだ―――『原作』を変えたきゃ、その枠から今こそ飛び出さなくてはならない。


「・・・というか、“企んでいる”って言葉は 私よりもホークスのほうが当てはまるんじゃないですか?」


思い当たる節があるのか、エンデヴァーはわずかに目を細めた。そんな彼にすっと近づくと、強子は周囲に聞こえないよう声を落として告げる。


「一応お伝えしておきますが・・・ホークスの翼に いくつものマイクロデバイスが取り付けられていました。カメラに、集音マイク・・・彼の行動も会話の内容も、すべて筒抜けでしょうね」

「!・・・どうにも奴の言動は腑に落ちんと思っていたが・・・そうか、監視されていたか・・・」


エンデヴァーは強子が伝えた情報からすぐに状況を把握する。そして、押し付けるように渡された『異能開放戦線』のページをペラペラと捲っていく。


「らしくない面に、あのわざとらしい物言い・・・つまり、奴の伝えたかったメッセージがこの本に隠されているわけだな」

「そう考えるのが妥当かと」


ここまでヒントを与えれば、ホークスからのメッセージを見落とすことはないだろう。
本に視線を落として考え込んでいるエンデヴァーを見ながら、強子はおもむろにポケットに手を突っ込み・・・ポケットの中から紅色の羽根を取り出した。
彼にしては珍しく頭上をチンタラ飛んでいると思えば、やはり、また強子たちの会話を盗み聞きしていたのだ。
だが、それでいい。今の会話を聞いたなら「エンデヴァーさん鈍そうだけど、ちゃんとメッセージ伝わるかな?」なんて心配していたホークスも、安堵したことだろう。
これで彼は、心置きなくスパイ活動に専念できるはずだ。
“次”に会うときまで・・・お互いに、己のなすべき事をまっとうしようじゃないか。










公安とホークスは“敵”の動きを察知して秘密裏に動いていること、そして、今回のインターンはその“備え”――つまり戦力の保険であること。
強子があれだけヒントを出したのだから当然だが・・・エンデヴァーも気がついたようだ。


「ショート、ビヨンド、デク、バクゴー、4人は俺が見る。俺が お前たちを育ててやる」


もともと所望していたショートのみならず、インターン生4人全員を彼が直接指導してくれることになった。


「だがその前に、ビヨンド、デク、バクゴー・・・貴様ら3人のことを教えろ。今 抱えている“課題”、出来るようになりたいことを言え」


そうだよね、この人は息子以外には全く興味ないもんね。
誰からいく?と緑谷と爆豪の様子をうかがおうとすると、エンデヴァーが口を開いた。


「まずビヨンド―――お前の『身体強化』だが、今はパワーの増強だけでなく、五感覚の強化にくわえ、治癒力の強化も出来るようになったそうだな」

「! はい、そうです!よくご存知で!!」


なんだ、強子に興味なんてゼロかと思っていたけど・・・ちゃんと気にかけてくれてたんじゃないの!体育祭以降の個性の成長具合を正確に把握しているあたり、彼が強子に一目を置いているという説は間違ってなかったようだ。
強子はエンデヴァーへの好感度を急上昇させると、きらきらと瞳を輝かせて彼を見つめた。


「フン・・・自惚れるな、お前が焦凍に見合うだけの人間か見定めていたに過ぎん。そもそも こちらがお前に興味なくとも、お前がやたらとメディアに取り上げられてるせいで嫌でも目につくんだ」


まあ、それもそうか。
強子の認知度は、同世代の中では抜きん出ている。よほどの情報弱者でもないかぎり、強子の個性がどんなものか認識しているだろう。


「お前の個性は使い勝手がいい。そのポテンシャルなら、将来的には焦凍を隣で支えるパートナーの座も任せられるかもしれん。そのためにも、お前にはこのインターンで花嫁修業を積ませるつもりだったが・・・」

「「「花嫁修業・・・」」」


エンデヴァーの口から発せられたパワーワードに、インターン生たちが思い思いの表情で復唱する。
強子はげんなり呆れ顔で、緑谷は居心地悪そうに視線を彷徨わせ、轟は羞恥心から頬を染めつつ眉間にシワをよせた・・・うん、こんなこと言ってくる父親なんてイヤだよね。爆豪にいたっては ただただ嫌悪感あふれる表情である。


