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 無題(18/21)








「おっまえの、せいで…」

「なになにぃ有栖ー」

「お前のせいで弧夏と啓太に置いてかれた!!」


騒がしさを取り戻した食堂には、さっきまでいた4人は見当たらず有栖と幸明だけだった。
有栖はまだ食べ残しているBランチをかき込むために、急いで座って箸を握る。幸明も正面にあたりまえのように座る。


「……何、俺怒ってるぞ」

「怒っててもカワイイ」

「カワイイゆうな!」

「ねえ有栖、啓太君はわかったけど弧夏って誰ー」

「は?弧夏はさっきのー…あー、そうか、言うべき?いや、言わねえ。弧夏を傷付けたやつに言う義理はねえ」

「ぶー。何々、僕傷つけた覚えないなー」


可愛い子ぶるように両肘をテーブルにつき、こめかみに手をあてる幸明。
それもそうだろう。何たって彼は弧夏を富由だと思って接している。それは仕方がないことで、まだ噂が一部にしか広まっていないことを表していた。何せ昨日の今日だ、知っている方が珍しい。

有栖はエビフライのシッポを食べながら、ふと皇紀が居ないことに気付く。

いつもならもっと抱き着いてきたりからかってきたり、パシリを使って俺の好きなもんたんまり買って俺を怒らすくせに…。
姿は確かにあったはずの奴が、何もせずにどこかへ行ったのが珍しくて周りを見渡してしまう。

「…皇紀なら同士とどっか行ったんじゃねー?」

逸早く有栖の考えを読んだ幸明におどろきつつ、同士という言葉に首を傾げる。


「愛されちゃって有栖は、俺だけで良いのにもー」

「何のことだよ」

「鈍チンね〜天然上等落としてやらぁ」

「会話しろ!ばかっ。つか、こ……愛ノ馬にキツく当たんのやめてくんねえ?」


その有栖の台詞に幸明の整った眉がぴくりと動く。
何より愛してる人物に庇われる、何より嫌悪してる人物。なぜ、どうやってアイツが気に入られたかは知らないがとてつもなく気に食わない。ぐらぐらと腸が煮えくりそうな感情を抑え、幸明は嫌だと首を振る。


「幸明…今の愛ノ馬とちゃんと話してみろよ」

「また抱いてくれってせがまれるだけだろー嫌だね」

「だっ、え!?」


ギョッとする有栖が面白く、愛しくて一気に幸明に笑顔が戻る。


「いつも教室くるし、俺3年だよー?しかも部屋まできては『柊様のために仕事して来ました抱いてください』。何それ、でしょ。しかも仕事って俺に近づいたやつの制裁だしー?誰が頼んだよ、って話」

「で、で、抱いたって…」

「ああしつこいから、滅茶苦茶にしてやろうとしてー。もう鬼畜なんて俺に合わないのに頑張っちゃった!有栖が望むなら今からでもー…」

「あほか!」


ばちん。正面の幸明の額を叩くと食堂のあちこちから悲鳴があがるが、今の有栖にはそれどころじゃなかった。


「あのな、愛ノ馬が悪いのもある!だけどお前がちゃんと叱って、悪いと教えないからってのもあんだろ!」

「っ…なんで」

「自分を勝手に好きで何しようと、幸明は構わない、それじゃ愛ノ馬に失礼だ。間違えた愛情表現にもなるだろ……それに、いや、これは良いや」


言葉を濁した有栖を見ながら、幸明はぼんやり過去を振り返り、顔をしかめる。
自分は悪くない。あれだけ拒絶したのにあいつがしつこい程に好きと言い、頼んでないことをして、勝手に俺のためと言う。悪態をついても嫌悪感丸出しにしても通じなかった。うんざりしていたのは俺だけじゃなく、周りもだ。
なのに、なのに…、


「俺が、悪いのか?」


有栖は何か抜けたように問われて、困ったように首を振った。



お互い様なんじゃないかと、思う。
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