零崎曲識

「無茶なのは分かっています、でも」

「だから、やめたほうが良いと言っている。君の歌唱力は悪くないと言い難い。……つまり下手だと言いたい訳だ。そんな君が歌手だなんて、無茶を通り越してただの自殺志願だ」

「っ、」



先生の言葉がナイフの様にぐさりと突き刺さる。
………分かってた。進路希望調査にあんなこと書いたら呼び出されるに決まってるって。


「……他に、無いのか?大学にでも行って就職して、歌は趣味で良いだろう。それも悪くない……むしろ最良だとは思わないのか」

「そんなつまらない人生は嫌なんです。私は自分のしたいことをして生きていたい。だから歌手になって歌い続けたいんです。」

「君はもう少し、晴れ舞台に立てる人間がほんの一握りだという事実を知った方が良い。……大体、音楽科の成績万年3が何を言っているんだと僕は言わせてもらう。」

「………でも、」




私は、歌いたいんです




小さな声で呟くと、彼は呆れたかの様に息を吐く。先生だって面倒なのだろう。生徒の進路相談なんて、特にこんな不毛な言い争いにしかならない相談を受けても彼には何の得も無いのだから。



「トキ、そろそろ職員会議だよ……ってごめん、邪魔したかな」

「いや、悪くない。もう終わらせるつもりだった」



不躾にドアを開けて隣のクラスの担任が先生に声をかけた。……私だって、好きでこんなことしてるんじゃない。



「とりあえず、調査用紙は明日書き直して持ってくるように。君も僕も、お互い無駄な時間は過ごしたくないだろう?少なくとも僕はそうだ。」






歌手死亡





「………随分酷い言いようだったね?トキにしては珍しい」

「酷いとは心外だ。」


女生徒が帰ったあと、曲識に話し掛けてみる。……トキがここまで進路相談に乗るのは珍しい。少し不思議に思ったのだ。


「僕としては、彼女が挫折するところを見たくないという気持ちが強い。本当にあの子は歌が下手だから、第一希望欄に歌手志望と書いてあった時は本当に驚いた。」


つらつらと言葉を紡ぐその姿はどことなく楽しそうで。………もしかして、あの子が好きだからなんてことを言い出さないだろうか、なんてことを少し思ってしまった。



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戯言学園様提出。
担任の曲識先生と歌手志望の女の子。


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