無題(20/21)
綺麗な黒髪と対照的に白い紙をぱらりと見ている隊長。
どことなく嬉しそうな隊長に、弧夏も眉を八の字にしてふにゃりと笑った。
親衛隊の会議室では何人もがひそひそと弧夏をみて話しているが、それは決して悪い噂ではない。
(うわあ〜笑ったよ富由、じゃねえ、弧夏が)
(うん、可愛らしいよほんと)
(最初そっくりーとか思ったけど、全然似てねえよ。やべえな今は断然あり)
(つーか好みだろ)
人の感覚は恐ろしく、全く同じ顔だと言うのに始終愛嬌ある笑顔でいる弧夏と、それは柊幸明専門の富由は別人に見える。
実際、親衛隊隊長である春も話を聞いてなければ別人であると騙されていただろう。
「ぼくもう放課後毎日でも集会開きたいよ」
ギョッとする副隊長をよそに、春は弧夏を撫でた。
集会は基本的に週1だ。緊急で集まるときはあるが、富由がいないいま緊急で集まることはほとんど無い。
「俺も、と、言いたいとこなんすけど…朗報です」
「なになに弧夏くーん」
きゃーとでも言いたげに弧夏を引っ張り膝に座らせる。
副隊長はそんな春を見ながらキャラちげえじゃねーか。と、呆れたように顔をしかめた。
「俺、さっそく友達ができました!」
「すぐに縁を切りなさい」
「!?」
お、可笑しいな。これは幻聴かな幻聴だろう幻聴しかないよ。だって隊長の口からまさかそんな、と弧夏は頷いた。
一度、なぜか座っていた春の膝から降りて春と向き合う。
「隊長、友達ができたんです」
「よし別れなさい」
真面目な声が二言交わされると、珍妙な空気が流れる。
弧夏もちょっと理解できなくて副隊長に視線をむけると、そちらはそちらで椅子ごとひっくり返っていた。古い驚き方だと思う。
「あのね弧夏君。クラスメートでしょ?そばに居ながら弧夏君と区別できなかったくせに、弧夏君だとわかって態度を変えるなんてろくでもないよ。うん」
「おい春、自分は棚上げか」
「え?なんのこと」
「驚いた顔すんな」
副隊長が立ち上がらずにそう言うと、春はフッと笑い、キョトンと立ち尽くす弧夏を抱き止めた。
弧夏はさきほどの驚きですぐさま反応できず、またもやすんなり春の膝の上へ収納される。
「だって嫌じゃないか!すーはー。ぼくは集会でしか弧夏君に会えないのに友達作っちゃうなんて、さすが弧夏!!すーはー」
「どさくさ紛れて匂いを嗅ぐな、さすがにドン引きだ。愛ノ馬離れていいぞ」
「はい」
「弧夏君素直…!!」
副隊長はなにか別人のようになってしまった春に頭を抱えたくなった。
柊幸明様にだって変態染みた行動の欠片もみせない隊長の春が、にこにこ笑って人当たりのよい春が、たまに親衛隊を駒のように使うあの春がまるで人が変わったように気持ち悪い。
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