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 無題(16/21)



どこをどうとったら、そう思われたのか。だって俺は富由らしく柊幸明の団に入ったわけだし、今もそう言ったのに。
そんな疑問は有栖も一緒だったのか「どうして今ので?」と首を傾げた。


「いや、富由は今まで『柊様柊様』って騒いでたから…様付けも無いし、嬉しそうでもないなんて珍しくて」

「そう、か…それもそうだな。俺自身は柊幸明を好きとかじゃない、でも富由は大好きだったんだ。いつ富由が帰ってきても良いように柊幸明の団に入ってるから早く富由帰ってきてほしいよな〜っ」


なんだか嬉しくて眉を八の字にして笑う。
富由はいろんな人に知られてたんだ。それが良くても悪くても、こんなにも沢山の人に存在を知られていて“柊様が大好きだ”と認識されている。それが何故か嬉しかった。

まあ今3人が不愉快そうに顔をしかめたのは、富由に悪い印象が大きいからだろう。なんか俺からしたら富由って放っとけないタイプなんだけど。


「弧夏は様付けしないのかよ」


啓太がBランチのエビフライを食べながら言うから、素直にしないなあと答えた。
自分もエビフライに手をつけてから、柊幸明の態度を思い出して少しへこむ。やっぱり他人からの拒絶は良いものじゃない。



「―…てめえ、何やってんだ」



後ろから聞こえた声に違和感。

まるで俺に言われてるようだが違うよな?


「あ…皇紀、幸明」


げえ、と顔をしかめたのは俺の隣に座る有栖だった。
なんとなく自分も振り返ってから、すごくすごく後悔したのは言うまでもない。

「やっぱ、まだ俺に未練でもあんの?」

物凄く目を細めて塵でも見るような嫌悪感丸出しな表情。
綺麗な顔だからこそ、さらに恐いと思わせる柊幸明の存在にひくりと頬がひきつるのを感じる。

「あんなこと言って、良いように有栖に近付いて、これがお前の手口ってわけ?」
「おい幸明っ、」
「有栖にもあれだけ言っただろ。愛ノ馬は最悪だよ、己の欲望に忠実で俺の意見なんてガン無視。なに?やさしー有栖と仲良くなってから誰か使ってヤるとか?精神攻撃なんてさすが…ヘドがでる程最低な案だ」


頭が反論の言葉を並べる反面、富由の制裁とやらをちゃんと知らなかった俺は固まる。
何も知らないから何も言えない。富由がどこまで酷いことしてきたか分からないと、反論のしようがなくてただ言葉を詰まらせた。小さい「つ」がとにかく口から溢れ、反応に困るから俯くと嘲笑われる。


「図星、か…だろうなー。お前はどこまでも俺を好きだもんよ。気持ち悪ぃくらいに」


柊幸明は、富由がとても自分を好きだと知ってるんだ。
それだけは救われた気がした。でも嬉しいと思っているなんて可笑しいことで、今は何か反論しないといけない。

なんでだろう、胃が、痛い。


「―…違ぇよ!!」


有栖が叫んだ声が、身体に響く。

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