「(っていうか、このオヤジ・・・やっぱり私に“嫁いびり”するつもりだったんかい!)」

「だが―――事情が変わった。当面は焦凍のパートナーとしてではなく、“ビヨンド自身”を徹底的に鍛える必要がある」


そう言うなり口を閉じて、強子を見据えたエンデヴァー。鍛えてやるから お前の現状を言ってみろ、ってことらしい。


「ご認識いただいてるとおり、感覚強化、治癒強化が出来るようになりました。が・・・現状、私はこれらの強化能力を“切り替えながら”使ってます。感覚強化と治癒強化は同時に使用すると集中力が分散してしまって、精度が落ちるんですよ」


状況に応じて、感覚強化や治癒強化を切り替えていくのが今の強子の戦い方。
しかし相手が強敵だと、このやり方では通用しない局面が出てくる。
トガとの戦闘がいい例だ―――彼女のすばしこい攻撃を超感覚でかわしながらでは、切り傷を治すことに注力できなかった。


「なので、どちらの強化も同時に使えるようにするのが 今の課題です。パワー強化に関しては感覚強化と同時でも、治癒強化と同時でも、最大出力まで自在に扱えてるんですけどね・・・」

「その“最大出力”とは、どの程度だ?」

「人体の構造上 発揮できる最大を100%とすると、私の今の最大は150%・・・それ以上の出力だと身体に支障が出ます」


今の強子は、150%までのパワーをほぼ無意識下で、“溜め”によるタイムラグもなく自在に扱える。
実は、これはミルコとの特訓の成果である。彼女との手合わせ――その 命を削るような戦闘訓練では、考える間も備える間も与えられず、瞬時に150%まで引き上げることが常に求められた。その結果、意識せずとも最大出力を行使できるようになったのだ。


「では、感覚強化は どの程度までできている?」

「環境にもよりますが・・・集中すれば、半径200メートルくらいの範囲内を索敵できます」

「治癒強化は?」

「刺し傷、切り傷程度のケガは数秒で治せます。大きなケガでも時間があれば。骨折は、折れた箇所がきれいなら自力で治せますし、そうでない場合も 通常よりは早く完治できます。あ、切断された腕をはやすとかは無理かも・・・やったことないですけど。あとは、毒のたぐいも回復できますよ」


ちなみに、死んでもギリ復活できます。
・・・という事実は伏せておいて、それ以外は包み隠さずに語った強子だが―――これを聞いているのはエンデヴァーだけでない。
本来なら、ライバルたちの前で強子の能力値や課題を語るなんて手の内を明かすようなことは避けたいけど・・・仕方ない。エンデヴァーに師事するからには、彼にきちんと現状を伝えておかなくては。


「出来るようになりたい事は山ほどあるんです!パワー最大出力をもっと上げたいし、索敵範囲もひろげたいし・・・『身体強化』で強化できる“身体機能”もまだまだ他にあるんじゃないかと思って、色々と試している最中です」

「なるほど・・・概ね理解した」


エンデヴァーは短く告げると、緑谷へと視線を移した。


「自壊するほどの超パワー・・・だったな」


緑谷は「はい」と頷いてから現状を語る。
自壊しないようパワーを制御できるようになったこと。超パワーにくわえて、“副次的”な能力――『黒鞭』が発現したこと。
そして、黒鞭をコントロールするためのアプローチ方法について、彼なりに分析した内容を長々と語って聞かせた。


「つまり・・・活動中 常に綱渡りの調整ができるようになりたいと」


長ったらしい説明を要約すると、「難儀な個性を抱えたな」とエンデヴァーが独りごちる。


「次、貴様は?」

「逆に何が出来ねーのか、俺は知りに来た」


爆豪の返答に、待機中で暇つぶしがてら見物していたバーニンが「ナマ言ってらー!!」と笑い声をあげる。
彼女の言うとおり、調子に乗った生意気な発言に思えるけど・・・彼は本心から言っている。


