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 無題(19/21)







「……お腹空いた」


ぼんやり呟いた。
直ちゃんはあのまま授業放棄してるから、啓太が「直はお便所から帰ってきません」と先生に大声でいっていた。ちなみに俺の席の前が啓太だから、とりあえずナイスフォローだと親指をたてた。

「さっき食べてたじゃねーか」

「デザート忘れた」

「意外と食いしん坊だなあ」

「そうかなあ」

カーディガンの袖を捲られ、ほらと啓太の腕と比べられると富由の身体は明らかに細かった。

俺の身体はもっと肉付きあるんだけどな…。
この間までは食欲沸かなくて気にしてなかったけど、よく考えればこれは富由の身体だから無闇矢鱈に食べて太ったらどうしよう。華奢なこの身体は身長も体重も俺より下で、身動きは取りやすいが何より非力。たまに忘れて頑張りすぎると筋肉痛になる。


「…にしても啓太は筋肉すげぇ」


たぶん富由じゃなく、俺でもお前には完敗だよ。
笑いながら富由の腕を啓太のに密着させて比べると、笑ってこちらをみていた啓太の顔がボッと赤くなる。

あれ?もしかして触られ慣れてなかったか。

「ごめんな」

戸惑いながらも覗き込んで謝ると、焦ったように啓太は何度も頷いた。
―…正直、たまに自分の顔が富由であることすら忘れてしまう。鏡をあまり見ないから。未だに実感がないこの身体も、今更になってから筋肉無いなとか綺麗だなとか思って右腕を擦る。あ、俺変態みたい。


「と、ところでさ弧夏」

「んー」

「ほら、俺も直といっしょで無所属団だから、体育祭練習別々だろ?」

「え、そうなの。明日から練習だよな」

「そうそう。んでも、昼くらいは一緒に食おうぜ!」

「うん、ありがとっ」


へらりと笑ってはみたけど、それまでに富由がこの身体に戻っているだろうなと予想する。

そしたら俺はどうなるんだろ――…




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