無題(17/21)
食堂は異様なほどシンッ…として俺達をみていた。
俺の顔があがらないのは汗が凄いから。だって胃が痛すぎるし、何より言葉がだせなくて焦る。
そしてそんな俺を見兼ねて、有栖が口を出してくれたんだと思う。
「こいつは、そんな卑怯な真似はしない。俺が信じるって決めたんだ、幸明も信じろ」
「有栖の頼みでも無理だなー。だいたい、有栖はもっと人を疑うべきだ」
「嫌だ。疑って損するより、信じて損する方がおれはマシだ」
「っ…ああもう有栖は純粋すぎるんだよー!」
「は?っちょ、うわ!!」
横の椅子がガタリとたおれて俺の足の指に直撃する。痛っ。
わざとかと思って顔をあげるとただ愛しそうに有栖を抱き締める柊幸明の姿があり、ああわざとじゃないのか。そう納得したがそれならそれで更に質が悪い。
「……」
「……?」
視線を感じて、ぎゃいぎゃい騒ぐ2人から目を逸らしてそちらを向けば“皇紀”と呼ばれてたような…気がする人。
不良だとしか言い様のない身形で紅い髪、短いから耳のピアスがジャラリと音を立てそうなほど主張されている。タレ目がちなのだろうが細められるとガンづけられてるみたいで恐い。
てゆうか、口を開く気は、なさそう。
でも睨まれてるだけというのも困るから止めてほしい、ああほら目ぇ反らすタイミング無くしちまった。汗やばい。
「皇紀先輩、あんま愛ノ馬睨まないでやってくださいよ」
―…直ちゃん?
不思議に思って直ちゃんをみると、額の汗をついてきた手拭きで拭ってくれた。
けどそれ直ちゃん使ったやつだろ。いや、最初手を拭いただけだし汚いともあんま思わないけど、ちょっと気になるよ。
「大丈夫ですから、皇紀先輩」
「そうか」
「俺が言ってんですよ」
「…調子に乗るな」
「ははっ、あ、お前らにも紹介しとくよ高崎皇紀先輩。生徒会副会長でー…僕の仲間」
「「仲間?」」
啓太と俺の台詞がかぶる。
有栖と柊幸明はいまだに放せ放さない談義をしているらしく、アウトオブ眼中だ。
「そ、秘密な仲間だよ。愛ノ馬」
なぜか俺だけに笑顔をむけ、さっきまで呼んでいた名前で呼ばない直ちゃんに目を開く。
でもすぐに眉を八の字にしてそっかと顔を緩めた。親友とかよりなんだか仲間っていうのが妥当に思えたのは、二人の間に流れる空気が少し不思議だったから。
仲が良いとは違う、けれど同じな空気。
ちゃんと身体も弧夏時代の友達を思い出して、少しだけ羨ましくて笑えた。
「…っ」
「直、俺は無視か」
「……啓太、も、俺ちょっと皇紀先輩と話したいからもう帰るわ」
かたん、食器を乗せたトレーを持ち上げた直ちゃんはフォークを落とす。
静かに拾い、俺をみた。
「直ちゃん?」
笑ったまま直ちゃんを呼ぶと、彼は一瞬目を逸らしてから仕方無しというように照れ笑いした。
「俺がいないときに啓太や有栖に襲われないでね」
「ぶふっ!違うぞ俺はそんな願望ないぞ直!!」
「どうだか」
そうしてトレーを片しに行った直ちゃんに、俺の後ろにいた高崎皇紀先輩はついていく。
確かに直ちゃんは中性的で女っぽい顔ではある。けれどたまに耳にかかっていた髪がなびくと見えるピアスが、似合わないほどにゴツかった。それを思うと高崎皇紀先輩のように恐そうな人といても不思議ではないかな。
しおり