「No.1を超える為に足りねーもん、見つけに来た」


爆豪のこれは虚勢ではなく、彼が本気でトップを目指して模索しているのだと、エンデヴァーも察したようだ。


「いいだろう―――では 早速「俺もいいか」」


早速インターン生を引き連れ出動しようとエンデヴァーが踵を返すと、轟が声をあげた。


「焦凍は赫灼の習得だろう!」


エンデヴァーは当然 息子は自分のあとを追うものと思い込んでいる。そんな父親に、轟はとつとつと語りはじめる。


「振り返ってみればしょうもねェ・・・お前への嫌がらせで頭がいっぱいだった。雄英に入って、こいつらと、皆と過ごして競う中で・・・目が覚めた」


入学当初は刺々しく、ろくに人付き合いもしない一匹狼だった轟。彼の父親に対する憎しみや反抗心は凄まじいもので、父親を見返すこと――ただそれだけが彼を突き動かしていた。
あの頃の彼を知る強子たちは、自然と息をひそめて親子の会話を見守った。


「エンデヴァー、結局 俺は、お前の思い通りに動いてる。けど覚えとけ―――俺が憧れたのは、お母さんと二人で観た テレビの中のあの人だ」


緑谷がオールマイトの“救う姿”に憧れたように、爆豪がオールマイトの“勝つ姿”に憧れたように・・・轟も、オールマイトの“ヒーロー然とした姿”に憧れた。


「俺はヒーローのヒヨっ子として、ヒーローに足る人間になる為に、俺の意志で“ここに来た”。俺が お前を利用しに来たんだ」


なりたい自分に、なる為に―――。


「都合良くてわりィなNo.1・・・友だちの前でああいう親子面はやめてくれ」


息子自ら来てくれたことで、いくらかでも心を開いてくれたものと思い違いをしていたエンデヴァーは、胸の内で しかと反省する。


「ああ―――ヒーローとして、“お前たち”を見る」

「・・・それから、」


轟は口元に手をあて、はにかむような様子でボソボソと付け加えた。


「身能のことを勝手に、俺に見合うとか、パートナーとか・・・余計な口出しすんのもやめてくれ。これは・・・俺と身能の問題だから」


うんうん、そうだよね。
子どもの友人関係や恋愛沙汰に、親が干渉しすぎるのは いただけない。子どもに嫌われる要因が増えるだけだぞ。
こちらに関しても反省したようで、エンデヴァーは「す、すまなかった・・・!」とすぐさま謝罪を口にした。
しかし、そのあと恨めしげに強子を怖い顔で睨んできたエンデヴァー。「お前のせいで焦凍に怒られただろう!」ってか?逆恨みもいいとこである。












「救助、避難、そして撃退―――ヒーローに求められる基本三項。通常は“救助”か“撃退”、どちらかに基本方針を定め事務所を構えるが・・・俺はどちらでもなく、三項すべてをこなす方針だ」


インターン生4人を引き連れてパトロールに繰り出すと、街を歩きながら、エンデヴァーは自身の掲げるポリシーを語って聞かせる。
管轄の街を知りつくし、僅かな異音も聞き逃さない。事件・事故があれば誰よりも早く現場に駆けつけ、被害が拡大せぬよう 市民がいれば熱で遠ざける。
それらがエンデヴァーの仕事の流儀であり、この街の平和を維持するに欠かせないものだ。


「基礎中の基礎だ―――並列思考、迅速に動く、それを常態化させる」


並列思考・・・まさに、今の強子に求められるスキルと言えるだろう。


「何を積み重ねるかだ・・・雄英で“努力”を、そして ここでは“経験”を。山のごとく積み上げろ!貴様らの“課題”は、“経験”で克服できる!」


No.1にまで上りつめた実力者の言葉を、身が引き締まる思いで受け止める。
自分では実現できるイメージがわかない課題でも、彼が「できる」と言うのなら できるはず・・・いや、やらなくちゃ!彼のもとで目一杯の“経験”を積み重ねてやる!!
意気込んでエンデヴァーの背中についてくるインターン生たちに向け、彼は一つのノルマを課す。


