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 無題(5/21)



学食は自分のカードをかざせば支払いができるらしく、富由はいつも戸惑いを感じながらもカードを使っている。
金持ちなのだろう。
だいたいこの学校自体、学園と呼ばれ、色んな設備が備わっている。半年の間にいろいろと見て回ったが、未だに回りきれてない。そんなものなんだろう。

目の前のオムハヤシに手を合わせ、ふと英次をみるとこちらを凝視しているのがわかりスプーンを持ち上げる仕草を止める。


「なに」

「いや別人みたいだなと」


それは前から何度もきいてる。

それなのに改めて言われると可笑しくて、眉をハの時にして「ああそ」と笑う富由。
前の富由ではないのに英次がずっと一緒にいるのはこれだった。変わりのない笑み。少し違うのは、笑いどころだけだが。


“ごめんな富由、富由にばっか任せて…”

“いいよ別に、柊様のためだから”


制裁をして汚名を被っても、富由に謝るといつも柊様のためだからと笑っていた。
今の富由は柊様のためだなんて言わない。それを思うとジリッと胸が焦がれ、今の富由に嫌悪感も沸くのだが…。


「本当に何だよ、食べたいのか?ほら」

「え、要らね…」

「もうスプーン差し出してんだから食えよ、俺が収集つかないだろーが」


ぱくり、仕方無しに富由のスプーンからオムハヤシを食べる。
満足そうに美味しいだろ、と問う富由に頷けばオムハヤシとパスタとビフテキがどうたらこうたらと喋り出すから目を細める英次。

いつもなら柊様談でもするところだ。

と、言いたいところだが、いつもとはいつだろう。
もうここ最近、富由とは柊様について語らず他のことをよく喋るようになっていた。知らなかった一面や意外とお喋りな富由は、柊様を語るときより自然体なのかもしれないと英次は思いだしている。



「こんにちは、愛ノ馬君、須和君」



お口が止まらない富由と英次のもとに、二つの影が寄る。
フッと口を閉じた富由は、横に立つその影を見上げて瞬きを数回した。


「あ、こんにちは…隊長、副隊長」

「にちはー」


富由が少し頭を垂らすと、隊長もとい白菊春は崩さない笑みのまま「隣良いかな」と問ってくる。

(めずらしい)

富由の思いはこれだけだったので、どうぞと隣の椅子を引けば副隊長もとい侑都が宇宙人でもみたかのように驚いた。もちろん英次もだが、春はにこにこしたままお礼を言い富由の隣に腰を落とす。
はたして春はこんな人だっただろうかと富由は入れ替わったばかりの頃を思い出すが、違うと言い切れてしまう。


“あの隊長”
“また抗議かな?受け付けないって言ったよね僕。それとも理解しきれないのなら君にも制裁を加えても良いんだけど”


一言に対しそんな台詞。

そして何よりも富由への嫌悪感を隠すことなくありありと見せ付けて喋る隊長に、ああ話さない方が良いのかと項垂れた富由だった。


――それから会議で挨拶を交わす程度だったのに。



「ねえ愛ノ馬君、最近3年に顔出さないね」

「3年に、ああ、すみません…」

「いや謝るところじゃないよ。こちらとしても良い傾向だと思ってるし、ただ、ね」


春の意味深な台詞に疑問符を浮かべていると、侑都が舌打ちをする。


「お前らが何か企んでて来ないんじゃないかって疑ってんだよ」


あまりにストレートな疑惑を侑都にぶつけられ、今回なんの企みも無い英次はガタリと立ち上がる。

富由はそんな英次に驚きつつも侑都の目を見返した。


「企てて無いです」


頬に影を落としていた睫毛を更に持ち上げるよう目を見開くのは侑都だけではなく、春も英次も同じようすだ。
そんな3人をいっぺんに見れば変な光景で、富由は苦笑というのが似合う笑みを浮かべた。


「前に、制裁をしていたことは謝って許されないかもしれないけど。馬鹿だなって、思うけど。これからはするつもりなんて無い、しない」


富由の居場所はちゃんと残したい。

富由がこの身体に戻ったとき困らないよう、ちゃんとしていたい。
でもそれが間違った形で居るのなら残さなくて良いんじゃないかと今の富由は思ってる。第一今の富由には制裁をする理由も度胸もないのだから。できないと言うのも過言ではないのだが。




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