「この冬の間に、一回でも 俺より速くヴィランを退治してみせろ!」







―――まあ、わかっていたことなんだけど・・・、


「当て逃げ犯、確保」

「一足遅かったな」

「(ぐうぅ・・・・・・お、追いつけんっ!!)」


強子たちが全速力でエンデヴァーのあとを追うも、追いついたと思ったときには、すでに事件が解決した後である。
強子の150%のパワーを駆使しても、前を走るエンデヴァーとの距離は縮まらない。
それから・・・エンデヴァーと強子の間には、常に緑谷がいた。つまり、150%のパワーをもってしても、「フルカウル」の15%にも及ばないということである・・・。


「爆豪、気付いてるか?」

「テメーが気付いて俺が気付かねーことなんてねンだよ、何がだ 言ってみろ」


些細なことでも優位に立とうと、いちいち肩肘張って矜持して・・・まったく、小さい男である。


「あいつ、ダッシュの度に足から炎を噴射してる。九州で脳無相手にやってた「ジェットバーン」、恐らくアレを圧縮して推進力にしてるんだ」


エンデヴァーと同じ個性をもつ轟だからこそ、その技量は驚かされるものだった。熱量を上げる速度に、それをコントロールする繊細さ。
とても一朝一夕で身につくようなものではなく・・・長い年月をかけ、血のにじむような努力を積み重ねてきた結果だとわかる。


「俺の『爆破』のパクリだ」


そう言い捨てる爆豪だが・・・その『爆破』でさえ、エンデヴァーには追いつけていないのが現状。
そして強子は、そんな爆豪にも追いつけていないという事実―――なんとも劣等感を刺激されるイヤな現場である。強子は重たく息を吐き出した。


「つーかテメー、“今”気付いたんか」

「ああ、まったく遠回りをした」


もっと早くから父親を見ていれば、もっと早くに気付いたことだろうに。自分が遠回りして時間を無駄にしたことを自覚すると、轟は額の汗をグイと拭って気合いを入れ直した。
そうして“気付き”を共有する二人に、エンデヴァーが口を開く。


「もう一つ言わせてもらえば、“あっちは大通り”だ」

「そうか!火炎放射で威嚇し、逃走経路を絞りこませて・・・!」


先ほど確保した当て逃げ犯は、大通りに行かせないように炎で誘導されていたことに気付かされる。
これもまた並列思考というわけだな・・・なんて感心する間もなく、エンデヴァーが再び炎で加速して飛び出した。
インターン生たちも慌てて彼を追いかける中、緑谷がエンデヴァーへと投げかける。


「サイドキックと連携しないんですか!?」

「先の九州ではホークスに役割分担してもらったが・・・本来ヒーローは一人で何でも出来る存在でなければならないのだ」


その言葉に強子はハッとして、「一人で・・・」と言葉を漏らす。
サイドキックは足りない部分を補ってくれる存在だと、今まではそんな認識でいたけれど・・・この現場では、そんな悠長なこと言ってられないらしい。“足りない部分”を克服した上で・・・救助、避難、撃退――その三つすべてを、一人でこなさなきゃいけない。


「ちなみに、さっきのガラスヴィランの手下も、ビヨンドに言われる前から俺は気付いていたからな!」


この人も、些細なことでも矜持を保とうと出しゃばってきて・・・小さい男である。
けど、「小っせェな!」って・・・爆豪、お前が言うなよ。
そうこう言ってるうち、エンデヴァーが一番に現場に到着して、トラックに轢かれそうになっていた女性を救助した。
このとき、エンデヴァーだけが間に合っていた。強子たちのスピードでは、間に合わなかった。ここは授業の場とは違う―――間に合わなければ落ちるのは成績じゃない、人の“命”なのに。


「ショート、バクゴー・・・とりあえず貴様ら二人には同じ課題を与えよう」

「なんで毎度こいつとセットなんだよ・・・」

「それが赫灼の習得に繋がるんだな?」


パトロールに出てからインターン生たちの動きを一通り観察した上で、エンデヴァーは彼らに課題を言い渡す。


「溜めて 放つ、力の凝縮だ―――最大出力を瞬時に引き出すこと、力を“点”で放出すること・・・まずはどちらか一つを無意識で行えるようになるまで反復しろ」


次いで、エンデヴァーは緑谷と強子のほうへと視線を向けた。


「それから、デクとビヨンド・・・貴様ら二人にも共通の課題を与える」


この二人がセットで扱われるのも、今に始まったことじゃない。二人はチラと目を合わせてからエンデヴァーへ視線を返した。


「デク、瞬時の引き上げが出来ている状態・・・そうだな?」

「はい」

「意識せずとも行えるか?」

「えと・・・フルカウルは、できます。エアフォースはまだ・・・使う意識が・・・」

「ならばまずはエアフォースとやらを無意識でできるように。“副次的な方”は一旦忘れろ」

「でも・・・並列に考えるんじゃ・・・?」


「並列思考」は基礎中の基礎だと言われていただけに、緑谷は思わずきょとんと呆けた顔になって聞き返した。


「そもそも誰しもが日常的に並列に物事を処理している。無意識化でな」


例えば、あくびをしながら車を運転している人がいるけれど・・・その人も、初めから運転できたわけじゃない。ハンドル操作、アクセル・ブレーキ、前方・後方の確認、一つ一つの段階を踏んで、それらを無意識で行えるように教習されている。


「まずは無意識下で二つの事をやれるように。それが終われば、また一つ増やしていく」


無意識下でできることを一つ一つ増やしていけば、それが「並列思考」に繋がっていく。


「ビヨンド―――貴様は半径200メートル内の索敵を無意識で行えるように。パトロール中は常に休まず、範囲内を索敵しつづけろ」

「んえ!?」


エンデヴァーの言葉に、くらりと目眩がしそうになった。
簡単に言ってくれるが・・・半径200メートル範囲の索敵ともなると、相当な集中力がいる。それを“常に”だなんて、脳のキャパを軽く超えているぞ。“無意識で”なんてのも、到底無理なことに思えるんだが。


「貴様はまだ最大出力や索敵範囲を底上げする段階ではなく、新技を編み出す段階にもない。まずは今できることの最大限を、当たり前にこなせるようになれ」


言っていることは もっともだと思うけど・・・無茶を言う。与えられた課題が無理難題すぎて、怒りが湧いてきそうだ。
強子が悶々としていると、エンデヴァーがさらに言葉を続けた。


「どれほど強く激しい力であろうと、汎用的で使い勝手のいい力であろうと―――礎となるのは、地道な積み重ねだ。例外はいる・・・しかし、そうでない者は積み重ねるしかない。少なくとも俺はこのやり方しか知らん」

「・・・」


つまり、緑谷の『ワン・フォー・オール』も、強子の『身体強化』も、強くなるには積み重ねていくしかないわけだ。
現No.1ヒーローですらそのやり方しか知らないというのなら、それに倣うしかないよなァ・・・とてつもなく 気が重いけど。


「同じ反復でも学校と現場(ここ)とでは経験値が全く違ったものになる。学校で培ったものを、この最高の環境(現No.1ヒーロー事務所)で、体になじませろ」


―――いや、何を今さら日和ってんだ!!
強子は覚悟して“ここ”に来たんじゃないか!
目の前の壁が高すぎて うっかり心が折れかけたけど・・・もっとマクロな視点で考えろ。強子のなすべき事はなんだ?
来る日に向けて「備える」んだろう!?力をつけるんだろう!?


「なに、安心して 失敗しろ。貴様ら4人ごときの成否、このエンデヴァーの仕事に何ら影響することはない!」


この 最高の環境でなら、できるはずだ。

―――身能さんは、普通は不可能だと思うことも、努力で、可能にしてしまえる人だから


そうだよ、身能 強子ならできるはずだ。
無茶を通せ、無理難題も実現してみせろ―――まだ誰も知らない、誰も見たことのない、“最高の未来”を叶えるために!










==========

夢主は現在、無意識下で、瞬時に最大出力(150%)まで引き出して扱えています。
無意識下で行えることをもう1つ増やす、ということで「無意識下での半径200メートル内の索敵」が課題となりました。
この課題がクリアできれば、感覚強化(無意識下)と治癒強化の同時使用ができるようになる、という寸法です。



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